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世界の始めの第一歩。  作者: 黒木和夜(白犬狼)
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4話



 4話 化学的大爆発


 奏彫高校 図書室

 図鑑や小説など、種類は決して多くないが落ち着きのある木製の本棚が並び、今では珍しい木の香りが立ち込める世界で唯一の場所になりつつある。

 時計が午後3時を指し示したころ、その図書室ではリリィの誤解を解き、カッターシャツに身を包んだ少女と少女の白衣を羽織り、恥ずかしさのあまり頬を赤らめた子供が、お互いに顔を合わせず机に視線をやりひたすらにお茶をすすっていた。


 「なぁ……」


 気まずい空気が流れるなか、少女は子供に顔を向け口を開いた。怒られると思ったのか、子供は少女の言葉に小さく体を震わせた。


 「なんで男って言わなかったんだ? そりゃ聞かずに連れ込んだ私も悪かったけどさ……」


 少女が子供の方に目を向け言葉を口にすると、子供は反省の色を浮かべ、明らかに落ち込んでいた。


 「まぁここはお互い水に流そう、ほらこっち向け」


 少女の一言で子供は恐る恐る少女と目を合わせた。


 「大丈夫だもう私は気にしてない。それよりも私はお前の事が知りたい、まずは名前を教えてくれるか?」


 そう言うと子供は少女に顔を合せ口を開いた。しかし子供は口を動かしているだけで声は一切出ていない。


 「どうしたんだ? 口を動かしているだけじゃわからないぞ」


 しかし少女がそう言っても子供は声を出さず。それどころか普通は大声が出るはずの口の動きをしているのに出ていない。


 「なあ、お前もしかして声が出ないのか?」


 少女がそう言うと子供は落ち込んだ様子で軽く頷いた。


 「なるほどな、そりゃ男って言えない訳だ……辛かったろ」


 少女は下を向いたままの子供の頭を優しく撫でると。


 「そうだ、ちょっと待ってろ」


 少女は立ち上がり図書室の貸し出しカウンターから鉛筆とメモ帳を出すと、子供に手渡し再び椅子に座った。


 「これなら問題なく書けるだろう?」


 子供は手渡されたメモ帳に丁寧に鉛筆で文字を書くと少女に見せた。


 『ぼくは佐喜さき 陸斗りくとといいます。助けてくれてありがとうございます』


 「陸斗か……年はいくつだ?」


 陸斗はメモ帳のページをめくると、新しいページに文字を書き再び少女に見せた。


 『10歳です』


 「という事は私とは5つほど下なのか、にしても難しい漢字も書けるんだな」


 そう言うと陸斗はまたメモ帳に文字を書くと少女に見せた。


 『おねえさんの名前はなんですか?』


 「あっ、そういえば言ってなかったな、私はしの……」

 

 少女が名前を言い始めたその時。


 「マスター、いるか?」


 会話に割って入るように、ナヴィが図書室の扉を開き入ってきた。


 「あ、ナヴィどうしたの?」


 少女は振り向くと、ナヴィと目を合わせた。


 「リリィが呼んでたぞ。ちょっと話したい事があるらしい」


 「ちょうど良かった私も話したい事があったんだ。すぐ行くからナヴィはこの子のことお願い」


 「分かった」


 そう言いナヴィに陸斗を任せると、少女はリリィのいる科学室へと向かった。


 「あっ、マスター来てくれてありがとうございます」


 扉を開けると、リリィがマガジンが引き抜かれた陸斗の拳銃が置かれた机の前に立っていた。


 「銃の種類もう分かったの?」


 「はい」


 机を挟みリリィと向かい合うと、リリィはマガジンが抜かれた拳銃を手に取った。


 「この銃はグロック17と言われるもので、マスターが持っている銃よりも少し後に作られた拳銃です。装弾数は17、残弾は7つ残ってました」


 「そうか……って、ん? まってさっき残弾って言った?」


 「はい、確かに残弾が7つ残っていたと言いましたが……」


 リリィの言葉に少女は耳を疑った。始めて陸斗と会ったときに引き金を引かれたが弾は出なかった。それに銃には故障や破損は見られず、もし不発だったとしても7発も入っていたなら一発ぐらいは出るだろう。


 「もしかしてですが、あの子に引き金を引かれたりしました?」


 「ああ、だがあの時弾は出なかったぞ」


 「きっとこれのおかげですね」


 そう言うとリリィは引き金を指差した。


 「この銃は引き金に安全装置が着いていて、これと一緒に引き金を引かないと弾が発射しない仕組みになっているんです」


 少女は指差した場所を見ると、確かにリリィが指差した引き金には、小さなもうひとつの引き金の様な突起が着いていた。


 「きっと引き金を引くときに偶然指から安全装置が外れて、弾が出なかったのでしょう」


 もし安全装置が外れていなかったら、その考えが頭をよぎり少女はヒヤリと体が冷たくなるのを感じた。


 「私、もしかしたら体に穴空いていたかもしれないのか」


 「そうなりますね」


 ヒヤリとした冷たさが恐怖に変わり、背すぎが一層冷たくなる。


 「もうこの話はやめよう。私今日変な夢見そうだから」


 「わかりました」


 少女はリリィの話を半無理矢理に終わらせると、気持ちを入れ替えて自分の伝えたいことをリリィに話した。


 「陸斗くんと言うんですねあの子。それに言葉を発せないんですか」


 「おそらく失声症しっせいしょうだな」


 「なんですか、それ?」


 リリィは聞いたことのない言葉に首を傾げ、少女に質問した。


 「失声症は名前の通り、声が急に出なくなってしまう病気だ。主にストレスが原因らしいが、きっとそれ相応の嫌なことがあったんだろうな……」


 「治せないんですか?」


 リリィは少し静かな声で少女に語りかけた。きっとリリィも心配しているのだろう、声と表情で少女はすぐに理解出来た。

 

 「いや治せないことはないよ。意外にも自然とストレスが軽減されたりすると案外治ったりするらしい」


 「じゃあストレス発散になる事をしましょう!! 何が良いですかね?」


 リリィは両手でガッツポーズを取ると、辺りをキョロキョロとし始めた。


 「やっぱり……爆破かな?」


 少女がそう言うと、リリィはキラキラと目を輝かせた。


 「できるんですか!?」


 「できるけど、ちょっと待ってて」


 そう言い、少女は理科準備室に入り部屋を漁り始めた。

 怪しい薬品が入った試験管や絶対に素手で触れてはいけなさそうな劇薬を押しのけて、少女は小さな金属の塊を持って再びリリィの前に姿に現した。


 「やっぱり爆発ならこれ以上はないでしょ」


 「マスターなんですかそれ?」


 「金属ナトリウムだよ」


 少女が手に取ったのはおよそ30グラムの金属ナトリウムだった。もともと学校の実験用の備品だったのだが、日の目を浴びる事なく保管されていた物だ。


 「でも流石にこのサイズは危ないから、半分ほどに削るか」


 「お任せください!!」


 リリィはそう言うと鞘から刀を引き抜いたが、


 「いやいやいや、そこまでしなくて良いよ」


 「そうですか……」


 少女の言葉にリリィはしょんぼりとした声でそう言い刀を納めた。


 「気持ちは嬉しいけど流石に刀で金属を斬るのは、少し危ないから気持ちだけもらっておくよ。ありがとうリリィ」


 「はい」


 少女は再び準備室へもどり、カッターナイフを持ち出すと金属ナトリウムを半分に切断した。


 「これで良しと、リリィは二人を呼んできてくれ私は先に準備しておくから」


 「わかりました!!」


 リリィはそう言い科学室を後にすると、それに続いて少女も拳銃を手に取って科学室を後にした。



 奏彫高校 野外プール

 かなり清潔感が保たれた青色の至って普通の授業用のプールだが、レーン分けのロープなどは取り外されており今ではただの大きなプールになっている。


 「マスター今度はなんだ? リリィがご機嫌そうに入って来たと思ったら、いきなり連れて来て」


 少女がプール際で待機しているところにリリィと陸斗、そして半分不機嫌そうなナヴィが現れると。少女はナヴィに手招きし、ナヴィもそれに答えるように少女へと近づいた。


 「ナヴィ実はな……」


 少女は小さな声で何も知らないナヴィに事をざっくりとした説明と、この事になるまでの経緯を話した。


 「なるほどな、この少年の声を戻すためにナトリウムで爆発をか……」


 「そ! 良い案でしょ!!」


 「……マスター、本気か?」


 少女の案に待ったを掛けるようにナヴィは少女に問いただした。


 「ここ最近まであの機械共がうろついていたのにも関わらず、こんなところで爆発を起こされたら居場所などすぐに知られるぞ。それに陸斗が泣いてしまったらどうする?」

 

 ナヴィの意見は正当なものだった。

 人類が少女と陸斗を残して滅亡しているため、当然生活音や車の音などは一切聴こえず、爆発音という鼓膜がいくつあっても足りないような音を立てるのは自殺行為をするようなものとなる。

 それに加え、陸斗にはこの事について一切知っておらず、陸斗のみがこの状況を理解出来ていない。これは、できる限り効果を高めるための作戦なのだが、10歳の陸斗には一歩でも間違ってしまったらトラウマになる可能もあるだろう。

 だがナヴィの正当な意見を聞いて少女は。


 「大丈夫大丈夫、何かあったら皆で倒せば良いじゃん。こっちには優秀な発明家にしかもアンドロイドが2体もいるんだから。それに陸斗も多分そんなに弱くないよ」


 慎重なナヴィとは真逆で、少女は非常に楽観的な考えをもちナヴィの心配など、まるで一切なかったかの様にナヴィに答えた。


 「ったく、何があっても俺は、助けないからな」


 「そう言っても何かあったら、なんだかんだ助けてくれるナヴィ好き」


 「勝手に言ってろ」


 二人がカップルの様な会話をしていると、


 「あの〜マスター私達は何を……」


 「あぁごめん!! 置いてけぼりにしちゃって」


 完全に蚊帳の外だったがリリィが少女に問いかけ、話しを中断させた。


 「さてと、これから少し危ない事するから陸斗はこれ着けて」


 少女はそう言うと手に持っていたもこもこの毛が付いたヘッドホン型の耳あてを陸斗に一つ渡した。


 「これ着けてね、もしかすると鼓膜破れるかもだから」


 これから何をするか分からない陸斗は笑顔でとんでもない事を言う少女を見て、ビビリながら陸斗はサッと耳あてを着けた。


 「下準備はこれぐらいで良いかな。じゃあ始めるけどリリィ、ナヴィ、何かあったらよろしくね」


 「はい!!」


 「勝手にしろ」


 二人の言葉を聞き終えると、少女は陸斗と同じ耳あてを着けると、ズボンのポケットからナトリウムを取り出し、腕をグルグルと回して勢いをつけたそして、


 「エクプロ!!」


 少女は大声を上げ持っていたナトリウムをプールに投げ入れた。

 ナトリウムはポチャンと情けない音を立てたが、少しするとシューーというダイナマイトの導火線に火をつけたような音を立てた。次の瞬間、大きな爆発音を上げ、水柱が空高く上がった。

 だが、少女の期待した爆発とは違いかなり小さいもので少女はどちらかと言うと不満げな表情を浮かべた。


 「うーん失敗か……もしかすると量が少なかったかな。どうだ陸斗声戻ったか?」


 少女がそう言い陸斗の方を見ると、陸斗は膝から完全に崩れ落ち体をプルプルと震わせて、失禁していた。


 「うわぁぁぁ!! 陸斗大丈夫か!?」


 少女は陸斗にすぐさま駆け寄ると、陸斗の表情を確認した。

 陸斗は完全に放心状態で、目には涙が溜まり、体は小刻みにプルプルと震わせている。


 「リリィ雑巾取ってきて!! ナヴィもお願い!!」


 「わかりました!!」


 「だから言っただろうが!!」


 二人は雑巾を取りに猛ダッシュでプール横の更衣室に駆け込んだ。

 結果、陸斗の声は戻る事はなく、少女はこのあとナヴィからきついお説教を食らい、しばらくの間陸斗とは話をしてもらえず、そして陸斗もしばらくの間、少女を避けてナヴィの案でリリィと一緒に過ごす事になった。


 

 

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