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問題が解決する話

今回で”ナッツ野郎編”が終わります。

そのため、いつもより多めの文字数ですが、お付き合いくださいませ。

「……ということで、接客として働いてくれないか」


 俺はアンネに頭を下げた。

 アンネは俺の話を聞き、うんうんと頷いていた。


「事情は分かったわ。明日から働くわね」 

「すまん、頼む」

「いいのよ。久しぶりに接客やりたかったし」

「……」


 アンネに働いてもらうことに俺は心が傷んだ。

 アンネと結婚する際、この人に苦労はさせないと心に決めていたからだ。

 俺の肩にアンネの手が優しく置かれた。


「私、リベに頼られて嬉しいのよ」

「だがーー」

「夫婦はどんな困難も支え合って生きてゆくものでしょう?」

「それとこれは違う」


 アンネは俺の手を包み込むように握った。

 俺はアンネの顔を見る。彼女は瞳を見開いて俺を見つめていた。彼女の瞳はまるで、新しいおもちゃを買ってもらった子供のようにキラキラしていた。


「それに、私に考えがあるの!」

「え?」

「ナノちゃんを接客に復帰させる方法、思いついちゃった」

「ほんとか?」

「私に任せて!」


 アンネは問題を解決させる方法を思いついたらしい。

 だが、その方法を俺に教えてはくれなかった。



 翌日、『ライン』に制服を着たアンネがいた。

 元接客業だったことから、マクロに簡単なレクチャーを受けただけで、仕事を完璧にこなした。

 流石、俺の妻。働いている姿も素敵だ。


「リベ! ぼーっとしてないで働くの」

「ああ」


 調理場のナノはアンネとは対照的で、役立たずだった。

 なんでも強火で調理してしまうので、肉や魚が黒焦げになってしまう。味付けも「これかなあ」と呟きながら塩と砂糖を間違えたりする。

 そんな料理が美味しいわけがない。

 早くナノを接客に戻さないと、廃棄する食料が増えてしまう。食べ物を粗末に扱うのは悪いことだ。


「あいつ来たの!」


 ナッツ野郎が来店してきた。

 アンネが対応する。

 ナッツ野郎はキョロキョロと辺りを見渡す。

 ナノを探しているようだ。


「あれー? ナノちゃんは?」

「ナノはしばらく店には来ません」

「ええ!? 辞めちゃったの」

「家庭の都合でしばらくお休みしております」

「それで、あんたが代役?」

「ええ。さあ、こちらへどうぞ」

「……適当に食べて帰るか」


 ここまでは俺の作戦通り。

 ナノがしばらくこの店に来なければ、ナッツ野郎が来店することもない。

 そうなれば客も自然にここへ戻って来る。

 だが、アンネは別の事を考えている。

 それは一体――。


「あのー、レビーさんですよね」


 一人の女性客が、一人でワインをちびちび飲んでいるナッツ野郎に声をかけた。

 ナノほどではないが、小奇麗で顔が整っている女性だ。


「お隣いいですか」

「……どうぞ」


 ナッツ野郎は女性の誘いを受けた。その顔が真っ赤になっており女性慣れしていないのが見え見えだ。


「あいつ、デレデレしてるの。むかーっとするの!」

「ナノ、前に出るんじゃない。これはアンネの作戦だ」

「……分かったの」


 ナノは俺の言葉に従い、女性とナッツ野郎の様子をうかがう。

 俺も二人のやりとりを観察していたかったが。


「リベ殿、我の手伝いをしてくれんか。今日は思ったよりも客が多い」

「はい」


 ネズミの手伝いで忙しく、二人のやりとりを終始見る事が出来なかった。

 出来立ての料理をアンネとマクロに渡す、注文された料理を作る。

 その繰り返しで終業時間まで途絶えなかった。


「お疲れさん」

「はあ……、疲れた」

「リベ! アンネは賢いの!」

「アンネが聡明なのは当たり前だ。で、あいつと女はどうなった?」

「二人で店を出て行ったわ」

「接客しながら見ていたんですが、お二人ともいい雰囲気でしたね」

「あのままくっついちゃえば、ナノ、接客に戻れるの!」

「あ、なるほど……」


 皆の話を聞いて俺はアンネの作戦内容を理解した。

 ナッツ野郎に女性をあてがえばいいのだ。そうすればナノに執着することもなくなる。

 ナノが接客に復帰できるという算段だ。

 俺の妻、賢過ぎないか。


「よく、あいつに気がある女を探せたな」

「ふふ。あの人ガネの町で最強の戦士でしょ? そんな人とお付き合いしたい女の人は山ほどいるわ」

「へえ……」

「そんな子に私がちょっと背中を押しただけよ」

「なるほど」

「あなたは私が捕まえちゃったけど!」


 アンネの突然の惚気に俺は面喰った。

 可愛い。超可愛い。早く寝室へ行っていちゃいちゃしたい。


「マクロ、営業終わっただろ。俺の家につなげてくれないか」

「はい。あ、その前に――」


 俺とアンネの前に一つの袋が置かれた。

 はちきれんばかりに何かが入っている。


「問題を解決してくれたので、約束の報酬です」

「いや、まだあいつがあの女と付き合うと決まったわけじゃ――」

「そうなったら、別の女性をあてがえばいいでしょう。山ほどいるんですし」


 マクロ、笑顔で言っていいセリフじゃないぞ。腹黒い発言から、彼の新しい一面が見えた。


「解決策が分かったんです。リベさん、アンネ師匠、受け取ってください」


 ん、師匠? アンネの呼び方変わってないか。

 アンネはマクロから報酬を受け取る。


「アリガトウ、マクロちゃん」


 アリガトウと言ったため、アンネの身体がふらついた。転ぶ前に俺が彼女の身体を支える。


「はい! では、また明日」

「またな」


 俺は店の出口のドアを開け、家へ帰った。 

次話は明日投稿します。


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