仲裁する話
親子喧嘩は俺もよくしていたが、周りに被害を及ぼすほど苛烈なのは初めて見た。
パーティの参加者は使用人たちの手によって、安全な場所へと避難され、主賓とその父親の結果を眺めている。
この日のために飾られたものは、火によって灰となり、食事は床に散乱していた。
「……熱いな」
そして、熱風がこちらに伝わってきており、サウナにいるように汗がだらだらと出てくる。
「クロッカス、喧嘩の仲裁は出来ないのか?」
「うーん、ここまで来ちゃうと誰にも止めらんないよね」
昔馴染みである黒魔導士が呟いた。
それを聞いた使用人たちが落胆していた。頼みの綱である黒魔導士が『手に負えない』と諦めているのだから、この喧嘩はどちらかが勝つまで終わらない。庭園の被害は広がるばかりであろう。
「レビーのやつ、魔法が使えないのに、どうしてあんな攻撃が出来るんだ?」
「んー、オルトランド家に伝わる”秘伝の技”ってやつ! 遺伝性があるんだけど、本家の長子以外はどんどん威力が下がってきちゃうんだよね」
「冒険でも一度も見たことがないぞ」
「”いざという時”が全くなかったからね。レビーはそういう時にしか使わないよ」
「へえ……」
ここ付近の魔物では、リーダーを本気にさせられるほど強いものがいなかったわけか。
秘伝の技ということは、あれが火の勇者の家系のみが使える”浄化の火”。あの火で斬られた魔物は灰となるという。黒魔導士がぼかしたのは、傍にいる何も事情を知らない白魔導士に配慮してのことだろう。
「だったら、レビーさんのほうが不利なんじゃ……」
「今のところは互角に見えるがな」
黒魔導士の話が正しいならば、”浄化の火”の威力は父親のほうが大きい。それでも互角なのは、剣術はリーダーのほうが優れているからだろう。
白魔導士は俺の発言を聞き「そうですね」と呟いた。
「二人はどうあれ、問題はこっちだ」
俺は避難している招待客たちを見た。二人の戦いに魅入る者もいれば、怯えている者もいる。それらは問題ないが、一番は暑さによって体調を悪くしているヒトたちだ。幸い白魔導士がいるおかげで、重傷者は出ていないが、戦いが長引けばいずれはーー、という油断ならない状況だ。
「おい、ミリ! 危ないぞ」
「リベ、大丈夫よ」
親子喧嘩が膠着状態の中、ミリが一歩前に出た。
俺はミリを止めるも、彼女は笑みを浮かべ、それを拒否した。
「店長、行かせてやってくれ」
「……分かった」
センチにそう言われ、ミリを戦場に出してしまったが、ケガをしてしまうのではないだろうか。
何が起こってもいいように、ミリの元へ素早く駆け付けられるように、俺は彼女から視線を外さず、身構えていた。
ミリは指先を二人がいるほうへ指した。
すると、二人の頭上に魔法で作られた大きな水たまりができ、それが一気に落下した。かなりの水量であったが、二人の”浄化の火”の力によってすぐに蒸発する。一瞬、霧のようなものに包まれるも、すぐに収まった。
「な、なんだ!?」
「二人とも頭を冷やしてください」
ミリの魔法によって、二人の攻撃が止んだ。彼女は来客者を示し、皆が迷惑していることを示した。
「レビーさんのお父様、私も彼と同じ気持ちです」
「お前と息子の関係は認めん。息子はーー」
「王族と縁のある令嬢と結婚するか、出世するか、そうしないとこの家は潰されてしまう、そうレビーさんに聞きました。お父様はレビーさんが出世するのは難しいと思っていらっしゃるのですか」
「ガネの町では一番になれたが、王国騎士団でそうなれるとは限らない」
「ご心配なさらず。私が、レビーさんを出世させます」
「女、調子に乗るなよ」
リーダーの父親が剣をミリに振りかざした。だが、それが振り下ろされることはなかった。
「なにっ」
「私は平民ですが、高度な魔法を扱うことが出来る魔術師の家系ですの。あなたの身動きを止めることなど容易いことですわ」
「くっ」
「私の子供も、その魔力を引き継ぎます。秘伝の技がなくとも、それに代わる魔法剣士へ育てあげてみせます」
「……子供といったか?」
リーダーの父親がミリの発言に絶句した。
そう、ミリはリーダーとの子供を身ごもっているのだ。
「ってことだから。世継ぎの事はご心配ありません」
「認めてもらわなくても、私たちは首都へ行きます。人脈も一から作り上げてみせますわ」
「勝手にしろ! 親不孝者が!!」
ミリの魔法が解けたリーダーの父親は剣を投げ捨て、彼女とリーダーに暴言を吐き捨てた。問題を放棄したようだ。
すべて解決というわけにはいかなかったが、ミリとリーダーが両想いになり、壮絶な親子喧嘩が終わった。それだけで十分だ。気候も元の状態へ戻り、しばらくすれば暑さで具合を悪くしていたヒトたちも快方へ向かうだろう。
「これでめでたし、めでたし……、なのか?」
良い結果になったが、パーティ会場の惨状をみて、首を傾げる。
「まー、後のことはレビー次第だねえ」
俺の独り言に、黒魔導士がぼやいた。
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