倍返しする話
黒魔導士編は今回で終わります!
終わりですので、今回も少し長めです。
最後までお付き合いくださいませ。
改装オープン当日。
ビラを数日前から配っていたおかげで、客は全盛期と同じくらいやって来た。
常連は店の内装ががらっと変わったことに戸惑い、新規は異国を感じられる店だと感想をもらした。
期間限定料理の方は、ガネの人々の味覚に合わせたということもあり、皆が「美味い」と言ってくれた。
物好きな人は、アレンジしていないものと食べ比べ、その違いに驚いていた。
「好調だな」
期間限定の料理を提供しているうちは、客足が減ることはないだろう。
閉店の時間が近づき、客がいなくなったところで目的の人物がやって来た。
「いらっしゃいなの」
「クロッカスさんと――」
「例の人」
「二名様、席まで案内いたします」
マクロが黒魔導士とやせ細った中年の男を案内する。
外見から見るに、料理にこだわりがある奴ではないのが分かる。
俺の偏見だが、料理店の評価をする奴はふくよかな体型の人が多いと思っている。
ネズミは中肉だが、ナッツ野郎行きつけの酒場の料理長はふくよかな体型をしているからな。
「記事を書くんだったら、料理食べてから言いなさいよ」
「料理食べましたよ。食べたからあの評価なのです」
「は? 星一つになるわけないじゃん。別の記事を担当してるライターは、ここは星四相当の店だって言ってたわよ」
「それ、誰です? 証拠は?」
「そりゃ、口だけだけど……」
「ないんですね。なら、私が星一つと評価しても文句は言われないでしょう」
「くそ……」
会話を聞くに、相手は理屈ぽい性格をしているようだ。
反論できない時にすぐ「証拠は?」と誤魔化すところが、特徴を表している。
証拠を目の前に突き出すのが効果てきめんなのだが、こいつはすぐに言い訳しそうだな。
「おまたせしました」
マクロが注文した料理をテーブルに置く。
これはネズミの自信作だ。
「はあ? ブルータの料理?」
そいつは料理を食べずに文句を言う。第一声のあとの文句は聞くに堪えない内容で、黒魔導士がまたバチバチと雷魔法があふれ出していた。
「あんた、グルメ評論家失格だわ」
黒魔導士が立ち上がった。
「食べてから文句を言いなさいよ! 一口も食べてないじゃん」
「ああ、これから食べるんですよ」
男は料理を食べた。文句を散々言っていたせいで、料理が冷めているだろう。
あれはアツアツとしたドロっとしたチーズを味わうのが売りだというのに、冷めていては価値が下がってしまう。
「ああ、ダメですね。ブルータの料理の特徴を掴んでいない。星一評価になるのも当然です」
「はあ? あんたがべらべらしゃべってたから料理が冷めたんじゃない」
「私にああいっておきながら、あなたは食べないんですね」
「あんたのツバがたくさん入った料理、食べれるかっての!」
黒魔導士の言う通りだ。
出来立ての料理を前にしているのに、それを文句で冷まし、挙句の果てにはまずいと言い放った。
こいつ、まともな評価も出来ないグルメ評論家だ。
素人の俺でも分かる最低な奴だ。
「くそ、弓矢でも持ってくればよかった」
奴を的にしてやりたい。そう思うくらいに、俺の怒りは頂点に達していた。
だが、奴を懲らしめるのは黒魔導士だ。役割を奪ってはいけない。
「それでは。お代はあなたが誘ったのですから、もちろんあなた持ちですよね」
「……それで縁が切れるなら、払うわよ!」
黒魔導士は金をテーブルに叩き付けた。
ナノがそれを受け取り、お釣りを渡す。
例の男がナノを引き留める。
「君、可愛いね。私、こういうものなんだけど、今度食事に行かない」
「ごめんなさいなの」
「私ね、グルメ業界では顔が広いんだよ。君の態度次第で評価を――」
「……さいってー」
ナノを口説く男の態度に、黒魔導士がキレた。
杖を男に向け、呪文を唱えた。
男の身体はカウンターへ吹き飛ばされた。
「なんですか、暴力はいけませんよ」
「あったまきた。編集長!」
別の個室から、老婆が現れる。彼女の顔は知っている。あのグルメ雑誌の編集長だ。
「辛口評価コーナーを貴方に任せていましたが、私は間違っていたみたいですね」
「ま、待ってください。私は――」
「この店でのあなたの態度、隣の席で聞いていましたよ」
「う……」
「料理を粗末にした態度、好みの従業員がいたら権力を誇示して強引に誘う。正当な評価をしているとは思えません」
「それはこの店の料理が本当にまずいだけで――」
「今月から、あのコーナーを降りてください。二度と私の前に現れないで」
編集長は男にそう吐き捨てると、店を出て行った。
男は「待ってください、それだけは!」と叫びながら編集長を追いかけて行った。
それを見た黒魔導士は、誇らしげな顔をしている。
「ふふん、これで不当な評価はなくなるでしょ。計画通りだわ」
編集長がこの店に居合わせたのは黒魔導士の作戦か。
男が評価を変えることはないと踏み、別の方法でダメージを与える作戦に切り替えていたようだ。
「じゃ、マクロまた来るね」
「ありがとうございます。このお返しはいつか――」
「いいのよ。あたしの罪滅ぼしだし」
なんだその言い方。
黒魔導士の発言に気にかけていると、彼女はカウンターから顔を出し、俺を見つけた。
「ナッツの件、ごめんね! あれ、私が食べちゃったの!!」
「……お前か!!」
「ごめんごめん、じゃあ、また来るね」
「ふん!」
俺に罪の告白をして、黒魔導士は店を出て行った。
しばらくして、風の噂で黒魔導士はグルメ評論家へ転職したとか。
それが分かったのは、グルメ情報誌の辛口評価コーナーの担当者にクロッカスの名前が書かれていたからだ。その記事にまた『ライン』が取り上げられていた。
評価は星五。そこには「私のお気に入りの店」と書いてあった。
次話は明日更新します。
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