酒場で情報を集める話
「らっしゃい、お、リベじゃねえか」
「おっちゃん、ビールと適当なつまみをくれ」
「あいよ、席は相席な」
「ああ」
俺は酒場にいた。
昨日、ナッツ野郎はナノにこれでもかと言うほどにしつこく言い寄っていた。
まばらに客が訪れてはいるものの、マクロ一人で対応できるくらい。
マクロが対応している客は全て女性客。
男性客は誰も来ない。
女性では食事量も少ないし、ワインをそれほど飲むわけでもない。
売り上げが下がるのも当然だ。
「なあ、レビーが来ねえんだが、あいつのこと何か知ってるか?」
「いや……」
「急に来なくなってな、一緒に冒険してるリベなら何か知ってると思ったんだが」
ビールとつまみの代金を支払った際に、店主から声を掛けられた。
レビーというのはナッツ野郎の名前だ。
あいつは冒険で稼いだ金をここに落としてくれる上客だったからな。
急に来なくなったら、店の人達も心配になるか。
「いつ頃から来ないんだ?」
「そうだな……、半月前かな」
「半月前か……」
ナッツで喧嘩した日だ。
俺がナノを助け、看病されている間にナッツ野郎が『ライン』に訪れ、ナノに惚れたという線が濃厚だな。それ以降は冒険で出掛ける以外はあの店に入り浸っていると。
「実は、俺、あいつと大喧嘩したんだ。だから、全く知らん」
「そうか。まあ、お前ら若いからすぐに仲直り出来るさ」
「ありがとう」
気遣ってくれる店員に礼を言い、俺はナッツ野郎とよくつるんでいる常連客二人の隣に座った。
冒険から帰って来た際、ナッツ野郎に誘われてこの店に来ていたので、俺の顔は皆覚えている。
「リベか、久しぶりだな」
「家族はいいのか?」
二人は俺の姿を見つけるなり、声を掛けてきた。
ナッツ野郎にもこの二人にも”家族”とぼかしており、アンネのことは知らない。
俺が結婚していることを話したら、独身である三人に嫉妬の念を送られるのではと懸念したからだ。
ナッツ野郎とはパーティを組んでいたため、ギスギスしたくなかったという理由もある。
「家族には飲みに行くと断りを入れておいた」
「そうか。あ、訊いたぜー、お前レビーと喧嘩したんだって」
「ナッツでな」
「あいつやばいよな。ナッツで大喧嘩するとか聞いたことねえよ」
「まあ、ここに来て『やりすぎた』って反省してたけどな」
「そうか……」
ナッツ野郎のやつ、反省してたのか。
まあ、一時の感情だったからな。冷静になればまずいことをしてしまったと反省するか。
ここの二人に宥められたり、笑われたりしたんだろうし。
だが、俺は許さない。
ナッツが無かったのは知らんが、殴った向こうが悪い。ナッツ野郎が謝るまで俺は無視を貫くぞ。
あ、無視は貫けないか。ナノの件で関わることになるだろうからな。
「はあ……」
今、気落ちしても仕方がない。
俺はビールをぐいっと飲んだ。三分の一減った。
「いい飲みっぷりだな」
「もっと、飲んで嫌な事忘れちまえ」
今回ばかりは二人の言う通りだ。
これから嫌なことをしなければいけない。俺はそれを忘れるためビールに頼った。
次話は明日投稿します。
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