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世界の始めの第一歩。  作者: 黒木和夜(白犬狼)
1/3

1話、2話、3話


 白犬狼です

 初投稿となります。



 1話 終末から


 人類が機械との戦争に敗れ約七年。

 世界は機械が人類に代わり支配し、かつて人類が創り上げてきた世界は酷く荒廃し、荒れ果て朽ちた姿へと変貌(へんぼう)していた。

 そんな世界に一人、まるで時代に取り残されたかのように陽気に鼻歌交じりの歌を歌う白髪のショートカットの少女が、夕立がひしひしと降り注ぐ、廃ビル群の瓦礫混じりの地面を歩いていた。     


 「ハッピバースデー私〜、ハッピバースデー私〜」


 身に纏った学生服のようなカッターシャツは雨に打たれて少し透けているのに対し、防水加工されている紺色のズボンは雨水を弾き出し、表面には小さな水玉がいくつも出来上がっている。

 その状態の中を気にせず、少女が歌を歌い終わッた直後、少女のシャツの胸ポケットに入っていた無線機が喋りだした。

 

 『マスター、近くに散歩ではなかったのか?』


 声に反応して少子は無線機を取り出し、口元にマイクを近づけた。


 「ごめんごめん、ちょっと散歩する予定だったんだけどなんせ面白そうなものがないか気になっちゃって、ほら、童話のアリスみたいな感じで好奇心で……」


 『適当な言い訳してないで速く帰ってこい』


 「は〜い」


 そう言い無線機が切れたその時、足元に銃弾が着弾し火花が散った。

 

 「あわっ!」


 驚き、変な声を上げながらも少女が前を向くと、赤色の光を放つモノアイ人型の機械が、拳銃を片手に持ち少女を見ていた。


 「テオアゲロ…」


 機械は電子音が混じった片言の言葉を発し、その銃口は正確に心臓を狙っている。


 「はいはい、わかりましたよ〜」


 そう言い少女が素直に手を上げ、人型の機械が拳銃の引き金を引こうとしたその時。


 「なんてね!!」


 少女は体制を低くし、人型の機械に急接近すると至近距離で額めがけて射たれた弾丸を避け、地面に突き刺さっていた鉄パイプを引き抜き、人型の機械の胴体へ突き刺した。

 金属が軋む音を上げ、鉄パイプで装甲を貫かれた人型の機械は、苦しそうな機械音を上げ、倒されてもなおしばらく藻掻き続けたが、やがて目の光を失い、機能を完全に停止した。


 「よし、一丁上がり!」


 少女は機械に刺さった鉄パイプを一度引き抜いて、横の地面に刺すと、人型の機械が持っていた拳銃を拾い上げた。


 「やっぱり人間用の拳銃だ。さてさて残弾は…………よっしゃー!! まだ五発ある!!」


 少女が興奮して声を上げていると、再び無線機が喋り始めた。 


 『おい、マスターやけに騒がしい声が聞こえてきたが』


 「聞いてナヴィ収穫だよ収穫! レア物の拳銃拾った!」

 

 『……まあ無事ならそれで良い、それで新しいアンドロイドの設計はどうする気だ?』


 「やっべ忘れてた、すぐ戻るから準備しておいて」


 そう言って通信機を切り胸ポケットに戻すと、鉄パイプを引き抜いて少女は駆け足で来た道を引き返した。


 2話 起動兵

 

 市立 奏彫高等学校

 現在は廃校となってしまっているが、この辺りでは一番損傷が少なく、そして元学校からか、科学室や工作室には当時のものと思われる備品が多くありここが少女の拠点となっている。


 「たっだいま〜」

 

 少女は大声でそう言うと、正面玄関の扉をくぐり靴を脱ぎ捨てると、一直線に科学室へと向かった。


 「ナヴィいる?」


 少女が科学室の扉を開けると、そこには目から下を金属製のマスクで覆い、身体全体が鋼鉄で作られ、その上に申し訳程度の白い布を纏ったアンドロイドが、科学室の中央で直立不動して機械的な鞘に入った刀を左腰に固定されたもう一体のアンドロイドを見つめていた。


 「やっと帰ってきたかマスター」


 ナヴィは少女に気が付くと、男性のような低い出し機械的な音を立て少女へと体を向けた。


 「その子の調子はどんな感じ?」


 そう言いながら慌ただしく拳銃を入口近くの机に置いり、白衣を着たりする少女を横目にナヴィは冷静に答えた。


 「問題ない、身体に装着した武装も数値的には異常は見られない」


 それを聞きやっと落ち着いた少女が直立不動するアンドロイドの前に立った。


 「なら後は整備して起動するだけだな。いや〜長かった」


 そう言うと少女は直立不動するアンドロイドの関節や武器の確認、バッテリーのチェックを終えるとナヴィと同じ形をした金属製のマスクを口元に取り付けた。


 「後は名前だけど………何がいいと思う?」


 少女はそう問いかけると、ナヴィは呆れた声で答えた。


 「そんなのははじめに考えるべきではないのかマスター。第一俺の名前もマスターが拾ってきた雑誌の名前だろう?」


 「ソンナコトナイヨー、チャントカンガエタヨー」


 白々しく片言で喋る少女を見てナヴィは人間の様にため息をついた。


 「よし、じゃあ名前は…リリィだ!」 


 そう言い少女はパソコンを使いリリィと名付け、そして直立不動しているアンドロイドの左腕に設置された小型パネルにLilyと入力すると、起動スイッチがパネルに出現し、少女は起動スイッチを押した。


 『system all green android name Lily起動します』


 女性のシステムアナウンスが流れ、瞳が青く光り輝き起動すると、リリィは胴体のパーツを少女に目を合わせた。


 「マスター?」


 リリィが少女を見てそう言った途端。 


 「うぉぉおお女声だー!! かわいいー!!」


 興奮を抑えきれず大声で少女はそう言うと、リリィは驚いた様に身体かビクッと動いた。


 「マ、マスターこれからよろしくお願いしますね」


 少しビビりながら言うリリィ、それを聞き嬉しそうに目を輝かせる少女、そしてそれを見守るナヴィ。

 その様子は遊園地でキャラクターを見つけて、はしゃぐ子供を見守る親のようだった。


 「マスター、とりあえず完了したのなら風呂に入ってこい。体を冷やして後で風邪を引かれては困る」


 「そうだな、じゃあぱぱっと入ってくるわ……覗くなよ〜」


 そう言い残して少女は白衣を着たまま理科室を後にした。


 「リリィだったな俺はナヴィだ。マスターは変わり者だが悪い奴ではない、それだけ理解してくれたらそれで良い。」


 「了解ですナヴィ様、このリリィ身を呈してでもマスターをお守りいたします。」 


 「俺に様付けはいい」


 二人のアンドロイドがそう言う話をしていると、リリィが机の拳銃に気が付いた。


 「あの拳銃、M1911ですね」


 「わかるのか?」


 ナヴィが問いかけるとリリィは拳銃を手に取った。


 「コルト・ガバメント、いわゆる警官や軍人向けの拳銃で装弾数は7発、数多くの歴史で使われた汎用性の高い拳銃ですね」


 「なるほどな」


 ナヴィはそう答えたが実際あまり良く理解しておらず。それ以前に興味すら微塵も無かった。

 それを一切気にせずリリィが話を続ける事約30分後、お風呂上がりの少女がパジャマの上に白衣を着て、肩にタオルをかけた状態で理科室前の廊下まで戻ってきた。


 「良い湯だった〜、合宿場があって本当に良かったよ」


 少女が理科室の肩を開けると、早口で拳銃を片手に持ち銃の話をするリリィと、それを聞き流し空返事をするナヴィの姿があった。


 「お、何楽しそうな話してるんだ。私も混ぜてくれよ〜」


 少女がそういった途端。


 「マスター、実はこの拳銃についての話をですね……」


 そして銃の説明がリセットされ、ナヴィはリリィによる銃の長い説明を二回聞かされる羽目になった。


 「つまりこの拳銃は汎用性の高くまた歴史的な銃と言うことです」


 少女がお風呂から帰ってきて約1時間、ようやくリリィの説明が終わった。ナヴィはその話の長さからか腕を組み睡魔と戦っていた。


 「どうですか?わかりましたでしょうか?」


 「なるほど、わからん!!」


 清々しく回答する少女を見てリリィがもう一度説明を始めようとした時。


 「もうその辺で良いだろう。マスター、今日は1日中雨が降っているから試運転は明日にしておけ、風呂にも入ったのにまた体を冷やしては元も子もない」


 睡魔との戦っていたナヴィが見事睡魔に勝利し、二人の間を割って入った。


 「そうだな、じゃあリリィの試運転は明日にして、私は新しい武器の開発でもして過ごそうかな。リリィ銃くれる?」


 「はい」


 そう言うとリリィは頷き、持っていた拳銃を少女に手渡した。


 「じゃ、後はよろしくね〜」


 少女は銃を受け取るとそう言って理科室を後にした。

 

 奏彫高等学校 校長室

 少女の部屋であり研究室であるが、色々な書類や設計図などが散らばっており、ナヴィからはゴミ屋敷として言われる事は日常茶飯事で、本人も良く滑り良く転ぶ、そして良く怪我をする。


 「さてと、この銃を改造するか」


 そう言って少女は椅子に座ると、銃の残弾を抜き机に置いた。


 「M1911ってカスタムが豊富なんだっけ、まぁ適当にやってみるか!」


 少女は銃のパーツが乱雑に入った工具箱を棚から取り出すと、再び椅子に座り改造を始めたが、素人の少女には銃の改造は予想以上にレベルの高いものだった。

 パーツが合わなかったり、パーツ自体が破損していたり、取り付けたパーツで銃が重くなってしまったりと、失敗を繰り返す事およそ一時間。


 「やっと出来たー」


 両腕を伸ばし椅子の背もたれにもたれかかった。

 装弾数の増加と反動軽減といった少ない改造だったが、適応パーツの少なさと、何よりも改造初心者の少女としては、これぐらいが限界だった。


 「パーツはまた敵から奪って集めるとして、問題は弾丸だな」


 少女が改造を施した拳銃は威力が高い弾丸を使用する。人間である少女が一発でも食らった場合、即戦闘不能になることは避けられないだろう、だが。


 「まぁ今考えても仕方ないか、最悪鉄パイプで戦えるし」


 銃を持たずに今まで生きてきた少女にとっては、あまり大きな問題ではなかった。


 「さてと晩飯食って寝るか!」


 そうして少女はリリィと拳銃の2つの誕生日プレゼントを手に入れ、長い誕生日を終えた。



3話 偶然の出会い


 「さてと、これよりリリィの試運転を行いたいと思います!」


 空が青一色に染まった早朝のグラウンドの朝礼台の上で、大声で叫ぶ少女とその下で体育座りで座るリリィと、あぐらをかいて未だ眠気と戦っているナヴィの温度差は一目瞭然だった。


 「マスター、試運転なら昼でも良いではないか、何で朝にする必要がある?」


 ナヴィがそう答えると、少女はムッとした表情で答えた。


 「最近ナヴィ良く昼寝してるし、昨日だって眠そうにしてたじゃん」


 「あれは、リリィの説明が……」


 「問答無用!」


 少女がそう言うとナヴィは言葉を詰まらせ、顔をそらした。


 「はい、マスター」


 リリィが子供の様にピシッと右手を上げた。


 「ん、どうしたリリィ?」


 「試運転ってどうしたら良いんでしょうか?」


 リリィがそう言うと少女は少し微笑みながら答えた。


 「簡単さ、リリィにはナヴィと実戦を想定した戦闘訓練をやってもらう」


 少女がそう言った瞬間、次はリリィに続いてナヴィが手を上げた。


 「マスター、実戦訓練と言ったがまさか速度重視の素体で作られた武器持ちのリリィ相手に、俺には格闘で戦えって言うんじゃないだろうな」


 ナヴィがそう言うと、少女は胸を張り自慢げに話しだした。


 「そう言うと思って、ナヴィにも武器を作ってます!」

 

 少女はそう言うと朝礼台から降り、後ろに隠してあった長方形のアタッシュケースを重そうに持ってくるとナヴィの前に置いた。


 「よし、じゃあ開けてみてナヴィ」


 少女の言葉にナヴィは「ああ」と一言言うと、長方形のアタッシュケースを開けた。


 「大剣か、材質は……ステンレスだな」


 アタッシュケースの中身は刀身が1メートルほどの長さを誇る巨大な両刃の大剣だった。


 「この前見つけた鍛冶屋でね。作るの大変だったんだよ、板探したり作り方考えたり本当に大変だったんだから」


ナヴィその大剣を右手に持って立ち上がると、その剣先をリリィへと向けた。


 「さっさと始めよう。言っておくが俺は手加減しないぞ」


 「ええ、望むところです」


 リリィが立ち上がるとナヴィは剣先を地面へ向けた


 「さてとそろそろ始めますか、二人とも中央に移動して〜」


 その言葉を聞いた二人はグラウンドの中心に移動すると、約2メートル間隔をあけ、お互いに向かい合った。


 「それでは…構え!」


 張り詰めた空気が漂う中、リリィは鞘から刀を抜き、ナヴィは大剣を強く握りしめて二人は互いに剣先を向けた。


 「始め!!」


 少女のその言葉に反応し、最初に仕掛けたのはリリィだった。

 人間を遥かに超えた圧倒的な速さでナヴィへと接近し、あっという間に距離を詰めると体制を低くし水平に刀を振った。

 だが、ナヴィはそれを見切り、大剣を地面に突き刺しその攻撃を防ぐと左足でリリィを蹴り飛ばした。


 「ちっ――――」


 リリィは激しく後ろに飛ばされるも、空中で受け身をとり着地した。


 「今度はこちらから行くぞ!」


 ナヴィはそう言うと大剣を引き抜きリリィへ一気に距離を詰め、それに応戦する様にリリィも接近してくるナヴィに突進していく。


 「はぁぁぁぁぁ!」


 「ふん!」


 二人の武器がぶつかり合い、火花が散り、高い金属音が辺りに響き渡る。

 ナヴィがリリィを剣越しに押し返すと、それを逆手に取り、リリィはくるりと回転すると再び水平に刀を振った。


 「チッ!」


 咄嗟に大剣を逆手に持ち刃を受け止めると、リリィは刀を引き、追撃で右斜め上から刃を振り下ろした。

 ナヴィは隙を付かれたものの、咄嗟に大剣を順手に持ち替え振り下ろされた刃を受け止めると、リリィは地面を後ろに強く蹴りつけ、2メートルほどナヴィとの距離を空けた。


 「やるなリリィ……」

 

 「まだまだこれからですよ!」


 そう言い急加速でナヴィに接近すると、リリィは本能が思うままに刀を振り続けた。限界まで加速された刃は空気を切り裂き、神経を逆なでするような音を立てながら、数本あるように見えるほど高速で正確にナヴィを狙い襲ってくる。しかし―――

 ナヴィはその限界まで加速されたリリィの刃をすべて右手に握りしめた大剣で弾き返した。重く扱いにくい事をもろともせず。まるですべての動きを先読みしているかの如く、大剣を操りリリィの攻撃をすべて打ち砕いていく。


 「くっ――」


 リリィに焦りの色が見始め、攻撃の正確さと速度が次第に失われていく。ナヴィはそれに気付くと大剣を両手で強く握りしめ、リリィの攻撃を避けると、追撃してくる刀を己が出来る限界の力を加えた大剣で刃を弾き返した。

 火花が散り、鋼鉄の音を立てた。そしてリリィの持っていた刀は大剣の衝撃に耐えきれず、乱雑な断面を残し刃の一部が弾け飛んでしまった。


 「なっ――!」


 突然の事に思考が回らなくなり、攻撃の手を一瞬休めたリリィを見逃さず、ナヴィは膝を蹴つけ、体制を崩した首元に大剣の刃を突きつけたその時。


 「終了〜」


 少女の声が聞こえ、ナヴィは大剣を下ろした。


 「いや〜凄かったよ、リリィもナヴィも戦闘には特に問題は無いね」

 

 少女は二人に近づき満足げな表情を浮かべた。しかし、明るい少女とは裏腹に、リリィは刃が折れた刀を見つめ暗い表情を浮かべていた。


 「リリィどうしたんだ、体調が悪いのか?」


 少女がそう言うと、うつむいたまま静かな声で言葉を発した。


 「すいませんマスター、私が不甲斐ないばかりに武器が」


 落ち込むリリィに対して、対象的に少女は明るい声で返した。


 「んなこと気にすんな、予備もあるし、落ち込む必要は無いよ」


 リリィが顔を上げ少女に目線を合わせると、少女はにこやかな笑顔を浮かべていた。


 「あっそうだ、ナヴィリリィの剣技どうだった?」


 「速度や反応は良いが、敵の動きの予想や冷静さは少し考える必要がある」


 「了解、二人共お疲れ様戻って休んでくれて良いよ」


 「マスターはどうする」


 ナヴィ不思議そうに答えると、少女は白衣の内ポケットから拳銃を取り出した。


 「ちょっとこいつの威力を試したくてね、改造を加えたオリジナルの拳銃よ」


 「どうでもいいから試すなら速くためしてこい、ただし速く帰ってこいよ」


 「了解〜」


 二人のアンドロイドを残し少女は校門から外へ出ると、少女は一直線に昨日行った廃ビル群へと向かった。

 好奇心が高まり少女はワクワクしながら駆け足で瓦礫が散乱した道を駆け抜けた。心地良い風と暖かな日射しが身体に当たり、空には多くの鳥が空を泳いでいる。瓦礫に埋もれた世界で無ければ、今日はどれだけ良い日だった事か。

 そう思いながらも少女はものの5分で廃ビル群についた。


 「よし、ここなら誰にも邪魔されずに済むな。じゃあ早速……」

 

 少女が拳銃を取り出そうと内ポケットに視線を動かした時、視界にわずかに写った地面に昨日には無かった不自然な物体が落ちていた。


 「何だこれ?」


 少女は拳銃を取り出すのをやめ、地面に落ちていた不自然な物体を手に取った。

 不自然な物体は金色の空洞のある筒状のもので、不気味なほどに辺りに大量に散らばっている。


 「もしかして、薬莢か?」


 少女がそう思ったその時。

 すぐ近くで乾いた発砲音が響き渡った。しかも一回ではなく立て続けにその音は何回も響き渡たる。


 「銃声!?」


 奇妙な発砲音は明らかに少女を狙ったものでは無い、それに加え、機械達は試し撃ちなどしない。つまりこの銃声は少女でも、機械でも無い第三者による銃声ということになる。すなわちそれは生存者がいる証拠でもある。


 「まさか!」


 内ポケットから拳銃を右手でさっと引き抜き、銃声の聞こえた方向へ一直線に向かった。

 少しずつ銃声の聞こえた方へと近づくにつれて空の薬莢がさっきの場所よりもだんだんと増えていき、最終的には銃撃戦が起きたかの如く空の薬莢が散りばめられていた。

 そして銃声が聞こえたであろうところにつくと、人型の機械が一体、目の光を失い機能を停止した状態で倒れていた。その胴体には弾丸と思わしきものが貫いた穴がいくつも空いてる。


 「一体誰が……」


 少女がそう言った瞬間、何処からか荒くなった呼吸音が聞こえてきた。

 少女がその呼吸音の方へ静かに近づくいていくと、一際大きな瓦礫にたどり着いた。巨大な岩石のような瓦礫は元々ビルの一部が崩れ落ちたものだろう。その証拠に規則正しく並んだ硝子窓の枠が瓦礫の一面に張り巡らされている。


 「っ……」


 呼吸の主はおそらくこの瓦礫の裏側にいるのだろう。一様のため少女は引き金に指をかけ、気配を消しゆっくりと近づいた。

 呼吸音は少女が歩いたときに出る音が瓦礫に近づくに連れて、だんだんと荒くなったいく。

 そして瓦礫の左側の側面へとたどり着くと、少女は高速で瓦礫の裏側へ身体全体を出し、両手で拳銃を構えた。


 「……!?」


 少女がそこで見たのは、手入れされていないロングヘアーの白髪を持ち、まるでサバイバルゲームのような薄緑のシャツと短パンを身に着けた子供が腰が抜けたように座っていた。

 その目には涙を浮かべながらも、両手に握られた拳銃の銃口はしっかりと少女へと向いていた。


 「お前、人間か?」


 しかし、子供はパニック状態に陥っていて、少女の言った質問さえも聞こえないほど慌てていた。


 「落ち着け、私は敵じゃ無い安心してくれ」


 少女はそう言いながら銃を内ポケットにしまい子供に近づくと、子供は近づいてくる少女めがけて、両手に握られた拳銃の引き金をためらいなく引いた。しかし――

 拳銃からはあの乾いた銃声ではなく、カチッという引き金を引く音のみが鳴った。


 「弾切れだな、私が機械だったら本当にピンチだったぞ、お前」


 少女は子供に近づき持っていた拳銃を無理矢理奪い反対の内ポケットにしまうと、左膝をつき左手で子供の頬に触れた。


 「怖かったな、安心しろもう大丈夫だ。ほら深呼吸してみろ」


 少女の言葉を聞き、子供は深く呼吸をすると落ち着きを取り出し、涙を自らの腕で拭ったその時。


 「テオ…ア…ゲロ」


 胴体が穴だらけになっていた人型の機械が再び目を耀かせ立ち上がり、よろめきながら二人へ近づいてきた。


 「お前、耳塞げ!!」


 少女は子供にそう言うと、内ポケットから自分の拳銃を抜き取ると、人型の機械の頭部めがけて引き金を引いた。

 乾いた音を立て放たれた弾丸はあっという間に人型の機械の頭部を貫くと、人型の機械は膝から倒れ込み今度こそ機能を停止した。


 「ここにいるとまたいつ襲われるかわからないな、近くに私の拠点があるんだ。仲間も二人いる、だからついてきてくれるか?」


 少女の質問に子供は軽く頷いて少しよろめきながらも立ち上がった。座っていてわからなかったが、子供の身長は少女よりも小さく髪が膝まで伸びていた。


 「よし、じゃあついてきてくれ」


 そう言い少女がその場を動こうとすると、着ていた白衣が引っ張られた。

 少女が振り向くと、子供が上目遣いをして、震えた手で少女の白衣を優しく掴んでいた。


 「どうしたんだ? もしかして、怖いのか?」


 少女の言葉を聞き子供は白衣から手を離すと、上目遣いをやめ先程の様に軽く頷いた。


 「そうか……よし少し待ってろ」


 少女はそう言うと、自分の拳銃から弾を1つ取り出すと、膝をつき、子供と目線を合わせると持っていた弾を子供の右手に握らせた。


 「これは魔法の弾丸だ。これを持ってると機械は君を襲わなくなる。もし襲われても私が全力で守ってやる」


 もちろん弾丸にそんな能力は一切無い、だが子供はそれを信じ、弾丸をポケットには入れずただただ強く握りしめた。


 「よしじゃあ行くぞ、迷子になるなよ」


 少女は拳銃を左手に持ち替え、右手で子供の左手を握りしめると、来た道を引き返した。辺りに火薬の臭いがかすかに残った瓦礫の道を手を繋ぎ歩いた。人型の機械と何度か鉢合わせになりそうになりながらも、幸い二人は見つかることなく無事に学校の校門前へとたどり着いた。


 「ここが私の拠点だ。なかなか良いだろう」


 子供は口をポカーンと開け、塞がらないまま上を見上げていた。


 「マスター、どこまで行っていたんだ」


 どこで見ていたのか、少女の姿を見たナヴィが校門前まで出迎えてくれた。

 ナヴィの姿を初めて見た子供は少女の手を離し、さっと少女の後ろへと隠れた。もし子供が拳銃を手にしていたら迷いなく引き金を引いていただろう。


 「ん? 誰だその子供は?」


 子供の存在に気づいたナヴィは少女に問い詰めた。


 「さっきあったんだよ、人間の生存者だ」


 「ふーん」


 凄い事のはずなのにナヴィは感情どころか興味すら無い返事を返した。


 「大丈夫だ、さっき言っていた仲間だよ」


 少女がそう言うと、子供は少女の後ろから少し顔を出し、ナヴィを隅々見た後ペコリと頭を下げた。


 「なるほどな、あぁそうだリリィなら予備の武器を手にして嬉しそうにしてたから心配は入らないぞ」


 「わかった。それと後リリィにあったらこれ渡してなんていう銃か調べるように頼んどいてくれ。私はこの子をちょっと風呂に入れてくるよ」


 そう言い子供が持っていた拳銃をナヴィに託すと、子供の手を再び握りしめ校門をくぐった。子供は振り向くと合宿場の玄関に差し掛かるまでナヴィの事を不思議そうに見つめていた。


 奏彫高等学校 合宿場

 奏彫高校の敷地内に存在する合宿場、現在は少女プライベートルームなど少女専用の建築物となっているが、学校とは違い、窓硝子がすべて壊れており声が筒抜けの他、施錠ができないためプライベートは守れていないに等しい。

 そしてその入浴場の女湯では。


 「ほら速く服脱げ〜」


 服を脱ぎたくない子供と、服を脱がせたい少女との言い争いになっていた。

 子供は服を脱がせようとすると頑なに抵抗し、服を一切脱がせようとしない。一方で、少女は下着を含めた全部の服を脱ぎ、タオルを巻いて必死に子供の服を伸ばしたりして脱がせようとしていた。


 「なんで脱ごうとしないんだ。もしかして風呂嫌いだったりするのか?」 


 少女がそう言うと、子供は首を横に振った。


 「じゃあなんで脱がないんだ? もしかして、恥ずかしいとかじゃないよな?」


 少女がそう言うと、子供は顔を赤らめて目をそらした。


 「マジか……」


 少し意外な反応に驚くも、少女は納得がいった。この子供がいくつなのかは分からないが、知らない見ず知らずの初めて会う女の子にいきなり風呂に連れ込まれて服を脱がされそうになったら誰だって抵抗するだろう。まぁ一部の人間なら正反対の反応をするだろうが。


 「じゃあ後ろ向いておいてやるから、その間に脱げよ」


 少女がそう言って後ろを振り返るとと、意外にもあっさりと子供が服を脱ぐのが分かった。子供は単純だなと少女は思いながらも可愛げのある子供の行動に癒やされていた。

 しばらくすると、白衣の時と同じ様に子供が少女のタオルをくいっと軽く引っ張った。


 「お、やっと脱いだか〜ってあれ?」


 子供はタオルを下半身のみに巻いて上半身は裸のままだった。

そのためか、巻かれたタオルは腰のみを隠すのには長く余ったタオルが尻尾の様に地面を刷っていた。


 「タオルの巻き方そうするのか……まあ良いやとりあえず風呂に入るか」


 少女は子供の手を握ると、入浴場の扉をくぐった。


 「とりあえずまずは身体を洗わなきゃな、まぁ適当に椅子に座れよ」


 子供は少女の声を聞き、お風呂場によくある独特な形の椅子に座ると、少女もその右隣の椅子に座った。


 「よっこいしょっと」


 この入浴場は、シャワーは出るものの湯船は残念ながら湯船自体が壊れておりお湯を貼ることはできない。だが、シャワーはお湯も出るため案外少女は満足している。


 「にしてもなげぇ白髪だな、私も白髪だがここまで伸ばしたことはさすがにねぇな。そうだ、後ろ向け、私が洗ってやる」


 少女は子供に後ろを向かせると、シャンプーを頭にかけると長く伸びた白髪と頭を洗った。

 子供は目に泡が入らないように目を瞑り、少女に身を任せた。


 「それにしてもお前全然喋らないな、でもまぁこんな世界で初対面の人にあったら、そら喋りづらいよな。私でもそういうふうに黙り込んじゃうわ」


 その言葉に暗い表情を浮かべわずかに頭を下に向けたが、長い髪のせいで少女はそれに気づかず頭を洗い続けた。


 「よし、じゃあ流すぞ〜目瞑っとけよ」


 少女はシャワーでシャンプーを洗い流すと、今度は自分に巻かれていたタオルをほどきボディソープをかけると、泡立て子供の背中を洗った。その予想外の少女の行動に子供は身体をビクッと震わせた。


 「遠慮するな、だけど後ろを見るともっと恥ずかしくなるぞ……なんてね」


 子供は顔を赤らめて、恥ずかしそうにぷるぷると震えながらも背中を少女に洗ってもらった。


 「よし、じゃあ後は体だなこっち向け」


 しかし、子供は首を横に振り体を少女に向けるのを拒否した。


 「そうか、なら……えい!」


 少女は子供の前にまわし体を密着させ、頭を子供の肩に軽く乗せた。


 「これなら恥ずかしくないだろう」


 しかし少女はこれが逆効果とは一切思っておらず。反対に子供は、茹でたタコの様に顔をさらに真っ赤にし、少女に抵抗できずにただじっと耐えていた。


 「よし後は下半身だけだな……」


 そう言い、少女が子供のタオルを解こうとしたその時。

 子供が突然暴れ始め、少女の腕を必死に振り解こうともがき始めた。


 「おい暴れるな、危ないだろ!」


 振りほどこうとする子供の必死の抵抗に耐えると、暴れる子供のタオルをつかみ、緩んだ結び目を解くとタオルを引っ張った。


 「よしこれで、この勝負は私の…か…ち……」


 少女はタオルが取れた子供の下半身を見て驚愕した。

 子供の下半身には、少女の身体にはないものがあった……それは男性特有の……


 「お前、まさか……」


 少女がそう言うと、少女が驚愕し力が抜けている隙を突いて腕を振りほどき扉に向かって駆け出した。


 「まて、危ない!」


 少女の声に反応し子供が後ろを振り返った瞬間。水で濡れた床で子供は前に向かって足を滑らせてしまった。


 「くっ……!」


 それに気付いた少女は子供が前に転ぶ瞬間、後ろから子供の体を両手でつかみ自分の背中を下にし横に倒れた。


 「痛った……」


 身体を強くぶつけてしまったが子供は少女が下になっていたため、怪我一つ無く済んだ。


 「おい、大丈夫か?」


 少女がそう言ったその時。


 「マスター大丈夫ですか!! 凄い音が聞こえま…した…が……」


 音を聞きつけたリリィが扉を開け、駆けつけてきた。


 「大丈夫だよリリィ、ちょっとドジ踏んだだけ」


 だが、リリィに少女の言葉は聞こえておらず、それどころかリリィの顔が心なしか少しずつ赤くなっていき……


 「マスター、そういう行為を始めるのであれば、出来れば静かにやってもらえれば……」


 リリィのその言葉に少女はハッと我に返った。

 自分が下になり、その上に後ろ向きで子供が重なって、お互いがタオルも巻かず倒れ込んでいる。これではまるで少女が子供を襲っていたのかと勘違いされることも無理はない。しかもリリィはナヴィとは違い、人間の知識を多く植え付けている。もちろんそういう事も含めて。


 「いや……これは誤解だって……」


 「その……ごゆっくり!!」


 そう言い残してリリィは扉を勢いよく閉めると、駆け足でその場を後にした。

 その後、リリィの誤解を解くのに時間がかかったのは言うまでもなかった。

始めまして白犬と申します。

誤字や脱字など不備もあったかと思いますが読んでくれてありがとうございます。


色々と大変な時期ですが、お互いに頑張りましょう。

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