思考錯誤する話2
「本場の料理とどう違うのか、食べてみたいじゃない」
「そういう考えもあるんだな」
アンネの意見は参考になる。
食べ比べできるように両方提供してみるのもありかもしれないな。
「やっぱり、同じ料理なのに味と違う。面白いわね」
ネズミに作ってもらった料理を一口食べ、アンネが感想を漏らした。
旨いものもあれば、不味く感じるものもある。期間限定だから、それを楽しんでもいいのか。
「……あのー」
俺とアンネの会話にマクロが加わった。
「リベさんには黙っていたのですが、もう一人呼んでるんです」
「……クロッカスか?」
「はい」
心当たりがあるとしたら、黒魔導士しかいない。
黒魔導士とはパーティを追い出された因縁がある。
店長をしていることを知られたくないので、俺は厨房へ姿を隠した。
カランカラン。
「マクロ、きたよ~」
黒魔導士がやってきた。
「あら、お客さん」
「はい。意見は一人でも多く聞いた方がいいと思いまして」
「そうなの。じゃあ、私は帰るわね」
「はい。ご意見ありがとうございました。参考にします」
アンネは店を出て行った。家へ帰ったのだろう。彼女と入れ替わりで、黒魔導士がカウンターの席に座る。
「はい! 試作メニューなの」
ナノが、黒魔導士の前に試作メニューを置いてゆく。
どんどんと大皿が置かれ、黒魔導士は戸惑っていた。
「……小皿頂戴」
「わかったなの」
これを全部平らげられるのはアンネしかいない。
小皿をナノから貰った黒魔導士は、大皿から料理を少量とり、味わってゆく。
すべての料理を平らげたところで、感想を述べた。
「全部工夫されてるね。パーズとブルータの郷土料理をガネ向けに上手くアレンジされてるよ」
「ありがとうございます」
「期間限定だし、全種類平らげようと何度も足を運ぶお客さんもいそう」
アンネとは違って、黒魔導士はグルメ情報雑誌で書かれているような分析をする。
こいつ、攻撃魔法の他に才能があったんだな。
「内装も、半個室に変えてみたんだね。雰囲気もブルータ寄りにしてて異国感が出てるよ」
「ナノ、頑張ったの!」
「ただ、これじゃメニューを注文する時大変だね。席一つ一つに、メニュー表を置いたほうがいいかも」
「なるほど……」
「接客はマクロとナノしかいないから、テーブルに注文票を置いて、書かせると手間が省けるんじゃない」
「ふむふむ……」
料理の方に意識がいっていて、内装を変えたことによるデメリットについて考えていなかった。
黒魔導士の言う通り、半個室にしたら、壁に貼っているメニューが見づらくなる。それに、注文を取るナノとマクロの負担も多くなるため、それを軽減させる代案を述べてくれるのは助かる。
黒魔導士のアドバイス通りにしてみよう。
「私はそれくらいかな~。まー、ガネの町の人がパーズの町に行くってそうそうないし、そのまま出すよりかは、ガネの人達の味覚に合うようにアレンジしたほうが売れるよ。本場の料理を食べたいもの好きがいたら、別メニューとして提供してみるとか、じゃないかな~」
黒魔導士もアンネと似たようなことを言っている。
一部の料理は、そのまま提供できるようにするか。
「あとあと、あの記事書いた奴、私知ってるからさ。オープンした時に、そいつ連れて来るね」
「ぎゃふんと言わせてやるの」
「あー、あいつ、金貰えば適当な記事書いちゃうからさ、ここの料理食べてないと思うよ」
「え……、なのに、あんな記事を?」
「知名度だけはでかくてさ~、それで私のお気に入りの店、いくつか潰されてるから――」
黒魔導士の身体からバチバチと小さな雷魔法があふれ出ていた。
これは黒魔導士が怒っているときだ。
「ここいらで懲らしめなきゃね」
でたらめな記事書いた奴……、死ぬな。
黒魔導士の態度を見て、俺はそう思った。
次話は明日投稿します。
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