2.オッサンみたいなオバサン鑑定士
周りから見ればどう思われるのかは知らないが、私の人生はそれなりに順調、と自己評価している。
公私ともに充実している。
娘ともっとコミュニケーションがとれれば、さらに言うことなしだがそれは贅沢というものだろう。
今朝がた娘には睨まれてしまったが、会社では上司に睨まれることなく順調に出世している。
私は同期でも初の部長職となった。
それには上司に睨まれなかったこととは別に、もう一つ幸運があった。
部下に恵まれた。
私がまだ課長だった二年前。
私の課に配属された笹本君は、正に傑物と称して余りある人物だった。
物事の本質というか、要諦をすぐに掴み取る男で、陳腐な例えになるが正に乾いた砂が水を吸い込むが如く仕事を覚えた。
正直、今現在仕事を遂行する能力で言えば、私は彼の足元にも及ばない。
しかし笹本君はあまり出世欲というものがないのか、成果の殆どを「私のおかげ」と周りに触れ込むのだ。
部下の手柄を我が物にして出世するのは心苦しいが、家のローンを考えればありがたい施しである。
プライド? そんなものは元利均等返済払いの前では、私にとってのプライムな価値観足り得ないのだ。
笹本君はおおよそ欠点のない人物だ。
仕事もできるし、外見も爽やかなイケメンだ。
一度我が家へと食事に招待したところ、普段私に話し掛けてくることなどない娘が
「あの人何歳なの!?」
「彼女いるの!?」
「高校生とか守備範囲かな!?」
などと、矢継ぎ早に質問を繰り出してきたのだ。
おのれ笹本! 娘は嫁にやらんぞ!
いや、笹本君なら嫁にやってもいいっていうか貰ってください。
まぁそんな笹本君の欠点をあえて挙げれば、頭が良すぎることかも知れない。
彼は正に「一を聞いて十を知る」を地でいくような人間のため、他者にもそれを求める節がある。
つまり、彼の事を良く知らない人からすれば「言葉足らず」と感じることがあるかも知れない。
だが彼の上司として過ごすこと二年。
私は彼の言葉足らずな部分を、少しのヒントで回答を導き出すクイズ王の如くわかるようになってきた。
そんな彼の今朝の一言は
「実家の代々の家業である、『オッサンみたいなオバサン鑑定士』を継ぐことになったので、退職します」
とのことだった。
⋯⋯どうやら、今朝はノーヒントのようだ。