6.君の笑顔
「すみません、お待たせしました」
しばらくして笹本君がやってきた。
何か準備がある、と言っていたが、仕事終わりに別れた時と比べても、特に変わった様子はなかった。
「では、行きましょう」
笹本君が歩き出す。
その後ろを付いて行きながら、私はさらに考えた。
『オッサンみたいなオバサン鑑定士』とやらは、見てもらうのが早い、と彼は言った。
となると、これからオッサンみたいなオバサンを鑑定する、ということなのだろうか?
しかし、この街ってのは何故なのだろうか。
この街だと、『オッサンみたいなオバサンだけど心はオッサン』には事欠かなそうではあるが⋯⋯。
いや、その場合はただ単に『オッサン』とするのが正しいのだろうか。
などと考えていると、ちょうど「それっぽい」感じの人とすれ違った。
あまりじろじろ見るのも憚られるので、視線は向けないようにしながら、小声で笹本君に聞いた。
「今の人は、どっち?」
「⋯⋯どっち、って何がですか?」
「いや⋯⋯オッサンなのか、オバサンなのか」
「⋯⋯そんなの、どっちでも良くないですか?」
何コイツ。
腹立ってきたな。
意図がよくわからない上に、仮に冗談だとしても引っ張り過ぎだろう。
そろそろ本気で注意しようかと考えていると、灯りのあまりない路地裏に差し掛かった。
「いました」
笹本君が、声を抑えて告げてくる。
通りの反対から、確かにオッサンみたいなオバサンがやってきている。
ふう、仕方ない、もう少し乗ってやる事にしよう。
私の鑑定では、あれは、オバサンだ。
背丈はちょうど娘の桜子と同じくらい、つまり小柄だ。
男性にしては、小柄過ぎるだろう。
こんな時も娘基準、ふふふパパの鑑。
「笹本君、私の鑑定では、あれはオバサンだよ」
「いえ、違いますね」
笹本君は私の言葉を否定しながら、懐へと手を入れた。
再び手を外に出した時には、黒い塊が握られていた。
銃だ。
もちろん、モデルガンか何かだろうが⋯⋯笹本君はその銃を、オッサンみたいなオバサンへと向けた。
いや笹本君、モデルガンでも人に向けちゃダメだよ?
注意しようとすると、前から来るオッサンみたいなオバサンがこちらに気が付き、少し頭を下げた。
次の瞬間。
パン、パン、パン!
連続して、乾いた音が鳴り響いた。
音と連動するように、オッサンみたいなオバサンの頭が弾け、赤い血飛沫が舞った。
「すみません! 外しました!」
いや、見事なヘッドショットだったよ?
などといったセリフを言う余裕もない。
何? 何が起きてるの?
思考が追いつかない。
「部長! 逃げますよ!」
笹本君が私の手を掴み、そのまま引っ張る。
いや、でも。
撃たれた人を介抱しないと。
でも、撃ったのは笹本君で。
えっ?
えっ?
ふと視線をやると──オッサンみたいなオバサンが、頭から血を流しながら
ニタリ
と笑った。
全力で逃げた。