第2話 百人まであと……
クレアをパーティから追放しようとしたデュランは、彼女に封印されてしまった。
ただのプリーストではなかった。
聖令教会の守護聖徒。
数多いる聖職者の中でも、その地位に立つ者は四人しかいないと聞いたが。
嘘ではなさそうだ。複雑な装飾のブローチには見覚えがある。
それに、あの恐るべき封印魔法──
「どうか、協力してもらえませんか?」
「なに……?」
「あともう少しで百人なんです」
封印した人数だろうか。共同墓地にある墓は、確かにそれくらいありそうだ。
「今まで一人ずつしかお礼参り……ではなく、封印できないので大変だったんですよ? あなたのその特殊な魔法、ナンとかドレインがあればもっと楽になるはずです」
物騒なことを付け足してくる。
「それが守護聖徒の仕事なのか? てっきり、冒険者を守るものかと思っていたが」
「極秘命令ですので。明るみに出ればパニックになるでしょうし」
クレアが墓に手を触れると、水晶のように内側が透き通る。封印されたデュランは、目を見開いたままだった。
思わず後ずさる。
なぜわざわざ見せたんだ? ここで下手なことを言えばどうなるか。あとでお礼参りを食らうかもしれない。
「彼は正気を失う寸前でした。人間でありながらあの凶暴さ……瘴気が発生して魔族となれば、相当の脅威となったことでしょう。
一度瘴気が発生したら最後、二度と人間には戻れないのですから」
「魔族になったらもう手遅れだ、と?」
「はい。その上、殺しても転生してしまう可能性があるので──」
「早いうちに封印しておこうってわけか」
厄介なことになった。
確かに、封印したほうが良さそうな正気じゃない冒険者は、今まで何人も見てきたが。俺は平和な冒険者ライフを目指していただけだ。
ほどほどのクエストを受けてほどほどの収入を得る。良い感じのメンバーに巡り合うまで、ギルドの『おまかせ結成サービス』を使い倒す。
わざわざダークプリーストになったのも、攻撃役と回復役を両立できれば冒険者生活が安定すると考えたからだ。下手に目立つわけにもいかなかったしな。
それがまさかこんなことになるとは。
ここで協力を断ったら封印されるんじゃないか? 極秘命令とか言っていたし。
いや、落ち着け。
「他の守護聖徒も冒険者をターゲットにしているのか?」
「いえ、他の三人は最前線で冒険者の方々と一緒に、魔王軍幹部を相手にしています。幹部クラスを転生させずに封印するために」
やはり! 前に見かけた守護聖徒は高ランク冒険者と行動していた。
こいつが一番平和なんだ!
魔王軍と関わるとロクなことにならない。だが、あくまで冒険者をターゲットにするクレアなら。協力するのは悪くない。
何より、教会の後ろ盾があるなら収入も安定しているに違いない。
守護聖徒の中でもクレアと出会えたのは運が良かった。むしろ運命の出会いと考えるべきだ。
「分かった、協力しよう」
忍ばせていた魔力吸収魔法を引っ込め、手の平を返して申し出る。
「ありがとうございます!」
よほど嬉しかったのか、若きプリーストは紅い瞳を潤ませた。
そういえば百人近くと組んで、今まで一人も仲間にならなかったのか。
こいつ、『おまかせ結成サービス』を俺より使いこなしている。
「では、少し後ろを向いていて下さい」
「分かった」
のんきなことを考えながら適当に返事したが。
はっ!
待て、油断するな!
ホラーな展開なら、ここで「残念でした、はい封印!」とかしてくる──
「見たら封印しますよ?」
「今ナイフが見えなかったか?」
「ちょっとしたおまじないです」
こうして、それぞれの平和を願う旅が始まった。
この先もきっと安泰だ。そう思いながら。