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出張料理店の話

このお話で1章が終わります!

次話から新しい章が始まります。

引き続き今作をお楽しみくださいませ。


「あら、可愛い子ね」


 アンネは俺の顔に張り付いたナノに注目する。

 ナノが剥がれず前が何も見えない。

 目の前に何があるか手探りで歩く。

 そんな俺の手をアンネがぎゅっと握った。


「こちらに座ってください」

「ありがとう」


 アンネの誘導の元、俺は椅子に座った。感触からしてキッチンの椅子だ。

 俺の前に何かが置かれた。

 湯気と共に香ばしい香りがする。コスタだ。


「……すまん、それにミルクを――」

「入れておきましたよ。飲めますか?」

「ナノ……、そろそろどいてくれないか」

「ギュウ……」


 ナノの身体が頭の上に移る。視界がはっきりした。

 俺はアンネが淹れてくれたミルク入りのコスタを飲む。

 まろやかでコスタの苦味が抑えられている。好みの味だ。


「アンネの淹れてくれたコスタは旨い」

「ふふ、褒めても何も出ませんよ」

「お世辞じゃない」

「ええ。ありがとうございます」


 コスタを数口飲んでいると、俺の前にクッキーが三枚置かれた。

 アンネが焼いたもので、白と黒がマーブル状になったものだ。

 苦いコスタと交互に食べるのが俺の楽しみだ。

 クッキーを取ろうと手を伸ばした時、ナノがクッキーを一枚奪った。


「おい」

「あらあら」


 ナノは俺の前でカリカリとクッキーを食べた。ものすごい速さで一枚目が無くなり、二枚目と三枚目は頬袋の中に捻じ込んだ。


「ギュイ」


 アンネの方を向き、ナノは胸を張り、誇らしげな顔をする。

 こいつ、もしかして――。


「ナノ、アンネに嫉妬してるのか?」

「あら、こんな可愛い子に? リベのことが大好きなのね」

「ギュ~」


 ナノは俺の肩に乗り、俺の顎に頬ずりをする。

 フワフワした毛皮の感触が気持ちいい。

 心地よい感触を味わっていると、急にナノが動き出した。俺の肩から椅子、床の順番に飛び降り、駆け出した。

 どこへ行くんだ。

 俺とアンネはナノの後を追いかけた。

 ついたのは俺とアンネの寝室のドアの前だった。

 ナノは俺の身体をつたって、肩まで登ってきた。


「キューイ」


 ナノはドアノブに飛び乗った。そして俺とアンネを見る。

 ドアを開けろと訴えているみたいだ。

 俺は、ドアを開けた。

 その先は寝室のはず――、ではなかった。


「あらら?」


 アンネが首をかしげる。寝室ではない場所が現れ驚いているのだ。

 おっとりした性格だから、反応が薄いように感じるが、ちゃんと驚いている。


「リベ、その女は誰なの!」

「ナノ、お前ヒトの姿に――」

「答えるの!」


 見知らぬ部屋に、ヒトの姿をしたナノがいた。

 ということは、ここはムーヴ族の集落だ。

 あれ、ナノは”移動の秘術”が使えないんじゃ――。

 混乱している俺と俺とアンネの関係を問い詰めるナノ。

 両者、言葉を発さず睨み合っているところでアンネが口をはさんだ。


「ここはどこかしら、ねえ、リベ、分かる?」

「ここは――」

「ナノの仕事場なの!」

「仕事……、場?」


 仕事場、ナノはそう答えた。

 四人座れるテーブル席が五セット、カウンター席が十席あり、カウンターの上には沢山のワイングラスが吊るされていて、奥にはワインがずらりと並んでいた。


「酒場か」

「ぶぶー、料理屋なの」

「料理屋」


 よく見ると、調理スペースもある。あそこで酒に合ったつまみを調理するわけか。

 何故、俺とアンネは料理屋に連れてこられたんだ?

 疑問が更に増えた。

 だが、ナノは俺の疑問に答えたりはしないだろう。答えるのは弟のマクロの役割だったから。


「あ、姉さん! やっぱりリベさんと一緒にいたんですね」

「マクロ、ただいまなのー」

「リベさん、姉さんが迷惑を掛けて――、あ、そちらの女性は」

「そうだったの、答えるの!」


 マクロが加わったおかげで話やすくなった。

 俺は、ナノとマクロにアンネを紹介する。


「俺の妻のアンネだ」

「初めまして。えーっと」

「僕はマクロ、そして姉のナノです」

「ナノ? さっきの白いモフモフした子もナノって名前だったような――」

「同一人物だ。その話は後でゆっくりするよ」

「あらそう」


 不思議なことが起こっても、動じないマイペースな精神はアンネの強みだと言える。

 おかげで俺の疑問が早く解けそうだ。


「マクロ、なぜナノは”移動の秘術”を使えるんだ? ナノは”使えない”んじゃないのか」

「はい。使えませんよ。ですが、姉さんが僕に念を送ってくれれば、ドアや扉を媒介に空間移動することが可能です」

「……そうか」


 難しい話は、そういうものだと素直に受け入れよう。

 原理をマクロに教えてもらっても、多分覚えきれない。


「なぜ、料理屋につながったんだ?」

「ここは僕と姉さんの仕事場です」

「仕事場……、働いているのか」

「はい。僕と姉さんは料理の配膳、父さんが料理を作ってます」

「家族総出で働いてるんだな」

「はい! 姉さんが皆さんを連れて来たのは、多分料理を振る舞いたかったからかと」

「……そうなの」

「違うみたいだぞ」

「……そういうことにしてください」

「わかった」


 マクロがわざとらしく咳ばらいをした。

 時々、マクロがしっかりしすぎて、兄なのではないかと錯覚してしまう。


「では一言……、出張料理店『ライン』へようこそ!」


 俺とアンネはナノとマクロと二人の父親が経営する料理店へ客として招かれたのだった。


第10話投稿しました!

第11話は明日投稿します!


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