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1-3 反省点

 鬱蒼とした森の中、赤髪の美女――アデーレ・ポレンはふらつく足取りで歩いていた。



 彼女は十八という若さで大国、ゲヒド王国の直属騎士団部隊長に上り詰めた天才であり、その実力は国内でも高く評価されていた。しかし、そんな彼女が今、全身血まみれで歩いていた。服もボロボロであり、右肩が露出し、腹の布も破け、スカートの裾も際どいところまで破けてしまっている。足取りもおぼつかず、重傷であることは明らかだ。



 その原因は異空間と呼ばれる正体不明の空間から出てきた謎の人物である。この世界では召喚術と呼ばれる異空間に存在する人間をこちらに呼び寄せる技術を用いない限り、異空間から来た人物は基本抹消するよう命じられている。というのも、過去に異空間から出現した転生者を自称する者たちの手により、世界が滅亡寸前にまで追いやられたことがあるからだ。



 たまたま非番で森林浴に来ていたアデーレは、その異空間から出現した謎の人物が――それも二人も近くに出現したことを察知した。そして、対象が自身のところに向かってきていたこともあり、迎撃すべく待ち構えた。その結果がこれだ。


「まさか……あれほどの人間が異空間から出てこようとは……」


 彼らの力量はアデーレの想定を遥かに上回っていた。対象は二人。大柄な男と小柄な少女という何ともミスマッチな組み合わせだった。



 ファス・レングースと名乗った大柄な男は過去の転生者たち同様、力に振り回されているきらいはあったが、基本をキッチリ押さえた戦法と隔絶した魔力量、アデーレの攻撃を的確に迎撃する勘の鋭さにより、騎士団の部隊長を務めるアデーレと互角以上に剣を打ち合った。



 小柄な少女の方はファスと違い、積極的に接近戦に打って出ることは少なかったが、その代わり、光属性の魔術において凄まじい威力を発揮していた。特に最後の光線はアデーレの最高の防御力を誇る盾をもってしても防ぎきれず、粉々に砕け散ってしまうほどだった。



 結果として辛勝したが、彼らを殺すことはなかった。情けをかけたわけではない。止めを刺せるほどの力が残っていなかっただけだ。他に仲間がいる可能性も考え、名前だけを聞いたら、後は立ち去るしかなかった。



 一応、増援は呼んだが、すでにファスと名も知らぬ少女は異空間へと消え去っている。せいぜいが現場の痕跡を探るのが関の山だろう。それもどこまで期待できることか。



 きっと、彼らはゲヒド王国どころか、人類全てにとっての災厄になる。そうなる前に芽を摘んでしまいたかったが、それが無理だった以上どうすることも出来ない。アデーレはこの先のことを考えると頭が痛くなった。







 ○○○○○


 カコに戻るとすぐに全身の傷が癒えていった。どうやら、この世界に満ちている魔力が俺たちの肉体を癒やしたようだ。



 戦いには負けた。だが、あの戦いを経たことで俺たちは強くなった――気がする。ぶっちゃけ、力任せに戦ってただけだからな。実戦経験を積めたのはでかいとは思うし、物質破壊による魔力の奪略もそれなりの成果だとは思うが、あまり糧になったとは思えない。


「つーか、結局エルナに一言も話させてねえ」


 異世界に行く前にわざわざ確認したというのに話していたのは俺一人だけだ。これじゃ、俺の特典の正体がバレる可能性が飛躍的に上がっちまう。何なら、もうバレてるかもな。けど、反省点はこれだけではない。



 そもそも反省点などいくらでもある。実力をまるで発揮しきれていなかったこと。そして、連携が拙かったこと。いくらでも挙げられるが、その全てに共通するのが俺自身がまるで特典を生かしきれていなかったということだ。


「いや、二人同時に操る分には何の落ち度もなかった。問題なのは俺自身の経験があまりにもなさすぎることか」


 俺はエルナの方を見て言う。策としては陳腐だったが悪くはなかった。事実、ヤツに深手を負わせることが出来ている。だが、倒しきれなかった。その理由はアイツの言う通り、俺がこの二人の力を引き出しきれていなかったからだ。となれば、強くなるには修練を積み、足りない分を相手の力量問わずに挑みかかって補う。それ以外になさそうだ。


「けど、その前にやっておくべきことがある」


 それは仲間を増やすことだ。アレよりも強いヤツが山のようにいるとなると、確かに二人ではキツイ。もっと、人重兵器を増やす必要がある。それに加えて、このカコも強化する必要があるだろう。



 あくまで想像でしかないが、連中にも警察でいう鑑識みたいな現場検証を行う連中がいるはずだ。ヤツの口ぶりからして、俺たちのように違う世界から来た連中は敵視されている。ならば、俺たちの情報を得るために痕跡を探るのは当然だ。



 そうなると、しばらくはこっちにかかりきりにならざるを得ないな。仲間を増やして、カコを強化する。異世界の連中に挑むのはそれからだ。


「ま、それはそれで面白そうだし、いいか。なぁ、エルナ」


「うん」


 俺はエルナに話しかける。エルナはそれに頷くが、やらせてるのは俺だ。何とも、締まらない光景だがこういうのも悪くはない。だが、残念ながらこの光景にいつまでも和んでいるわけにはいかないからな。俺は仲間を増やすべく、メニューボタンを押し、キャラメイクボタンをタップした。







 もうどれだけの時間が経っただろうか。おそらく、三日は経っている。その間、睡眠もとっていなければ、食事も水分もとっていない。だというのに、何の問題もなく動けている。どうやら、最低三日は飲まず食わずの不眠不休でも問題ないようだ。



 それだけの間、何をやっていたかと聞かれれば、キャラメイクで仲間を増やし続け、カコを改造し続けていたとしか言いようがない。現在、九十人もの仲間を作り、九十三もの階層を改造している。これが思っていた以上に手間がかかっている。



 つっても、時間の大半をカコに費やしてるんだけどな。増やした仲間を操作することに対してはそこまでの支障はなかった。百人近い人間を同時に動かしているというのにまるで問題がない。最初は数人が限界だろうと思っていたんだが、十人作っても全然問題なかったので調子に乗って作りまくってたら、いつの間にかこうなっていた。一応、百人で打ち止めにする予定ではあるが、人数が増えたことによる負担は予想に反して全くなかった。これなら遠慮なく人重兵器を創造し、カコを改造できる。



 ちなみにキャラメイクの方は少し凝ったりもしたが、それでもエルナほどは時間をかけていない。カコの改造がマジで手間なんだ。いっそのこと、階層全て一緒にしてやろうとも思ったんだが、修練の場として使うことを考えれば、さまざまな空間を考えざるを得ない。それを九十三も考えてるんだ。めんどくさくないわけがねえ。



 下に行くにつれて魔力が濃くなるという性質に加え、古い順に下から積み重なっていくという規則性を持っているらしく、一番最初に創った層はすっかりとてつもない濃度の魔力で満ちてしまっている。要は一番下の階層が一番力を強化できるってことだ。だから、最初のシンプルなヤツはやめて、城や城下町みたいなのを創ってみたりした。



 ちなみに仕組みが全く分からないが、どうやら、カコにいるだけでも魔力供給の対象になるらしく、王であるファスを含め、全ての人重兵器がここにいることで力を増していく仕組みらしい。その上昇値は最下層で俺が人重兵器に与えられる魔力の最大値の半分くらいまで行っていると見ていいはずだ。つっても、俺が配下に与えられる魔力の最大値も馬鹿みたいに跳ね上がってるから、正確にどれくらいの魔力が得られるかは算定できないけどな。



 マジで力を得るだけが目的なら、ここにいればいいと思えるほどだ。けど、ここにいたのでは戦うための力は手に入らない。アデーレと名乗る女やそれ以上の相手とやり合うなら、人重兵器の力を十全に使いこなせるようにならねえと。



 だが、ここで一つ問題がある。人重兵器が誕生したときに与えられる能力に関してはランダムで決定されるらしく、創造するまではどんな能力を持っているのか分からない。だから、人重兵器を創っても望んだ力を持って生まれるとは限らないということだ。けど、それはそれで構わない。とはいえ、能力を把握していなければ話にならないので俺の分身体であるファスを除いて、他の人重兵器にはどんな能力があるのかを把握するために改造を終えたカコの階層で実験しまくってる。



 おまけに生み出した人重兵器はよほど幼い容姿設定をしない限り、十二、三歳くらいの少年少女として生まれてくる。基本、十代後半から二十代前半くらいの容姿を意識して創造しているため、時間が経たなくてはキャラメイクで設定した容姿にすることが出来ない。しかも、成長速度は思っていたよりもゆっくりらしく、少なくとも三日程度では肉体面に大した変化はない。全く困ったもんだ。能力自体は問題ないとはいえ、これではどうやっても体格の不利は防ぎようがない。



 それはまだいい。問題はカコの改造だ。全ての階層を同時に改造しているというのに、恐ろしいほどに時間がかかっている。しかも、これだけに執心しているわけにはいかないのだ。めんどくさいにもほどがある。


「ふぅ……思ったよりやることがあるな」


 ほぼ確実に敵は山のようにいる。となれば、複数の戦闘を同時にこなさなきゃならねえときが必ずやってくる。そうなれば、今日みたいに一戦だけに集中することが出来なくなるだろう。人重兵器の数を抑えることは出来ない。カコの防衛、異世界での戦闘、それらをこなすには大量の人重兵器を創造し、その全てを掌握しなければならない。そうしなきゃ、生き延びれない。



 しかもだ。この過程で俺はこの特典の致命的な欠点を発見した。それは創造した人重兵器全てが俺の思うようにしか動かないってことだ。それがもたらすメリットはでかい。一切の合図もなく連携を取れるし、体が複数あることでやれることも増える。だが、全てが俺ということは必然的に全員の行動パターンが似通っちまうってことでもある。



 言動に関しては上っ面は誤魔化せるだろう。しかし、行動や思考パターンを各々変えるのは容易なことではない。全員が全く同じ動きをすれば、敵も俺たちへの対策を取りやすくなってしまう。つまり、俺は全ての人重兵器に対し、思考や行動にある程度の差異を生じさせなきゃならねえってことだ。すでに人重兵器は九十以上も作っている。ある程度似通うのは仕方がないにしても、それぞれ別人のように振る舞うなんざ、死ぬほどめんどくせえ作業だ。考えただけで気が滅入りそうになる。


「まぁ、向こうにいるよりはマシか」


 やるべきことが山ほどあるというのはよく考えれば恵まれている。もちろん、やりたくもねえクソみたいな仕事を山ほど押しつけられんのは勘弁だが、楽しめるのならいくらでもやれる。



 ただのゲームじゃないと確定で分かっている以上、ここで死んだらガチで死ぬかもしれない。けど、だからこそやりがいがある。ここで修練をし、実戦経験を積んで力を付ける。それこそがゲームの醍醐味じゃねえか。俺は最高に恵まれてる。今日ほど生きていて良かったと思えたことはない。



 どうせ、ここにどれだけいようが向こうの時間は進まない。最悪進んでたとしても構わない。そう思えるくらいに俺はこのゲームの虜になっている。だから、俺は頑張れる。何せ、あと八人創れば百人の戦力になるんだ。まずはそれを目安にやっていくとしよう。


「……ま、他にも気になることはあるが、こうやって好き勝手やるのも一興だよな」


 ひとまず、俺は残っていたカコの改造をやりながら、キャラメイクを続行した。両方を同時並行でやらないと時間がいくらあっても足りない。俺は久々に充実した気持ちでさらに徹夜を続けていった。







 ○○○○○


 未知の場所に鎮座する巨大な要塞。その通路を金髪の女性が歩いていた。彼女はベルン。『異世界mover』の案内人を務めている人物だ。



 彼女の業務は『異世界mover』を起動したプレイヤーに対する説明であり、その重要度は極めて高い。なぜならば、彼女の属している組織にとってはゲームを起動したプレイヤーは極めて重要だからだ。



 つい数日前、彼女は一人のプレイヤーにゲームについての説明を行った。そして、つつがなくチュートリアルを完了させ、一仕事を終えたはずだった。けれど、その顔はどこか浮かない。ベルンは角を曲がったところで通路の中央に仁王立ちをしている人物がいることに気付き、足を止める。


「やぁやぁ、どうしたんだい? ベルン。辛気くさい顔をして」


 通路の真ん中に突っ立っていたのは銀髪の女性。ベルンの同僚であるカリーだった。ベルンはそんな彼女を見て、わずかに目を細める。


「……邪魔よ、カリー。どいて」


「つれないねぇ。せっかく、話に来てあげたってのに」


「頼んでないわ」


 ベルンの素っ気ない態度にもう一人の案内人であるカリーはクスクスと笑う。だが、ベルンの前からどくことはない。自分勝手で規律も破りがちな同僚であり、ベルンにとっては頭痛の種の一つでもある。非難の意味も込めて、カリーを睨みつけるが、カリーはどこ吹く風といった素振りで口を開く。


「件の少年がいきなりゲヒド王国の部隊長に挑みかかったのは知ってるかい?」


「当然、知ってるわ。全く、肝を冷やしたわよ。あんたがどんな説明をしたのかは知らないけど、もう少しあの世界について説明しなさいよ」


 ベルンの表情が暗かったのはそのためだ。一歩間違えれば、チュートリアル直後のプレイヤーが死亡する可能性があった。結果的に生き延びたからいいものの、ベルンにとっては三日前の出来事は気が気ではなかった。


「おいおい。私はできる限りの説明はしたさ。もっとも、少しばかり上の指示でいつもより手抜きにしてしまった感は(いな)めないけれどね」


 カリーの言葉にベルンは小さくため息をつく。世界についてまともに説明できていなかったのはベルンとて同じだ。だからこそ、それ以上強くは言えなかった。


「そうね……。いつもはもう少し丁寧に説明させるのに、あんな雑な説明だけして放り出すなんてどう考えてもおかしいわ。上は諦めてしまったのかしら」


「逆さ。期待しているからこそ、不必要な先入観を持たせないようにしてるんだろ。調子に乗せすぎると失敗するのは過去の事例で検証済みだからね。もっとも、成功した(ためし)なんてないけど」


 この会話から分かるように、彼らが異世界にプレイヤーを参加させるのは初めてではない。過去にも幾人ものプレイヤーを送り込んでいる。だが、その全てが敗れ、死亡している。その数字は二桁を優に超えてしまっている。



 いい加減業を煮やした上層部は方針転換を図った。要は強大な力を最初から与えず、世界についての説明もほとんど行わない。そうすることで、プレイヤーに己の力を過信させないようにさせようという魂胆だ。だが……。


「結局、調子に乗っているわ。大して力の強化もせずに異世界に行くなんてどう考えても正気の沙汰じゃない。彼の特典はこれまでのプレイヤーが与えられたものと違って、最初から世界トップクラスに匹敵する実力を発揮できるものではないんだから。全く、あの世界に住む人間は救えない狂人しかいないのかしら」


「随分と辛辣な評価だなぁ。あの正気を疑う特典を与えられたってのに、早々に二人を同時に操りこなし、大国の部隊長とほぼ相討ちにまで持っていったんだ。ただの狂人で切り捨てるのはどうかと思うよ」


「過去に送り込んだプレイヤーたちも似たようなものでしょ。むしろ、最初から大国の精鋭たちと互角以上に渡り合った彼らに比べれば期待値は遥かに低いわ。どうせ、これまでのプレイヤー同様、最初の勢いだけで終わってしまうわよ」


「そうかなぁ。私は彼はいつもの連中とは違うと思うけどね。特典の力を過信して暴れ回った挙句に討ち取られるってのがお決まりのパターンになっていたけど彼らはそうはならなさそうだ」


「何の根拠があってそんなことを言っているのよ」


「根拠? そんなもの言うまでもないでしょ。世界観を全く説明せず、特典も最弱とは言わないまでも、最初から最強と呼ばれるものではない。どれも異例ずくめだ。普通はそんな状態で意気揚々と強者に挑みかかったりしない。お前の言う通り、連中は確かに救えないさ。それも過去の狂人もどきなんかと比べちゃいけない、正真正銘の狂人だ。あいつ並に狂ってるヤツなんか、少なくとも私は見たことがない。翻せば、そういう過去に例を見ないヤツはこれまでの常識をひっくり返し、状況を打開する切り札足りうる。それは過去が証明済みだろ?」


 カリーの発言をベルンは真顔で聞く。到底、納得できない理屈。けれど、それでもどこか筋が通っているとベルンは思ってしまう。



 しかし、所詮は明白な根拠も論理的な裏付けもない滅茶苦茶な理屈だ。ベルンは小さくため息をつき、否定の言葉を口にする。


「……言いたいことは分かるわ。けど、過大評価のしすぎだと思うわよ。どう考えても、彼はまともではない。おそらく、死亡するまでの時間は過去最短を記録すると思うわ」


「その時はそれまでの器だったってだけの話さ。どうせ、私たちに選択肢なんてない。なら、ああいうのに賭けてみるのも一興じゃないか?」


「……それもそうね」


 どうせ、プレイヤーなど使い捨ての道具でしかない。たとえ、今回送り込まれた和古田総次郎という少年が敗れたとしても代わりはいくらでもいる。そう自分に言い聞かせて、ベルンは頷く。その内心を見透かしてか、カリーが肩をすくめながら、口を開く。


「とはいえ、いい加減時間もなくなってきたし、出来ることなら、彼には期待を裏切ってもらいたいところだけどね」


「厳しいわね。彼が失敗したとして、残るチャンスはあと二回か三回程度……。そのチャンスを逃せば、私たちは切り札なしで計画に挑まなくてはならなくなる」


「一人ずつ送ってるからねぇ。効率が悪くなるのはどうしようもないさ。かといって、複数のプレイヤーを送り込んだ結果があの有様だったわけだしねぇ。ほんと、キツイったらありゃしない」


 カリーの言葉にベルンは眉をひそめる。彼女たちの脳裏にあったのは、過去に発生した救いようのない出来事だった。過ぎたことはどうにもならないとはいえ、彼女たちにとってはあまりいい思い出ではない。


「非効率な手段に頼るしかない……か。何も出来ないのは歯がゆいけれど、それでも私たちは全霊を尽くして、その人が現れるのを待つしかないわ」


「まあねえ。ま、それでも彼が現れてくれたのは僥倖(ぎょうこう)だと思うよ。今ごろ、『連中』も慌ててるでしょ。彼がこっち側についてくれてよかった」


「あの力は確かに彼らも無視は出来ないでしょうけど、制御できていない現時点では時間稼ぎにしかならないわ。結局のところ、彼が強くなくては何の意味もない」


「まあね」


 もっともな言葉にカリーは小さく頷く。その後、一言二言交わして、二人は別れた。ベルンは上司の下へ、カリーは自室へと足を進めていく。



 廊下を進む途中、ベルンは立ち止まって小さくため息をつく。ベルンの本音としてはもう少しプレイヤーの選定をしてほしかった。刻限も迫っていることを踏まえればプレイヤーの質の確保は必要不可欠だからだ。



 要はベルンは完全に総次郎を見くびっていた。これまでのプレイヤー同様、どうすることも出来ずに死ぬことになるだろうと考え、歯牙にもかけていなかった。







 ゆえにこの先思い知らされることになる。彼女たちが送り込んだ人間がどれほどの怪物であったかを――――――――。

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