説得する話
俺はミリとリーダーの元へ向かった。
立食する場所から少し離れたところに、休憩するスペースがある。チェアが並んでおり、座れるようになっているのだ。
そこに、ミリとリーダーがいた。
そして、二人の前には、貴族の男がいた。彼はうつぶせに倒れており、しばらくしてゆっくりとその場から立ち上がった。彼の顔ははれ上がっており、誰かが強い力で殴ったのが分かった。
貴族の男を殴ったのは、リーダーだろう。己の拳を強く握り、怒りの表情をそいつに向けていたからだ。
二人の間にいるミリは、突然のことに驚いているようで立ち止まっていた。
「この僕を殴るなんて、例え火の勇者の子孫といえどただではーー」
「主賓の俺が気分悪くなってんだよ。どっか行ってくれねえかな」
「……」
貴族の男が嚙みついてきたが、リーダーの睨み顔を見て黙り込んでしまった。一歩後ろに下がったことから、怖気づいたようだ。
「ふんっ、覚えておけよ」
貴族の男はリーダーにセリフを吐き捨て、休憩スペースから離れていった。
騒ぎが落ち着いたところで、俺は二人に近づいた。
「ミリさん、ケガはーー」
「しつこく言い寄られただけ。ケガはしていないわ」
「そっか、よかったあ……」
「私こそ、ありがとう」
リーダーはミリがケガをしていないか確認していた。
ミリは、さっとリーダーから離れ、俺の傍に寄って来た。
「でも、レビーさんもあのヒトと同じで、暴力で解決してしまう人なのね」
「……そうだな。俺はミリさんが嫌いなタイプの人間さ」
「だから、私はーー」
「ミリ!」
俺はミリの言葉を遮った。
これではっきりした。身を引いたのはミリのほうだ。
俺が二人の間に割り込まなかったら、ミリはトラウマのせいで、自分の想いとは裏腹な言葉をリーダーにかけてしまうだろう。
「レビーはたかがナッツで俺をボコボコにする短気な男だが、絶対にミリを殴ったりしない!」
「どうして言い切れるの? リベはレビーさんに殴られてるのに」
「……それは」
確証はない。
時が経てば、リーダーもミリの元夫のようになってしまうかもしれない。
だが、それは未来の事だ。
もしやっていたら俺が止める。負けたって食らいついて、リーダーの根性を叩きなおしてやる。
「レビーは見た目に寄らず、奥手だからだ。こいつとナノとのやり取りを思い出してみろ」
「……」
「女の前では見栄しか張らない。しかも、名前を呼ぶときも気持ち悪いぞ。ミリが一番御しやすい相手だろ。そんな奴が、お前に暴力を振るうと思うか?」
「リベ、後で覚えてろよ……」
リーダーの恨み節が聞こえたが、反応している場合ではない。
誕生日パーティの終わりくらいで、忘れているかもしれないしな。
「そこは……、あのヒトと違うわね」
「こいつはただ、脳筋なだけだ。楽して魔物を倒す方法があるというのに、真正面から力押しする奴だぞ。さっきだって、貴族の男を殴って騒ぎを起こさずとも、解決する方法はいくつかあっただろ」
「まあ、レビーさんの助けがなくてもあしらえたわね」
「二人とも、俺をけなして何が楽しいんだ!」
いい機会だ、俺が溜めていたリーダーへの不満を吐き出してしまおう。
俺の説得のおかげで、ミリが落ち着いてきた。この調子でーー。
「だから、ミリ。素直になってみないか」
「……うん」
これで、ミリとリーダーは両想いになれる。
リーダーの目的も達成され、最高の誕生日パーティになる。
あともう少しでそうなるはずだったのにーー。
「レビー! さっきの騒ぎは一体なんだ!」
ミリとリーダーの間に立ちはだかる障害、リーダーの父親が現れたのだった。




