表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/116

疑われる話

「あ、リベが帰ってきたの!」

「ただいま」


 家に帰ると、ナノが迎えてくれた。

 それから少し遅れて、アンネがやってきた。


「アンネ、無理しなくていいんだぞ」

「体調が悪くても、出迎えはさせてください」


 真っ青な顔をしているアンネを見て、俺は駆け寄った。

 腹も大きくなっており、医者からはあと二週間ほどで産まれるだろうと言われている。

 出産が近いという緊張からなのか、アンネの体調が良くない。

 食欲が無いのもそうだが、頭痛や吐き気もするらしい。


「やはり、出産まで店を休んだほうが――」

「私は大丈夫ですから」

「だが、俺が仕事中に産気づいたらどうする」


 仕事を休むというと、アンネは「働いてくれ」という。だから、『ライン』で仕事を続けているが、俺が働いている間、アンネが産気づいたらどうしようなどと常に考えている。


「ナノもアンネのこと心配なの」

「ナノちゃん、アリガトウ」

「う……、体調悪いアンネからアリガトウを貰うと罪悪感なの」


 ナノはツヤが良くなった頬に触れながら顔をしかめた。

 ナノがアンネの事を心配しているのは本当の事で、仕事がない時は毎日俺の家を訪れ、アンネの話し相手や料理以外の家事手伝いをしてくれている。とても助かる。


「仕事中はミリお姉ちゃんがアンネのこと見てくれてるの」

「二人とも本当にアリガトウな」


 俺とナノが仕事をしているときは、ミリが俺の家にいる。

 ミリもアンネと同じく妊婦であり、バーで働くのは難しいと思われたが、ミリは「ギリギリまで働くわ」と言っている。大変になったら、ミリの知り合いを雇うとか。

 開店前はナノ、開店後はミリの二人がアンネの体調を診てくれている。


「えっと、アンネが産気づいたらどうするの?」

「シロフォンをここに呼んでくれ」

「分かったの!」


 出産時は白魔導士が立ち会う。

 白魔導士の実家は赤子を取り上げる助産師で、彼女もその資格を持っている。

 第一子は信頼できる人に取り上げてほしいということで、俺は白魔導士に頼んだ。

 今日は出産の工程を確認するために白魔導士が家に来る日だ。


「こんにちは~」


 白魔導士がやって来た。

 俺は玄関の扉を開け、白魔導士を家に迎え入れた。


「シロフォンさん、よろしくお願いします」

「はい! えっと、アンネさん、顔色が悪いようですが体調はーー」

「悪いわね。最近吐き気とめまいがするの」


 白魔導士はアンネの真っ青な表情を見るなり、どこが悪いのか尋ねてきた。

 アンネは正直に答える。

 白魔導士は少し考えた後、アンネに薬を渡した。


「出産間近の妊婦さんにたまに見られる症状ですね。こちらのお薬を飲むと軽減されるかと思います。あと、この状態で病にかかってしまうと赤子に影響がありますので、外出は控えてくださいね」

「ありがとう。助かるわ」

「どういたしまして」


 アンネと白魔導士の会話を聞いて、俺は驚いていた。

 少し天然な白魔導士がちゃんと仕事をしている。薬を処方して、アドバイスをしている。

 白魔導士は俺の顔をじっと見ている。


「リベさん……、何か失礼なこと考えていませんか?」

「な、ないぞ。全然」

「まあ、いいです。では、アンネさんが産気づいたとき、私を呼ぶ前にやってほしいことがあります。こちらの紙に書き記しましたので、手順を記憶してください」

「ああ」

「出産予定日が三日前になりましたら、私はアンネさんにつきっきりになりますので、宿泊する部屋を用意していただけないでしょうか」

「分かった」

「あと――」


 俺は白魔導士の注文を紙に書き記してゆく。

 話し方が事務的なのは、助産師の仕事は母親からしっかり受け継いでいるからだと思う。それに、リーダーが”パーティ解散”を宣言してから、冒険を一旦辞め、家業に専念していると聞く。

 きっと、冒険者を引退したら助産師になるのだろう。回復魔法も使えるから、いざとなったら治療もできるしな。


「――以上になりますが、質問はありますか?」

「予定日が早まった時はどうすればいい?」

「私か母を訪ねるしかないですね。リベさんとアンネさんは二人暮らしですから、アンネさんの容態が安定したら来てください」

「分かった。俺の質問は終わりだ」

「……私からも質問があります」


 出産などの話し合いは終わった。

 白魔導士の質問とは、一体なんだろう。


「どうして、ナノさんがリベさんのお宅にいるんですか?」

「遊びに来てるだけだ」

「そうなの! アンネに会いに来てるの」

「私、リベさんとナノさんのやり取りを見て、ずっと気になっていることがあるんです」

「あら、私は席を外したほうがいい?」

「いいえ、アンネさん。あなたにも関係があることですよ」


 俺とナノのやり取りで気になっていること。

 そういえば、白魔導士の兄が”不倫”疑惑にあって壮絶な夫婦喧嘩をしたと聞いたことがあるな。あそこは生まれたばかりの赤子がいて、数か月後の俺とアンネの家庭環境と似ていた。


「リベさん、ナノさんと不倫してませんか?」


 白魔導士は疑惑の視線を俺とナノに向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ