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客が来ない理由の話1

 俺は店を出た。そこは俺の自宅ではなく料理屋が並ぶ通りだった。

 夕方になると大人たちが酒と食事を楽しむ場所であり、立地が悪いわけではない。

 さて、客が来なくなった理由として考えられるのは、この近くに『ライン』に似た店が出来たか、新店舗が出来たかだ。


「さて、どんな店があるか見るか」

「あら、私の家からここにつながってるなんて……、家に帰らなきゃ」

「なら、店に戻ってマクロにそう言えばいい」

「分かったわ。リベ、いってらっしゃい」


 アンネは『ライン』へ戻った。

 自宅は戸締りもしてないからな。アンネが不安になるのも分かる。

 マクロに頼めば、自宅へ空間転移してくれるだろう。


「キュイ」

「お前も来たのか……」


 俺の肩にさも当然に乗っている白いモフモフは、俺の顎に毛皮を押し付ける。


「お前にも関係することだぞ。真面目にやれ」

「……キュ」


 元気のない返事が返って来た。

 俺とナノは通りの端から端まで歩き、他店を観て周った。

 新しい店舗が出来たか、『ライン』と似た系統の店があるか、流行りはどういう店かを調べた。

 結果、この通りの流行りが分かっただけで、『ライン』の客足が途絶えた理由は分からなかった。



「うーん」


 『ライン』へ戻って来た俺は、悩んでいた。

 外に出てみれば原因が分かるのではないかと思ったのだが、成果は無かった。


「そろそろ開店なの。そっちで原因が分かるかもしれないの」

「だな」


 通りをナノと歩いている内に、日が暮れ『ライン』の営業時間が近づいて来た。

 ネズミは料理を提供できるよう下準備をしており、マクロはテーブルクロスや食器を用意していた。

 サービスは問題ないと思う。だとすれば、原因は客にあるかもしれない。


「俺は、ネズミの手伝いをしながら店の様子を見てるよ」

「分かったの」


 俺はネズミの調理風景を観察する。

 趣味で料理をしていたが、ネズミの手さばきはプロそのもの。

 冒険もやめたことだし、ここで料理の腕をあげることもありだな。


 カランカラン。


 最初の客がやって来た。


「いらっしゃいませなの」


 ナノが接客に入る。

 俺は来店者に目を丸くした。


「ナノちゃん! 今日も可愛い」

「ありがとう……、なの。席はこちらなの」


 遠目で見てもナノがその人物に対して嫌がっているのが分かる。

 来店したのはナッツ野郎だった。

 ここで俺が出ても意味がない。様子を見よう。

 

「注文はいかがいたしますか?」

「ナノちゃん、”いつもの”よろしく!」

「かしこまりました」


 ナッツ野郎から注文を受けたナノがこちらにやって来た。


「リベ、おつまみ三点セットとワインを頼むの」

「ワインは――」

「辛口の赤ワインを頼むの。おつまみはナッツとチーズと生ハムなの」

「おつまみは我に任せるのじゃ」


 辛口の赤ワイン。

 二つの条件を貰ったものの、条件にあてはまるものは沢山ある。

 まあ、アイツはこだわりなさそうだから手頃なやつを出そう。

 俺は選んだ赤ワインをグラスに注ぐ。

 適量注いだものをナノに渡した。


「ありがとうなの! 後で注ぎ方教えるの」


 ネズミと俺が用意した品物を持って、ナノはナッツ野郎に料理を出す。

 あいつは一人でちまちま飲むタイプではない。

 どちらかと言うと、大衆酒場でビールを浴びるように飲みながら仲間と騒ぐタイプだ。

 真逆の店にあいつがやって来る目的は一つ。


「ナノちゃん、こっちこっち」

「私は仕事中なの」

「客が来るまでさ、俺の相手してくれよ」

「……」


 ナッツ野郎はナノに銀貨を三枚渡した。

 ナノはそれを渋々受け取り、ナッツ野郎の向い側に座った。

 ああ、ナッツ野郎が『ライン』に来店する理由はナノだ。

 そして、客が来ない理由の一つも分かった気がする。

 


次話は明日投稿します。


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