夫婦喧嘩する話
やっぱりな。
予想通りの質問をされた。アンネのほうも「あら」と口にしただけで、驚いてはいない。ナノは”不倫”という言葉の意味が分からず、首をかしげている。
白魔導士は俺たちのそれぞれの反応に驚いていた。
「あれ? 私の気のせいですか」
「ナノちゃんがあの人に好意を抱いているのは間違いじゃないわ」
「ナノはリベの事、大好きなの!」
ナノは俺にぎゅっと抱き着く。そして、アンネの身体も引き寄せた。
「アンネも大好きなの!」
「……ごめんなさい、よく分からない質問をしてしまいました」
「いや、シロフォンのように疑念を抱くやつはいると思ってたからな。気にするな」
俺は、白魔導士に言った。
白魔導士が思っているのが普通の事で、俺とアンネの認識がおかしいのだ。
「じゃあ、アンネの出産のこと、頼んだぞ」
「はい! 容態が急変したら、すぐに私か母を訪ねてくださいね」
「分かった」
「それでは、失礼します」
白魔導士が家を出て行った。
それを見送った後、俺はアンネと談笑するナノを見る。
やっぱり、妻帯者としてナノに別れを告げた方がいいのだろうか。
俺とナノの関係は、俺がナノに手を出さなければ問題ないと思っていた。
だが、傍から見れば、俺とナノが外でいちゃいちゃしてるって感じるんだな。妻のアンネがいるのに何をしてるんだと、先ほどの白魔導士のように注意する奴も現れかねない。
「ナノ」
「リベ、どうしたの?」
「すまんが、しばらく家に遊びに来るのをやめてくれないか」
「な、なんでなの!?」
「出産は俺とアンネの問題だ。二人だけで乗り越えたいんだ。だから――」
「……わかったの。じゃあ、ナノ、お家帰るの」
ナノは寝室のドアを開けた。”移動の秘術”を使って、ナノの自宅へと帰っていった。
「あなた、ナノちゃんになんてことを!」
「すまん。俺も悪いと思ってる。だが、シロフォンみたいに”不倫”を疑う奴もいるんだ」
「一応聞きますが、ナノちゃんとは何もないですよね?」
「ああ。仕事仲間だ」
「私にとって、ナノちゃんはお友達であり、ライバルでもあります。あなたがナノちゃんを選んだ時のことも考えています。ですから、そうなったら正直に私に話してください」
「……」
俺はアンネの胸の内を聞き、驚いていた。
まさかアンネがそんなことを考えていたなんて思いもしなかったのだ。
俺がアンネを捨てて、ナノを選ぶだって?
驚いたと同時に、新しい女を選んで妻を捨てる男だと思われていたことに傷ついた。
「そんなことは起きない。俺が愛してるのは、アンネ、お前だけだ」
「……あ、ありがとうございます」
「だから、ナノとはきっぱり別れてくる」
「ナノちゃんを傷つけることはやめてください!」
「じゃあ、どうするんだ!?」
「いつも通りにしてください。余計なことはしないでください」
「……分かった」
いつも通りってなんだ、このままの関係を続けろっていうことか。
アンネの要求に不満だったが、俺は仕方なくそれを受け入れた。
テーブルを強く殴り、いらだちをそこへぶつける。
「明日からは、できるだけ家にいるようにする」
「……分かりました」
「仕事中はミリに面倒を頼む。ナノは家に入れないからな」
アンネは「はい」と返事をした。だが、投げやりな返事で、俺の意見に従いたくないという意思が読み取れた。
それから、俺とアンネの夫婦関係が悪くなったのは言うまでもない。




