先回りの話
「多分、ここが待ち合わせの場所だ」
俺とマクロは、住宅地に入った。
俺たちの目の前には馬に乗った騎士の銅像があり、待ち合わせに最適な場所だ。
「どうして、ここだと分かるんです?」
「何をするときもここだったからな。今回もそうに違いない」
「勘……、ですか」
「まあ、そうだな」
マクロがため息をついた。
呆れたと言いたげな表情を俺に向けている。
仕方ないだろ、昔の俺を尾行している余裕はないのだから。
昔の行動を思い出しながら、待ち合わせ場所に指定する場所に先回りするほうが効率がいい。
勘、とマクロの前で言ったが、俺はここにナノが来る自信があった。
昔の俺も今と変わらず”効率”を求める。
この待ち合わせ場所は、門、商店街、繁華街の丁度中間地点にある。冒険、買い物、プライベートとすべての目的を兼ねることが出来る。
ここを待ち合わせ場所に選ばないわけがない。
「あっ」
マクロが何かを見つけた。
服を引っ張られ、俺とマクロはとっさに銅像の後ろに隠れた。
「えっと、ここなの!」
間違いない、ナノの声だ。
コツコツと石畳を叩く足音が、銅像の前で止まった。
「おい、どうして隠れる!」
「姉さんは僕たちを見たら絶対に逃げます。前の姉さんだったらすぐに捕まえられたでしょうが、今の姉さんには”移動の秘術”があります。一瞬で逃げられてしまうんですよ」
「じゃあ、どうするんだ?」
「僕が合図したら、リベさんは姉さんに抱き着いてください」
「……分かった」
俺は小声で、姿を隠したわけを聞く。
マクロは俺の疑問に丁寧に答えてくれた。
マクロの指示に俺は頷いた。
「では……、行きますっ」
マクロの合図で俺は像の前に出た。
「り、リベ!?」
ナノは俺が登場したことに驚いていた。
動揺しており、この場から逃げる動作をしていない今が好機。
俺はナノに飛びついた。
「あれ!?」
ナノの身体に触れたと思ったのに、空振りに終わった。
ナノが”移動の秘術”を使う余裕はなかった。
捕まえたと思ったのに、何故――。
「キュ、キューイ」
答えは真下にあった。
モフモフの姿になったナノとマクロがいた。
俺は二人を両手で掬いあげた。
「二人とも、帰るぞ」
ナノがこの場から逃げ出そうと暴れたが、マクロがナノを押さえている。
そろそろ昔の俺がここに来るかもしれない。
鉢合わせしないよう、俺はこの場から離れた。
繁華街にある、喫茶店の近くの小道に入り、俺はマクロとナノをそこにあった木箱の上に下ろした。
二人はモフモフの姿を解く。
「……ごめんなさい」
ナノが俺とマクロに謝った。
逃げる様子もなく、どうやら観念したようだ。
「姉さん、話は帰ってから聞きますからね」
「分かったの」
反省している様子だが、マクロはナノがこの場から逃げ出すのではないかと警戒している。
ナノの腕を掴んだまま話しているからな。
「昔のリベ、今のリベと全然違うの」
「俺がこうなったのはアンネのおかげだ」
「……それがよく分かったの。この時代に来てよかったの」
「そうか」
マクロが”移動の秘術”を使い、ムーヴ族の集落へと繋いだ。
俺とマクロはナノを連れ、元の時代へと帰った。




