産まれる話
「――そうですか。上手くいくといいですね」
「さて、シロフォン。頼んだぞ」
「はい! お任せください」
俺の家に着いた。
冷たい夜風に当たり、白魔導士の眠気も冷めたようで、いつもの調子に戻っている。
玄関のドアノブを開けようとするも、鍵がかかってた。
まあ、ここから出て行ったわけじゃないしな。
俺は鍵を使ってドアを開け、白魔導士と共に家の中に入った。
「リベ! やっと帰ってきたの」
「シロフォンを連れてきたから、もう安心だ」
白魔導士は家に入るやすぐに、バックから仕事道具を取り出し出産の準備をしていた。
アンネは上体を起こした状態でベッドに座っていた。
近くにお湯が入った桶や、清潔な布が沢山置かれていることから、それらをナノが一人で準備してくれたことが分かる。
「やってくださいね」と白魔導士に言われていたことを、俺はすっかり忘れていたが、代わりにナノがやってくれていた。
「アリガトウ、ナノ」
「用意することしかできなかったの。その間もアンネが苦しそうで見ていて辛かったの」
俺とナノは白魔導士のように助産師の知識はない。
だから、俺たちが出来ることと言えば物を用意することだけ。
出産は白魔導士に任せるしかない。
「そういえば、ミリの時はどうだったんだ?」
「仕事してた時だったから、立ち会うことは出来なかったの」
「そうか」
「きっと、アンネと同じなの」
ナノも出産に初めて立ち会うようだ。
「いたい!! いたい!!」
寝室ではアンネの悲鳴が聞こえる。
聞こえる度に、俺とナノはビクッと寝室を見る。
「だ、大丈夫なの?」
「何かあっても、シロフォンが魔法で治療する」
白魔導士と言えど、出産の痛みを和らげることは出来ないらしい。
まあ、刃物で斬りつけられたり、鈍器で殴られたりといった怪我ではないからな。
出産の前に家に訪れた時も「魔法は緊急時の時しか使いません」とはっきり言ってたし。
「ああ、落ち着かないの……」
「俺は、ナノがいて助かったと思ってる」
ナノがいるから平常心でいられるが、一人だったら独り言をぶつぶつ呟いていたに違いない。
「ねえ、リベ……」
アンネの出産をじっと待っている中、ナノが話しかけてきた。
「また、リベとアンネに会いに来ていい?」
俺とアンネの仲がこじれたのは、ナノが家に遊びに来るのを俺が拒んだからだ。
ガネの町で今まで通りの関係を続ければ、白魔導士のように違和感を覚え、それを俺たちに問う者が現れるかもしれない。
今は、俺のコミュニティが冒険者仲間とナノの家族だから最低限に収まっているが、子供が生まれればそれも広くなる。その問いかけが子供へ向かうかもしれない。
そうなった場合、俺は自分の子供にどう答えたらいいのか分からない。
「その話なんだけどな……」
「だめ、なの?」
「いいや、会いに来ていいぞ」
「やったー!」
「近いうちに、ナノに大事な話をしたい」
「……分かったの。ナノ、待ってるの」
答えが分からないのは、俺がナノとの関係を後回しにしていたからだ。
これから産まれる子供のために、はっきりとさせないと―ー。
「あっ、鳴き声が聞こえるの!」
寝室から、赤子の鳴き声らしいものが聞こえた。
聞こえた途端に、ナノはばっと寝室を見た。
「リベさん! 産まれました!! 男の子です」
寝室のドアが開かれ、白魔導士が赤子の性別を告げた。




