8.振り返れば、奴がいる
「二手に別れましょう」
そう、笹本君が提案してきた。
「えっ、いや、しかし」
不安すぎる。即答は躊躇われた。
笹本君とは違い、私にはその『捕食者』とやらに対抗する手段が無いのだ。
一人で出会ってしまったら、為すすべなく「捕食」されてしまうのではないか?
不安をそのまま笹本君に伝えると、彼は首を振って答えた。
「いえ、二人でいる方が危険です」
「な、何故だ?」
「やつらは先ほど言ったように、人間『個人』の特徴を捉え、見極めるのは苦手です。しかし『集団』はそれなりに認知します。恐らく人数や服の色、背丈などで判断しているのだと思いますが、特に『数』が重要だと推測されています。だから奴らの目を逸らすには、まず人数の変更が鉄則なんです」
「し、しかし」
「それに⋯⋯対抗手段が無い、という意味では、僕も部長と変わりません」
「えっ? しかし⋯⋯」
君には銃があるだろう? と聞く前に笹本君は銃を取り出して、空に向けて引き金を引いた。
カチン、カチンと無機質な音が響く。
「支給される弾丸には制限があります、
今日は三発でした。それで充分だと思っていたのですが」
誰に支給されているのか? という疑問が当然浮かんだが、話の腰を折りそうなのでやめておいた。
笹本君は更に話を続けた。
「奴の動き、これまで僕が相手をしてきた奴にはない凄みがありました。まさか撃ち漏らす事になるなんて⋯⋯すみません、部長。巻き込んでしまって。謝って済む問題ではありませんが、まさかこんな事になるとは⋯⋯あっ!」
笹本君が突然声を上げた。
その視線は、私の背後──つまり、この袋小路の入り口へと向いている。
私は考えるより前に、振り向いた。
そこには。
オッサンみたいなオバサンに見える存在がいた。