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すれちがう話

 俺とアンネの関係が悪くなって三日が経った。

 あの日から最低限の会話しかしなくなった。居心地が悪く、俺は早く仕事の時間にならないかと、家から出たいと感じるようになっていた。

 とはいっても、仕事に出ればナノが待っている。

 ナノは、あの日以降、俺と距離を置くようになった。そして、仕事のミスも増えた。

 料理の注文や、配膳を間違えるようになり、それを客にカバーしてもらっていた。


「姉さん、しっかりしてください」

「マクロ、ごめんなの……」


 ついにマクロが口を出した。


「今日は僕一人で裁けますから、姉さんは家でゆっくり休んでください」

「……そうするの。マクロ、アリガトウなの」


 マクロがそういうと、ナノは家へと帰っていった。

 ナノが二階へ上っていったことを見届けてから、センチが俺に声をかけてきた。


「お前、妹に何をした」

「家に遊びに来るなと言った」


 センチの問いに俺は答えた。

 

「そうか……。妹はそれで落ち込んでいるのか」

「お前はこういう展開を望んでいたんじゃないのか?」


 センチは、ナノに次の相手を見つけてほしいと言ってた気がする。

 俺はその通りにしたはずだが、センチは顔をしかめていた。


「ナノが店長にきっぱりフラれれば、すぐに次の相手を探すものだと思ってた。妹があんなに悩むなんて思ってもみなかった」

「アンネは『余計なことをするな、いつも通りにしろ』と言ってた。俺、ナノに余計なことを言ってしまったのだろうか……」

「とはいっても、妹の気持ちに応えられないのなら、どうしようもないだろ」

「そうだよな。妻のアンネがいる限り、ナノの気持ちには応えられない」

「妹は必ず乗り越える。だから、店長は気にせず働いてくれ」

「アリガトウ、センチ。そうするよ」


 センチにモヤモヤした気持ちを話したら、少し気分がよくなった。

 俺のやったことは間違ってない。

 ナノが落ち込んでいるのは今だけで、素敵な相手が見つかれば俺の事なんて忘れるはず。

 時間が経てば、ナノも元気になる。

 俺はそう思い込むことで、ナノの事を一旦忘れ、仕事に集中した。



「リベに甘えると、リベとアンネを傷つけてしまうの」


 家に帰った私は、ソファに座って考え事をしていた。

 最近の考え事はリベとアンネの事。

 リベが好き。

 この気持ちを隠してしまえば、リベとアンネは傷つかずに済む。

 でも、胸がチクチク痛んで、自分が傷ついてしまう。


「もし、アンネに出会ってなかったら、リベはナノを選んでくれるの?」


 私は、ふとそう思った。

 階段を上がり、お父さんの部屋の前に立った。

 お父さんは、ムーブ族の会議で家を出ているはず。センチにいとマクロは『ライン』で仕事をしてるし、ミリねえはアンネの所にいる。

 家には私一人。


「……」


 私はパパの部屋の中に入った。

 パパの部屋はお酒と包丁と調味料と本ばかり。

 最近は族長の仕事をしているから、お酒と調味料が置いてある棚が減って、そこに本棚が出来た。

 私はその本棚にある一冊の本に手を伸ばした。触れる直前、パチッと指先に痛みが走り、身体を本棚から離した。


「簡単にはいかないの。でも、ナノ諦めないの」


 私はその本を手に入れることをあきらめなかった。

 私は指先に魔力を込め、もう一度本に手を伸ばした。すると、四桁の暗号を答えるよう求められた。


「パパが使いそうな四桁の暗号……」


 私は考えた。パッと思い浮かんで五通りある。そのうちの四つは私たち兄弟の誕生日。

 でも、私たちの誕生日は他の人にも知られているから、使っていないだろう。

 だとすれば、一個だけ。


「ママにプロポーズした時間……、なの」


 二六二五。

 時間がパパ、分がママの年齢の時にプロポーズしたって聞いたことがあるの。

 私は四つの番号を入力すると、本を手にすることが出来た。


「やった!」


 私は、手に入れた本を開いた。

 そこには、ムーブ族のすべての”秘術”が描かれている。

 私はペラペラとめくり、あるページに目を止めた。


「……リベ、待っててなの!」


 私は本を握りしめ、覚えたての秘術を唱えた。


 

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