客が来ない理由の話1
俺は店を出た。そこは俺の自宅ではなく料理屋が並ぶ通りだった。
夕方になると大人たちが酒と食事を楽しむ場所であり、立地が悪いわけではない。
さて、客が来なくなった理由として考えられるのは、この近くに『ライン』に似た店が出来たか、新店舗が出来たかだ。
「さて、どんな店があるか見るか」
「あら、私の家からここにつながってるなんて……、家に帰らなきゃ」
「なら、店に戻ってマクロにそう言えばいい」
「分かったわ。リベ、いってらっしゃい」
アンネは『ライン』へ戻った。
自宅は戸締りもしてないからな。アンネが不安になるのも分かる。
マクロに頼めば、自宅へ空間転移してくれるだろう。
「キュイ」
「お前も来たのか……」
俺の肩にさも当然に乗っている白いモフモフは、俺の顎に毛皮を押し付ける。
「お前にも関係することだぞ。真面目にやれ」
「……キュ」
元気のない返事が返って来た。
俺とナノは通りの端から端まで歩き、他店を観て周った。
新しい店舗が出来たか、『ライン』と似た系統の店があるか、流行りはどういう店かを調べた。
結果、この通りの流行りが分かっただけで、『ライン』の客足が途絶えた理由は分からなかった。
☆
「うーん」
『ライン』へ戻って来た俺は、悩んでいた。
外に出てみれば原因が分かるのではないかと思ったのだが、成果は無かった。
「そろそろ開店なの。そっちで原因が分かるかもしれないの」
「だな」
通りをナノと歩いている内に、日が暮れ『ライン』の営業時間が近づいて来た。
ネズミは料理を提供できるよう下準備をしており、マクロはテーブルクロスや食器を用意していた。
サービスは問題ないと思う。だとすれば、原因は客にあるかもしれない。
「俺は、ネズミの手伝いをしながら店の様子を見てるよ」
「分かったの」
俺はネズミの調理風景を観察する。
趣味で料理をしていたが、ネズミの手さばきはプロそのもの。
冒険もやめたことだし、ここで料理の腕をあげることもありだな。
カランカラン。
最初の客がやって来た。
「いらっしゃいませなの」
ナノが接客に入る。
俺は来店者に目を丸くした。
「ナノちゃん! 今日も可愛い」
「ありがとう……、なの。席はこちらなの」
遠目で見てもナノがその人物に対して嫌がっているのが分かる。
来店したのはナッツ野郎だった。
ここで俺が出ても意味がない。様子を見よう。
「注文はいかがいたしますか?」
「ナノちゃん、”いつもの”よろしく!」
「かしこまりました」
ナッツ野郎から注文を受けたナノがこちらにやって来た。
「リベ、おつまみ三点セットとワインを頼むの」
「ワインは――」
「辛口の赤ワインを頼むの。おつまみはナッツとチーズと生ハムなの」
「おつまみは我に任せるのじゃ」
辛口の赤ワイン。
二つの条件を貰ったものの、条件にあてはまるものは沢山ある。
まあ、アイツはこだわりなさそうだから手頃なやつを出そう。
俺は選んだ赤ワインをグラスに注ぐ。
適量注いだものをナノに渡した。
「ありがとうなの! 後で注ぎ方教えるの」
ネズミと俺が用意した品物を持って、ナノはナッツ野郎に料理を出す。
あいつは一人でちまちま飲むタイプではない。
どちらかと言うと、大衆酒場でビールを浴びるように飲みながら仲間と騒ぐタイプだ。
真逆の店にあいつがやって来る目的は一つ。
「ナノちゃん、こっちこっち」
「私は仕事中なの」
「客が来るまでさ、俺の相手してくれよ」
「……」
ナッツ野郎はナノに銀貨を三枚渡した。
ナノはそれを渋々受け取り、ナッツ野郎の向い側に座った。
ああ、ナッツ野郎が『ライン』に来店する理由はナノだ。
そして、客が来ない理由の一つも分かった気がする。
次話は明日投稿します。
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