行方不明になる話
『ライン』の営業が終わった。
ナノが早退してから、団体客がどっと来店して、マクロ一人で対応できるか不安だったが、センチが手伝うことで何とか乗り切った。
「リベさん、お疲れ様です」
「マクロこそ、最後のほうで大変だったな」
「はい。あれは予想外でした……」
自分が言った手前、後に引き下がれなかったマクロは最後の客を見送った後、盛大に疲労を吐き出した。冷たい果実ジュースを入れた後、それを一気に飲み干していた。
「少しの間、このままでいたいです」
「食器の片づけは俺が全部やるから、気にするな」
俺は、汚れた食器を洗いながらマクロに言った。
マクロは「助かります」と笑みを浮かべながら礼を言われた。
「なあ、ナノの事だが……」
「リベさんにはアンネ師匠がいます。姉さんは……、リベさんとアンネ師匠の優しさに甘えているだけなんです」
「そう……、だよな」
今までのトラブルは、俺が中心となって解決してきたが、今回は俺とナノの問題だ。
誰が介入しても事態はーー
皿を洗いながら、一人考え事をしていると、プレートを”閉店”とした『ライン』の入口のドアが乱暴に開かれた。あれはミリの開け方じゃない。酔っ払いの来客だろうか。
「悪いが店はーー」
「リベ殿! すれ違いにならんくてよかった」
「ネズミ!?」
現れたのは酔っ払いの客ではなく、現ムーヴ族の族長であるネズミだった。センチ、ミリ、マクロ、ナノ四兄弟の父親である。族長になる前は『ライン』で調理を担当していたが、なった後はセンチに店を譲り、店に寄ることは無くなったのだが。
「えっと、レビーの挨拶が気に入らなかったのか? なら、もう一回仕切り直して」
「そんなことではない! マクロ、センチ! ナノはどこへ行った!?」
血相を変えてくるとしたら、考えられるのはリーダーの挨拶が気に入らなかったからだ。そう感じた俺は、ネズミをなだめたのだが、彼に一蹴された。
ネズミはナノを探しているらしい。
「ナノ姉さんは家に帰ったはずですよ」
「仕事に身が入らなくてな、マクロが早退させた」
「家におらんのじゃ!」
「アモールの家には……」
「連絡した。そこにも行ってないようなのじゃ」
二人はナノを早退させたことをネズミに話した。
ネズミは心当たりはすべて連絡したうえで、『ライン』に来たらしい。
マクロとセンチは互いの顔を見合わせ、考えられるナノの行く先を考えた。
「アンネ師匠の家はどうでしょう? リベさんが来ないようにお話しましたが、リベさんがいない時はこっそり伺っているかも――」
「いないわよ」
「ミリ姉さん」
「事情は父さんから聞いたわ。私とアンネさんの所にナノは来なかったわ」
「となると……、手掛かりが無くなったぞ」
マクロの考えを『バー』の出勤で来たミリが否定した。
「手がかりなら……、一つあるのじゃ」
一家がそれぞれナノの行く先を考えていたところ、ネズミが重々しい口調で話題を出した。
多分、最悪の事態なのだろう。
「なあ、俺はそれを聞いてもいいのか?」
「本当はムーヴ族に関わることじゃから、席を外してほしいと言うところなのじゃが……」
ネズミがじっと俺の顔を見る。
あの話し方からするとナノが行方不明になった件に関して、俺が関係しているに違いない。
ムーヴ族に関わること。
こんな口調で話題を出されたのは”掟”の話をしたとき以来だ。
「今回はリベ殿に大きく影響する」
「俺に? なんでだ?」
ムーヴ族の問題のはずなのに、ヒト族である俺に大きく影響するとは一体どういうことなんだ?
話が読めず、俺は困惑していた。
「娘は、過去を遡り、リベ殿と結婚しようとしておるのじゃからな」
ネズミは驚きの事実を俺に突き付けた。




