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1-1 異世界転移

 画面が表示されてすぐにホップアップが表示される。そこにはこの世界、カコについての説明が書かれていた。



 それよると、どうやら俺にはこの世界を好きに改造することが出来る権限があるらしい。基本としてはカコは複数の階層に別れており、地下に潜れば潜るほど大気に満ちる魔力が濃厚になっていくというダンジョンに近い形状になっているようだが、階層ごとの空間をどうするかは俺に委ねているようだ。



 ここまで見る限りでは、俺は人類の敵に当たるポジションとして転移させられたように見える。さしづめ、魔王プレイを楽しめ、ということだろうか。


「……まあいい。次、行くか」


 俺は画面をタップして、次のページへと進める。すると、カコ改造の画面が表示される。適当にページをタップすると植物がいくつか表示される。……だが、その形状がおかしい。


「何か……何というか……うん……?」


 写真でしか見ていないので何とも言えないが全ての植物が枯れている。いや、何なら、刀のような草や朽ち果ててボロボロの樹木まである。おまけに成分を見てみると、全て魔力で構成されているという意味の分からない文章が書かれていた。



 俺はひとまず左上にあるヘルプボタンを押す。さすがにこの盤面でいきなりベルンに聞くのもアレだからな。ヘルプで解決しなかったら、電話するとしよう。



 ざっと調べたところ、魔力というのは転移した世界に存在する力のことを指す。これを使い、魔術や身体能力強化などを行える。ここまでは普通のファンタジーと変わらない。だが、このカコは俺の魔力を使い、構成されている。ここが大きく違う。



 一応、転移した世界は俺の魔力なしでも動くらしいが、基本的にこの世界は俺の魔力ありきで動く。だからこそ、俺の好きなように改造できるわけだ。そして、その魔力こそが俺のもう一つの特典に大きく関わってくる。というところでカコの魔力についての説明文が終わっていた。


「……どうするかな。一応、この階層を作ればこのミッションは終わりらしいが……」


 ゲームらしくチュートリアル形式になっている。まずはこの階層に植物や建物などを創造し、地形を操作して形にする。満足したところで階層創造ボタンを押せば、この階層の創造が完了し、無事チュートリアルクリアとなって、次に行ける。



 後で変更することも出来るらしいので、俺は適当にいくつか植物と建物を生やし、地形は軽い斜面をいくつか作る。本当は全部平地でもいいんだが、地形も変えろといわれたので仕方なくそうした。まぁ、チュートリアルだから、一応全部経験させておかないと、ってところなのかね。



 階層の改造を終えてボタンを押すとチュートリアルクリアとホップアップが出現した。その後、階層を増やす説明が表示され、次に行ってもいいですかと表示が出たので俺は『はい』のボタンを押す。


「これが拠点か……。なんつーか……思ってた以上に禍々しいな」


 錆びた廃ビルや枯れ果てた草原が生い茂る空間を見て、俺は独りごちる。この空間で力を蓄えるのか……俺は……。


「まあいいや。どんどん進めていこう」


 力を付けるまでの我慢だ。力を付ければ、異世界に行ける。そうすりゃ、少しはマシになるだろう。そう思った俺は目の前に表示された説明を見る。


「キャラクターエディットのやり方。……これが噂のもう一つの特典か」


 はっきり言ってこれはカコよりも意味不明だったからな。どんな特典なのか、よく見ておかねえとな。


「……えっと、何々。これはあなたの仲間を増やすための特典です。あなたには今からキャラメイクをしていただきます」


 仲間を増やす……。エディットという言葉から自分の容姿を好きに変えて、異世界に行くというモノだと思っていたが、自分の容姿を変えるのではなく、仲間を作るための特典か。となれば、確かに生存率が高くなるかもしれねえな。


「そういうことなら遠慮なく作らせてもらおうか」


 俺は説明を見つつ、タップし、キャラメイク画面に向かう。最初に現われたのは性別決定画面だった。この体が男なので一人目の仲間は迷わず女にする。



 すると、さっきと同様、目の前に等身大の女のディスプレイが出現する。デフォルトは黒髪ショートヘアのキリッとした顔立ちの女だった。俺は先ほど同様横にあるメニューを弄りはじめる。



 デフォルトでも充分可愛いが、やっぱ、いろいろ変えねえと面白くねえよな。何より、さっきはイレズミと古傷程度しか入れてねえが、こっちはせっかく女なんだ。服もアクセもいろいろと付けてみてえ。



 だが、そんなものはまだまだ序の口だ。このゲームには文字通り無限の可能性がある。それは声や顔だけじゃねえ。他にもあるんだ。もっとも、重要なモノが……。







 そう……。このゲームは胸の大きさ(・・・・・)を自由に(・・・・)変える(・・・)ことが(・・・)出来る。(・・・・)体型を変えられることはすでに言ったが、胸の大きさも自由に変えられる。まぁ、これくらいの設定は珍しくも何ともねえが、それでも男ならテンション上がるだろ?



 さっきと違ってアクセが付けられなかった上に服装は白いシャツと紺のズボンしか設定できなかったので、仕方なく我慢した。その代わり、それ以外はいろいろ変えた。とりあえず、イレズミとか古傷とかそういうのは入れたりせず、身長170くらいの金髪ロングかつ碧眼の美女にした。肌は透き通るように真っ白で腰も手足も細く、しなやかだ。声は大人っぽい見た目に合わせて、アルト寄りの低めの大人の声だ。そして、胸のサイズは上から三番目にした。



 というのも、それでも充分すぎるほどに爆乳だからだ。最大も見てみたが、さすがにあまりにでかすぎるんで、三番目で妥協した。多分、これでもFは行ってるんじゃないだろうか。







 そんなこんなで外見を決めた俺は決定ボタンを押す。すると、名前をどうするか、という画面が表示される。要はさっきと同じ、名前をつけるだけの作業だ。


「適当でいいな」


 さすがに名前まで本格的に考えるのも面倒だ。俺は姓名を『エルナ・ウォタル』にし、創造ボタンをクリックする。すると、目の前に白い光が発光する。目を覆うほど眩しくはないが、俺は思わず目を細めていた。同時に俺は奇妙な感覚を感じる。何というか……視界が複数に分割していく感覚……というのか……。端的に言うと、昔の据え置きゲームの複数対戦みたいに視界がもう一つボンヤリと増えていく感じだ。それだけでなく、何かが中に入り込んでいる――いや、何かが外に出ていくような感覚に襲われる。



 やがて、光が収まり、視界が完全に二つに分かれた。俺は増えた方の視界を無視して、自分の目で眼前を見る。そして、目の前に現れたモノを見て、俺は目を見開く。


「は……?」


「……………………」


 眼前に鎮座していたのは設定したよりも遥かに小さな金髪の少女だった。年の頃は多分十二、十三歳といったところだろう。服は白のシャツと紺のズボンを身に纏っていた。目こそ閉じられているが、瞳を見ずとも可愛らしい少女であることは容易に想像が付いた。


「何だ……? どういうことだ……?」


 だが、俺が戸惑ったのはこいつがあまりにも幼すぎるということだ。俺はてっきり、一時間かけて作ったあの美女が目の前に現われるのだと思っていた。だが、実際に現われたのは設定よりも幼い少女だ。一体、どうなってんだ? これは……。何かのバグか?



 俺は内心混乱しつつも少女をジッと見る。だが、少女は微動だにしない。目を閉じたまま、床に座っている。


「……………………」


「……いや、何か喋れよ」


 当初はこの少女に戸惑っていたが、あまりにも沈黙を守っているので思わずツッコんでしまう。その時、俺はふと妙な感覚が体の中に(・・・・)もう一つあることに気付いた。俺は閉じていた新たな視界を開く。すると、目の前の少女が目を開いた。その目はやはり海より青い綺麗なモノだ。けど、それよりもその新たな視界に俺の体が映っていたことの方が特筆すべきコトだろう。


「あ……? 何で、俺が映ってんだ……?」


 二つの視界はそれぞれ別のモノを見ている。そして、俺が見ているモノではない方の視界は俺の姿を映している。……おいおい、まさか……。



 俺は何の気なしに俺を見ている視界の方に意識を割き、体を動かす。すると、目の前の少女が動き出す。別の体を動かしているという違和感を感じることなく、立ち上がり、軽く動き回る。俺の思うとおりに少女が動く。


「おいおい、まさか、これって……」


 この少女を動かしてるのは俺……ということか? いや、待て待て待て。そうなると、俺の肉体と同時に動かさねえとならなくなるってことだよな? ……何が特典だ。こんなのどうやって使えってんだよ。



 俺は自分の体で頭を抱えつつ、少女を適当に歩き回らせる。どうやら、ある程度は同時に動かせるようだ。それがこのゲームの仕様なのか、他に何か仕組みがあるのかは分からないけどな。だが、もし増やす度に操作キャラが増えるのならダルすぎる。



 もし、操作するキャラクターを選べるのならばいいが……その辺は聞いてみないことにはなんとも言えねえからな。


『ほうほう。どうやら、問題なさそうですなぁ』


 そこで突然声をかけられる。振り返ると銀髪に赤い目を持つ黒いワンピースを身に纏った褐色の女が立っていた。


「てめえは……」


 俺は少女を地面に座らせて、女の方を振り向く。ここは特典で与えられた空間のはず。そこに入れる時点でこいつもベルンと同じチュートリアルのナビゲーターか何かと見るべきだろう。


『おや、驚かないのですかな? これでもがんばって気配を消したつもりだったんですが……』


「生憎ともっと驚くことがあってな。今さら、その程度じゃ驚かねえよ」


 そもそも驚く理由がない。確かに気配もなく後ろに立たれたのは驚いたが、それも何らかの趣旨だろうし、こいつがチュートリアルのナビゲーターだと考えれば驚く理由は何もない。


「そんで? このタイミングで現われたってコトはお前もナビゲーターと見ていいんだよな?」


『構いませんよ。カリーと申します。お好きにお呼びください。またベルン同様人工知能も搭載されておりますので、お気軽に質問等をしていただいて構いません』


「あいよ。そんで? このクソみたいな特典でどうしろって言うんだよ?」


『クソみたいとは酷い言い方ですなぁ。その特典を扱えるだけでも充分すぎるほどに凄いんですよ?』


「何の話をしてやがる?」


 俺は睨みつけるが、カリーはどこ吹く風といった様子でクスクスと笑いながら、両手を広げ、続きを口にする。


『あなたは先ほど二人を同時に操りました。ですが、これは普通の人間に出来ることではないのですよ』


「そりゃ、このゲームの仕様なんじゃねえのか?」


『いやいや、どんな仕様ですか。そんなコトが出来れば誰も苦労しませんよ。その証拠に二つのキャラクターを簡単に――しかも、同時に操作できるゲームなんてこの世のどこにもないでしょう?』


「いや、あるにはあるぞ。同時に二つのキャラを操作するゲームくらいなら」


『ですが、それらのゲームは複数の人間をここまで容易く自分の体のように操ることは出来ないでしょう?』


 そう言われれば否定は出来ない。複数のキャラを操作するゲームはあることにはあるが多くの場合はボタンなり何なりでキャラに命令を送り、その命令通りに動かすのが関の山だ。二キャラをここまで複雑かつ同時に操作を容易くできるゲームなんて、少なくとも俺は聞いたことがない。



 いや、普通の一人用のゲームだとしても動画投稿サイトで二つのコントローラーを使って二キャラ同時操作をやっている動画くらいならば見たことはある。見たことはあるが、どんなに簡易化されたコントローラーでも二キャラ同時操作は簡単ではないはずだ。だからこそ、動画のネタになるんだからな。


『もちろん、異なる二つの事柄を同時にやることが出来る人間ならばいくらでもいますがね。それでも二人を同時に動かせる人間なんてものはこの世にいないんですよ。人一人を動かすというのは途方もなく複雑で困難な作業だ。けれど、あなたは片割れが慣れていない四足歩行の獣であるにもかかわらず、たやすく動き回らせることが出来た。それは我々があなたに与えたモノではなく、あなたが元来持っていた才能なのですよ』


 そう言われても今ひとつピンと来ない。確かに飯を作りながらスマホをやったり、洗濯物を畳みながらテレビをダラダラ見ていたりと二つのことを同時にこなすことをやったりしたことはあるが、だからといって才能があると言われたところで全く実感なんざ湧かねえ。


『実感がない気持ちは分かります。ですが、あなたならばこのゲームを最大限に楽しむことが出来る。それは事実です』


「よくわからねえが……この特典がキーボードじゃなく、VRMMOの形式でのゲームにした理由ってわけか?」


『そうなりますね。二、三体程度ならばある程度の複雑性を犠牲にすれば同時に操作することは出来るでしょうが、数十数百ともなるとキーボードやコントローラーでは操作しきれませんから』


「数百……!?」


 あまりにも突拍子のない数字に俺は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。百もの人間を一つの頭脳で操作するなんざ、どう考えたって不可能だ。一体、こいつは何言ってんだ。


『ええ。可能ならば……の話になりますがね。キャラクターエディットの作成キャラ数に上限はありません。あなたの素質次第では幾千幾万の猛者を育成することも可能です。ちなみにキャラを増やせば増やすほどカコに出現する階層も増えます。今回は最初なので特別に二階層追加させていただきましたぞ。この後、一人増やすごとに一階層ずつ増えていきますので是非とも多数のキャラクターを作り、最強の『人重兵器(じんじゅうへいき)』の集団と鉄壁の要塞を作ってください』


「待て待て。こいつだけじゃダメってことか? それに人重兵器っていうのは何だ?」


 平然と爆弾発言と未知の単語を発するカリーに俺はたまらず口を挟む。それにカリーはにんまりと笑いながら答える。


『……まず、一つ目の質問に答えさせていただきます。もちろん、その人物のみでも構いません。ですが、これからあなたが向かうのは猛者たちが蔓延る世界です。たった二人で挑むのは無謀すぎるかと思われます。ゆえに幾千幾万の配下を創造し、その全てを猛者に育て上げる必要がある、と現時点では申し上げておきましょう』


「なるほどな。じゃあ、次はさっき言ってた人重兵器とやらについて教えろ」


『承知しました。では、人重兵器とは何かについて簡単に説明しましょう。人重兵器とは簡単に言えばマスター――この場合はファス様ですね――の配下として動く人間のようなモノと考えてください。ファス様にはその人重兵器を使用し、一つの集団を作っていただきます』


「要は魔王になる……みたいな感じで考えればいいのか?」


『そう捉えていただいて構いません。簡単に言えば、あなたは人類の敵として異世界に転移していただくということです』


 人類の敵……。何か、思っていたのと違うな。けどまぁ、そういう系の異世界モノも少なからずあるし、メジャーと言えばメジャーか。


「なるほどな。それじゃ、わざわざキャラメイクさせておきながら、こんなガキが出てきた理由は?」


『人重兵器には肉体成長という概念が存在しております。その肉体成長の度合いが最大まで上昇すると先ほどのキャラクターメイクで作成した姿見にまで成長します。言い換えれば、キャラメイクで作成した容姿こそがその人物の外見の成長度合いの最終段階――ということになりますな』


「肉体成長ってのはどうやってあげればいい? レベルでも上げねえとならねえのか?」


『いえ、本ゲームにレベル制はありません。肉体成長に必要なのは時間のみです。一定以上時間が経過することで体を成長させることが出来るシステムとなっています』


「おいおい。それじゃ、結局ただの人間と変わらねえじゃねえか」


 あまりにも普通すぎる方法に俺は呆れてしまう。さすがに必要な時間は普通の人間が成長するよりは遥かに短いんだろうが、あまり待つのは好きじゃない。カリーはそんな俺を見て苦笑しつつ、口を開く。


『あくまで肉体面の話ですぞ。人重兵器そのものを強化しようと思えば、魔力をよそから奪う必要があります』


「魔力……ね。その魔力はどうやって得る?」


『基本はマスター……つまり、ファス様から魔力を供給していただく形になりますかな。他にも、物質や生命を破壊することで対象の魔力を奪うことも出来ます』


 はっ、人類の敵とはよく言ったもんだ。俺から供給できる魔力なんてほぼ確実にたかが知れている。つまり、こいつらを強化するには異世界で破壊の限りを尽くすより他にないってコトか。


「なるほどな。大体は分かった。つまり、ある程度操作に慣れたら即この世界から出ねえといけないってわけか」


『いえいえ。現在のファス様の持つ魔力だけでも幾千幾万の人重兵器の魔力を神レベルにまで上げることは可能ですよ。ただ、猛者を育てるのであれば戦闘経験が必要だというだけの話です。戦闘力をいくら上げようとも、肝心のあなたの戦闘技術が未熟では何の意味もありませんからな』


「そうかい。そんじゃ、ステータスとかはあんのか?」


『残念ながらありません。それらしいものを見繕うことならば出来ますが、認識と実際の能力に齟齬が生まれてはコトですからな。ですから、ご自身の戦闘力はご自身で把握していただくより他にありません。心配せずとも、修練や実戦経験を積むことで基礎戦闘力も上昇していきますから、ステータスなどなくても問題ないのです』


「ほーん。RPG風のゲームのわりにステータスだのレベルだのっていうのはないんだな」


『本ゲームはRPGではなく、転移に重きを置いておりますから。ですから、あなた方が基礎戦闘力を上昇させるつもりならば、魔力を供給するか、鍛えるか、魔力を奪うか……基本的にはその三つ以外にないとお考えください』


 なるほど。やはり、ずっとここに籠もっているわけにはいかないということか。実際、カリーも異世界に行かずとも魔力を神レベルに上げることは出来るとは言っていたが、猛者を育てるならば経験を積む必要があると言っていた。つまり、魔力だけならばいくらでも上げられるが、戦闘技術なんかを磨こうと思うのならば、外に出る必要があるってコトだ。



 ま、どのみち今の俺は素人の域を出ていない。このザマで神や魔王にいきなり挑もうなんて思わねえし、理屈としてはもっともだ。ならば、俺もこれ以上言うことはない。


『とりあえず、こんなところですかな。それでは最後に一つ重要なことをお伝えしておきましょう』


「重要なこと?」


『本ゲームにおける時間の流れについてです』


 そういえば、こっちに来てからそこそこ時間が経っている気がする。時計がないからなんとも言えねえけど。



 次の日が休みだから、焦ることもないが、下手するとゲームを始めてから数時間は経ってるかもしれねえ。


『本ゲームでは時間操作システムというものを導入しておりまして、基本的に本ゲームをプレイしている間はよほどの長時間でない限りは現実での時間が進むことがありませんので安心してごゆっくりしてください』


「……は?」


 思わず素っ頓狂な声が出てしまう。いやいや、待て待て。時間が進まない? そんなアホなことがあるわけないだろう。


「何言ってんだ。いくら、VRMMOつったって、現実の時間が進まねえわけがねえだろ」


『その辺の説明は私も受けてないので何とも言いかねますが……もちろん、全く時間が進まないわけではありませんよ? ですが、こちらの世界にいる限り、向こうの世界での時間の流れは限りなく遅くなるということです』


 そんな馬鹿な。いくらなんでも、ありえない。時間の流れが変わる? ただのゲームにそんな芸当が出来るわけがない。


『疑う気持ちは分かります。ですから、現時点で必要な情報を告げておきますね。基本は右上のメニューマークでいろいろなことが出来ます。そして、メニューマークを押すと表示されるセーブボタンを押すと現在の状態を保存したまま、ログアウトし、元の世界に戻れます。その後に時計を確認していただければ分かると思います。では、以上で説明及びチュートリアルを終わらせていただきます。何か質問はありますかな?』


 質問があるか、と聞いてきているが、あまりにも聞きたいことが多すぎて頭がまとまらない。そんな俺を見て、カリーは再度苦笑すると、見かねたように打開策を口にする。


『分からないところがあればヘルプマークで確認するか、我々に直接聞いてください。本ゲームは自由がモットーですので、チュートリアルは必要最低限にさせてもらっております。そのあたりはご理解いただけるとありがたいです』


「……………………」


『では、これにて失礼させていただきます。ぜひとも、本ゲームを楽しんでいってくださいませ』


 カリーはそれだけ言って眼前から煙のように消えてしまう。俺はそれをただボーッと見ていることしか出来なかった。


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