問題が解決する話
今回で”ナッツ野郎編”が終わります。
そのため、いつもより多めの文字数ですが、お付き合いくださいませ。
「……ということで、接客として働いてくれないか」
俺はアンネに頭を下げた。
アンネは俺の話を聞き、うんうんと頷いていた。
「事情は分かったわ。明日から働くわね」
「すまん、頼む」
「いいのよ。久しぶりに接客やりたかったし」
「……」
アンネに働いてもらうことに俺は心が傷んだ。
アンネと結婚する際、この人に苦労はさせないと心に決めていたからだ。
俺の肩にアンネの手が優しく置かれた。
「私、リベに頼られて嬉しいのよ」
「だがーー」
「夫婦はどんな困難も支え合って生きてゆくものでしょう?」
「それとこれは違う」
アンネは俺の手を包み込むように握った。
俺はアンネの顔を見る。彼女は瞳を見開いて俺を見つめていた。彼女の瞳はまるで、新しいおもちゃを買ってもらった子供のようにキラキラしていた。
「それに、私に考えがあるの!」
「え?」
「ナノちゃんを接客に復帰させる方法、思いついちゃった」
「ほんとか?」
「私に任せて!」
アンネは問題を解決させる方法を思いついたらしい。
だが、その方法を俺に教えてはくれなかった。
☆
翌日、『ライン』に制服を着たアンネがいた。
元接客業だったことから、マクロに簡単なレクチャーを受けただけで、仕事を完璧にこなした。
流石、俺の妻。働いている姿も素敵だ。
「リベ! ぼーっとしてないで働くの」
「ああ」
調理場のナノはアンネとは対照的で、役立たずだった。
なんでも強火で調理してしまうので、肉や魚が黒焦げになってしまう。味付けも「これかなあ」と呟きながら塩と砂糖を間違えたりする。
そんな料理が美味しいわけがない。
早くナノを接客に戻さないと、廃棄する食料が増えてしまう。食べ物を粗末に扱うのは悪いことだ。
「あいつ来たの!」
ナッツ野郎が来店してきた。
アンネが対応する。
ナッツ野郎はキョロキョロと辺りを見渡す。
ナノを探しているようだ。
「あれー? ナノちゃんは?」
「ナノはしばらく店には来ません」
「ええ!? 辞めちゃったの」
「家庭の都合でしばらくお休みしております」
「それで、あんたが代役?」
「ええ。さあ、こちらへどうぞ」
「……適当に食べて帰るか」
ここまでは俺の作戦通り。
ナノがしばらくこの店に来なければ、ナッツ野郎が来店することもない。
そうなれば客も自然にここへ戻って来る。
だが、アンネは別の事を考えている。
それは一体――。
「あのー、レビーさんですよね」
一人の女性客が、一人でワインをちびちび飲んでいるナッツ野郎に声をかけた。
ナノほどではないが、小奇麗で顔が整っている女性だ。
「お隣いいですか」
「……どうぞ」
ナッツ野郎は女性の誘いを受けた。その顔が真っ赤になっており女性慣れしていないのが見え見えだ。
「あいつ、デレデレしてるの。むかーっとするの!」
「ナノ、前に出るんじゃない。これはアンネの作戦だ」
「……分かったの」
ナノは俺の言葉に従い、女性とナッツ野郎の様子をうかがう。
俺も二人のやりとりを観察していたかったが。
「リベ殿、我の手伝いをしてくれんか。今日は思ったよりも客が多い」
「はい」
ネズミの手伝いで忙しく、二人のやりとりを終始見る事が出来なかった。
出来立ての料理をアンネとマクロに渡す、注文された料理を作る。
その繰り返しで終業時間まで途絶えなかった。
「お疲れさん」
「はあ……、疲れた」
「リベ! アンネは賢いの!」
「アンネが聡明なのは当たり前だ。で、あいつと女はどうなった?」
「二人で店を出て行ったわ」
「接客しながら見ていたんですが、お二人ともいい雰囲気でしたね」
「あのままくっついちゃえば、ナノ、接客に戻れるの!」
「あ、なるほど……」
皆の話を聞いて俺はアンネの作戦内容を理解した。
ナッツ野郎に女性をあてがえばいいのだ。そうすればナノに執着することもなくなる。
ナノが接客に復帰できるという算段だ。
俺の妻、賢過ぎないか。
「よく、あいつに気がある女を探せたな」
「ふふ。あの人ガネの町で最強の戦士でしょ? そんな人とお付き合いしたい女の人は山ほどいるわ」
「へえ……」
「そんな子に私がちょっと背中を押しただけよ」
「なるほど」
「あなたは私が捕まえちゃったけど!」
アンネの突然の惚気に俺は面喰った。
可愛い。超可愛い。早く寝室へ行っていちゃいちゃしたい。
「マクロ、営業終わっただろ。俺の家につなげてくれないか」
「はい。あ、その前に――」
俺とアンネの前に一つの袋が置かれた。
はちきれんばかりに何かが入っている。
「問題を解決してくれたので、約束の報酬です」
「いや、まだあいつがあの女と付き合うと決まったわけじゃ――」
「そうなったら、別の女性をあてがえばいいでしょう。山ほどいるんですし」
マクロ、笑顔で言っていいセリフじゃないぞ。腹黒い発言から、彼の新しい一面が見えた。
「解決策が分かったんです。リベさん、アンネ師匠、受け取ってください」
ん、師匠? アンネの呼び方変わってないか。
アンネはマクロから報酬を受け取る。
「アリガトウ、マクロちゃん」
アリガトウと言ったため、アンネの身体がふらついた。転ぶ前に俺が彼女の身体を支える。
「はい! では、また明日」
「またな」
俺は店の出口のドアを開け、家へ帰った。
次話は明日投稿します。
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