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親子喧嘩の話

「友達と会ってくると席を外したと思ったら、客人に暴力を振るっていると聞いたぞ」

「……父上、申し訳ございません」

「ぶっ」


 俺はリーダーの態度に吹き出してしまった。だが、重い雰囲気の中、一人違う理由で笑っているのはおかしいので、必死に堪えた。

 俺たちへの接し方は身分を誤魔化すためであって、あれがリーダーの本来の姿なのだろう。


「お前が殴ったお方は、王都で発言力のある貴族の跡取りだ。お前の騎士生活に影響を及ぼすかもしれないんだぞ」

「申し開きもありません。僕があの方を感情的に殴ってしまった事実は変わりませんから」


 リーダーは苦い表情を浮かべつつ、自分の非を素直に認めていた。


「本日の誕生日パーティは、僕が騎士として活躍できるよう、首都からの客人を招いてくださったというのに、父上の顔に泥を塗るような事をしてしまいました」

「……それも、場違いな者たちを招いたからではないか?」

「違います」


 リーダーの父親は値踏みをするように俺とミリを見た。

 場違いな者というのは、俺、白魔導士、ミリ、センチだろう。

 先ほどの会話から、本日の誕生日パーティは首都で騎士として生活を始めるリーダーの人脈を広げることが目的であると分かったからだ。俺たちにはそういった力はない。リーダーの父親からすれば、”場違い”となるだろう。

 リーダーはすぐに否定した。


「彼らは僕の”仲間”であり”友人”です。僕一人では冒険者として活躍は出来ませんでした。彼らがいたから、町一番の戦士となれたのです。パーティに招待して当然でしょう」

「だが、そこにいる女性は冒険者仲間ではないだろう」


 リーダーはそれらしい理由を告げたが、父親はすぐにミリの事について言及した。


「彼女は、飲食店で働いているようだな。しかも、男性相手にお酒を売る、いやらしい仕事をしているとか。お前は騙されている。この手の女はオルトランド家の金にしか興味がない。さっさと関係を切れ」

「おい、ミリはーー」


 俺は二人の会話に割り込んだ。

 ミリがやっている仕事を侮辱されたからだ。

 ミリの仕事は、酒と食事を提供しつつ悩み事を聞いてあげるものだ。なのに顔と身体で金を稼いでいるように言われたら、店長である俺も文句を言いたくなる。

 ミリの仕事で様々な人たちが救われているのだと力説しようとするも、リーダーに止められた。


「ミリさんの仕事は”いやらしい仕事”ではありません。僕の客人を侮辱するなど、父親といえども許しがたい」

「客人、ではないだろう」

「……」

「お前がこの女と会っていたことは、探偵から聞いている。見合い話を断り続けているのも、この女が元凶だろう」

「僕は……、俺はミリを心から愛しています。俺はミリと共に首都へ行きます」


 リーダーは本音を父親に告げた。

 やっと言った。

 だが、これでことが解決できるならば、リーダーは自身の本音を隠したり、もやもやしない。


「認めん」


 反対されることが分かっていたからだ。


「由緒あるオルトランド家に、平民の血を入れるなど許されん」

「……」

「お前の大叔父のようになるつもりか」

「なりません、そうあなたに育てられましたから」


 大叔父……、それが重石になっているのだろう。


「僕は自分の実力でオルトランド家の名を首都に知らしめます。だから、決められた相手ではなく、自分が選んだ人を連れてゆきます」

「ふん、ならば剣を抜け。お前の根性、ここで叩きなおしてやる」


 リーダーの父親は、使用人に声をかけ二本の剣を持ってこさせた。その内の一本を床に投げ捨てた。それをリーダーが拾う。


「望むところだ」


 熱い。今日は涼しい気候だというのに、真夏にいるような感覚がする。

 頬から汗が流れてきた。

 リーダーと父親が剣を抜き、戦闘態勢に入った。


「火を纏った剣……」


 俺は二人の剣を見て呟いた。傍の気温が高く感じるほどに熱を帯びた火。これが火の勇者の子孫が継ぐ技の一つであることに気づくのは少し経ってからの事だった。


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