店を継ぐ話
「リベ、どうぞなの!」
テーブル席に座った俺とアンネは、ナノとマクロにもてなされる。
前菜、スープ、肉料理、デザートと、フルコースをご馳走してくれた。
「ご馳走さま」
すべてを平らげた俺は、息を吐き、満腹感を和らげる。
「ナノ、マクロ、美味しい料理をありがとう」
「はい、こちらこそ」
俺は二人の主食である”アリガトウ”を渡した。
礼を言った直後、くらっと眩暈がした。
アンネが俺の体調を心配してくれた。
俺は「大丈夫だ」と言い、平常に戻す。
「ナノが無事に帰れて良かったよ。マクロと離れた直後だったから、しばらく俺の家で世話をしないといけないと覚悟していたからな」
「私は、家族が増えても気にしないのに」
「俺が気にする」
しばらく冒険を辞めるのだ。アンネと二人きりの時間を作りたい。
「顔が赤いわよ。ワイン飲みすぎちゃった?」
「違う。俺は、お前と――」
「私と?」
「その先はナノが許しませーん! ナノの目があるうちはイチャイチャさせませーん!」
俺とアンネ会話にナノが割って入った。
「姉さん、今のリベさんたちはお客さんですよ。少し離れましょう」
「むー」
マクロがナノの暴走を制止してくれた。しっかり者の弟よ、ありがとう。
まったく、ナノの行動には困ったものだ。
さっきだって、俺とアンネとの口づけを体を張って阻止してきた。
阻止してきたのといい、クッキーの件といい、ナノはアンネに嫉妬している。
ナノはきっと俺のことが好きなのだろう。友情ではなく愛情の方の好き。
だが、俺には妻のアンネがいる。
ナノの気持ちには応えることが出来ない。
「……娘が失礼した」
俺の前に、シルバーの毛色をしたモフモフが現れた。
毛色からして初めて見るムーヴ族だ。
俺から数歩離れたところで、真の姿を見せる。
中年の銀髪の男だった。
「我はネズミと申す。ナノとマクロの父親だ」
「初めまして、リベンションです」
「リベの妻のアンネです」
この人がナノとマクロの父親か。いかつい顔つきをしており、可愛らしい顔つきのナノとマクロとは似ていない。二人は母親に似たのだろう。
「父さんがこの店の調理をしています」
「パパの料理、美味しかったでしょ」
マクロとナノがそれぞれの言葉で父親を紹介する。
確かに、振る舞われた料理はおいしかった。特にメインの肉は柔らかく、程よい塩味があり、噛まずとも食べれた。
「ムーブ族がヒトと関わりを持つのは久しい、これはムーブ様の導きじゃと我は思っておる」
「そんな大層な事なのか……」
「うむ。我ら、ムーブ族はアリガトウ不足に陥っており、存続の危機を迎えておる」
「存続の危機……」
「そこで、ヒトであるお主に頼みがある」
俺は生唾を飲み込んだ。
ネズミは重い口を開いた。
「この店を継ぎ、ヒトが溢れる繁盛店にしてくれないか」
ネズミは俺にそう言った。
12話は明日投稿します。
次話で最後のタイトルを回収します。
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