7.捕食者
しばらく走り続け⋯⋯気が付けは袋小路へ行き着いてしまった。
先ほどの、オッサンみたいなオバサン? と言って良いのだろうか⋯⋯からはかなり距離を取ったとは思うが、行き止まりのため焦燥感は強くなる。
「恐らく⋯⋯大丈夫だと思います、引き離しました」
笹本君の言葉に、私は少し落ち着きを取り戻すと、次に疑問を口にした。
「さっきのアレ⋯⋯何なんだ!?」
「あれは、『捕食者』です」
「捕食者? いったいどういうことなんだ!?」
「言葉通り、捕食するのです⋯⋯人を」
笹本君の説明によると。
奴らは昔から存在し、人間に擬態し、人間の生活に紛れ込み、人間を捕食する。
彼は代々、その『捕食者』を討伐する家系だ、との事だ。
奴らの急所は頭ではなく、その少し下で、頭部は出血こそ派手だがほとんどダメージを与えられないらしい。
つまり、あの時奴が僅かに頭を下げたのは、防御行動だった、ということらしい。
荒唐無稽な話である。
信じる、信じないは別として一つ疑問がある。
「オッサンみたいなオバサン鑑定士とそれがどう繋がるの!?」
「奴らの擬態の特徴です」
「オッサンみたいなオバサンが!? 何その変な特徴は!」
「恐らく⋯⋯認知の限界なのでしょう」
「に、認知の限界?」
「はい。例えば部長、初めて見る猿の群があったとして、一匹一匹すぐに見分けたりできますか?」
「いや、自信ないけど⋯⋯」
「でしょう? つまりそういうことです」
「あの、ゴメン、もう少し説明を」
相変わらず情報不足な笹本君の説明は続いたが、つまり、こういう事らしい。
奴らは「相手が人間」であることはわかる。
しかし、人間一人一人を特徴付け、観察するのは得意ではない。
つまり、人間というものの、彼等なりのいわゆる「ステレオタイプ」に当たるのが、「オッサンみたいなオバサン」であり、その姿に擬態する、というのだ。
ハリウッド映画に出てくる日本人が「チビで、出っ歯で、メガネかけていてカメラ持ってる」みたいな感じってことだろう。
つまり笹本君は「オッサンみたいなオバサンに見える存在」を、「オッサンみたいなオバサンないしはオッサンみたいなオバサンに見えるオッサン」なのか、「捕食者」なのかを鑑定している、ということだ。
だから私が「おじいさんなのかおばあさんなのか鑑定していた」と言ったときに「それとは全然違います」と答えたし、「あれオッサン? それともオバサン?」と聞いた時も「そんなのどうでも良くないですか?」と返答したのだろう。
改めて私がその事に言及すると、彼は言った。
「わかって貰ってた上で、仰ってるのだと思ってました」
「⋯⋯えっ? なんで?」
「だって」
笹本君はいつもの調子で、キッパリと言った。
「赤の他人が、オッサンなのかオバサンなのか解ったところで、何の意味も無いでしょう?」
⋯⋯ごもっとも、だけどさ。