俺の話2
元々俺は料理が好きだった。
特に罠で捕らえた獲物を解体して食らう”ジビエ”は特に。
だから、狩人から料理人と役割が変わることに抵抗はなかった。
日が暮れ、夕食の時間になる。
皆で分担して野営の準備を始める。リーダーはテントの設営、黒魔導士と白魔導士は魔物が入らないよう結界を作っている。その間、俺は火を起こし、皆の料理を作る。
今日のメインはさっきの戦闘で得たオークの肉だ。
生肉に塩をふりかけ、焼いただけのシンプルな料理。
主食は茹でたイモ、副菜は冒険中に採れたアスパという野草を油でいためて添える。
四人分の調理が終わったところで俺は皆を呼んだ。
「さっきの肉を使った料理なのか?」
肉を見たリーダーが俺に問う。
俺は「そうだ」と頷いた。
魔物の肉なので、皆の反応は悪い。『魔物食』の著者は旨いと評価しているが、俺含め誰もオークの肉を口にしたことはない。
ここは調理した俺が一番に食べなければ――。
「すんごく、おいひー。ウシに似た味がするよ。見た目ブタなのに不思議だねっ」
一口サイズに切り分け、いざ口に入れようとした時、黒魔導士が肉の感想を述べた。続いて俺も食べる。味は黒魔導士の言う通り、ウシ肉に近い。
旨いことが分かると、リーダーと白魔導士もそれを食べる。
皆、空になるまで会話もせず、夢中で肉に食らいついていた。
「あいつらの肉が上手いのは意外だったわ」
さっきまでゲテモノの肉は旨いのかと疑っていたリーダーだが、旨いのものだと分かれば俺の料理に満足する。やはり、今後もこいつの文句は無視していいな。
今回は初ということもあり、一食分の肉しか刈り取ってこなかったが、次回は保存食に加工できるよう多めに獲ってくるか。
「ウシの肉と同じ味がしたが、舌や内臓も同じなのだろうか……」
「い、いや、それ以上試さなくていい」
俺の呟きにリーダが突っ込む。
あとで、調べたが『魔物食』によると他の部位も絶品なのだという。先人は俺が考えていることも試している。さすが参考書だ。
「よし、寝るか」
「そうね」
「ですね」
食事を終え、一行は明日に備えて眠る。
俺は、まだ眠くなかったので「後で行く」と告げて、一人焚火を眺めていた。
ガサガサ。
後ろから物音が聞こえ、俺は物音の方へ体を向けた。近くに置いてある弓矢を持った。
魔物は黒魔導士と白魔導士が結界を張っているから入ってこない。入ってくるとしたら、二人の結界を敗れる程の大物か、あるいは――
「キュー、キュッ」
危害のない動物である。
白いモフモフの体毛に包まれた、俺の手の平ほどしかない小さな動物。
野生の動物が火に近づいてくるなんて珍しい。
俺は舌でチッ、チッと鳴らし、白いモフモフを呼んでみた。
モフモフはつぶらな瞳をこちらに向け、そろりそろりと俺に近づいてくる。
俺は白いモフモフに手を差し伸べた。
白いモフモフは俺の手の臭いをクンクンと嗅ぎながら、手にひょいと飛び乗った。
手の平の中で毛づくろいをしたり、周りをキョロキョロ見渡している。人慣れしているみたいだ。
「可愛い」
旅をしてから動物に触れる機会はない。
白いモフモフを眺めているだけで癒され、一日の疲れが吹き飛んでゆく。
「キュー」
白いモフモフが俺をじっと見つめている。何かをせがんでいるようだ。
大体、こういう顔をするときは食べ物が欲しい時だ。
俺は荷物の中からナッツを取り出した。これはリーダーのおやつである。アイツは間食の時間に決まってナッツを適量食べる。旅に出る際にナッツは余分に買ってあるので、こいつにあげても大丈夫だろう。
「ほれ、食べな」
俺はナッツを白いモフモフに与える。
白いモフモフはそれを掴み、はむはむと食べた。一つ目をすぐに平らげ、二つ目を俺に要求する。
二つ目を与えると白いモフモフはそれをほっぺたに詰め込んだ。
こいつは頬袋があるのか。いくつ入るのかな。
俺は三つめ、四つ目と白いモフモフに与える。八つ目で頬袋がパンパンになった。その姿も愛らしい。
「ギュー、ギュっ」
頬袋のせいでこもった泣き声になった白いモフモフは、空腹を満たすと俺の手から離れ、その場からいなくなってしまった。
懐いていると思っていたのに、餌を貰ったらすぐに逃げていった。現金な奴だ。まあ、癒しを貰ったのだから、正当な対価なのだろうか。
「懐いてたら、飼いたかったな……」
俺は願望を呟いた後、明日に備え、眠りについた。
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第3話は明日投稿します!
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