4 三度日雇いくんとおまわりさん
あいかわら二人がずウッカリチャッカリしてます。
4 三度日雇いくんとおまわりさん
さっきの表情とは一転して、どういうわけか明るい表情のおまわりさんは、日雇いくんにお金をとられた事などすっかり忘れたように言いました。
「やあ! さっきはごめんね。どうしたんだい?」
「ひ、ひとが私の家の前で倒れているんですー!!」
「な、なんだって! じゃあさっそく、きみの家まで案内してくれ!!」
「は、はい! お願いします!」
日雇いくんはおまわりさんと一緒に家へ向かう事になりました。
「本来はいけない事なんだが、急を要するので自転車の後ろに乗ってくれ!」
「わかりました! じゃあフタさんはあとで家に来てね!」
「ああわかったよ。また後でな」
日雇いくんとおまわりさんは自転車で家へ向かいました。
後に残されたフタさんがつぶやきます。
「さっきはごめんって、いったいなんだったんだろう……」
何事もなく、日雇いくんとおまわりさんは家に着きました。
自転車に乗っている間ずっとおまわりさんにつかまっていた日雇いくんは、太り気味のおまわりさんの腋臭がきつかったので少しトリップしていましたが、ふらふらしながらも発見当時の様子を、なんとかおまわりさんに語ります。
「……というわけで、びっくりして交番に来たわけなんです!」
おまわりさんは無線でどこかに連絡を取りつつ、倒れている若者の検分をします。
「うーん、こりゃたぶん死んでるな。今、署に連絡したからじきに来ると思う」
「あ、ありがとうございますぅ☆」
日雇いくんとおまわりさんは管轄署の人たちが来るのを待つ事にしました。
日雇いくんはただ待っているのも面白くないと思い、日雇いくんにお金を取られてしょんぼりしていたおまわりさんが、さっき見たときには急に明るい顔つきになっていた理由を聞いてみる事にしました。
「ところでおまわりさん、何かいい事でもあったんですか?」
「な、なんでわかるんだい?」
「だって、さっきものすごく明るい顔してましたよ」
「やっぱりわかるかな。この場で言うのは不謹慎なんだけど、実はパチンコで……」
「まさか勤務中に、パチンコを?」
「いやまさか。パチンコで十箱積んだ同僚が、勝ったからというんで今度飲みに行こうって言ってくれたんだよ」
「それはよかったですね」
「きみも、もしよかったら来るかい? なかなか一緒に行ってくれる仲間がいなくってねえ」
「えっ、いいんですか?」
「ああいいとも。じゃあ今度”青汁にサイダーを入れかき混ぜたものにパラペーニョをちょいと足して仕上げにいなごを細かく砕いたものをふりかけたタマゴセーキを飲むツアー”に招待するよ。まだ私とその同僚しか仲間がいないんだ」
日雇いくんの顔がみるみるうちに青黒くなってしまったのは、もちろん言うまでもありません。
しばらくして、管轄署の人たちがやってきました。
たちまち辺りがビニールシートやらなにやらでいっぱいになります。
現場検証のはじまりです。
日雇いくんはぼーっとその様子を見ていただけでしたが、そんな彼に、やがて一人の男が声を掛けました。
「きみが第一発見者の日雇いくんだね」
「は、はい」
「私は県警捜査一課の藻野藻薄警部だ。先に彼にも話したと思うが、私にもさっそく発見当時の様子を話してくれないかな」
藻薄警部は、普段ドラマなんかで出てくるようなよれよれの服などは着てはいませんでしたが、総白髪に渋面で、定年近い年齢のように見えました。妙に威厳があります。
日雇いくんはその威厳に圧倒されながらも、さっきのおまわりさんに言ったのと同じ事を話しました。
「……ふむ、そうか」
「やっぱり、この人は……」
「そう、死んでいる」
日雇いくんは、殺人事件に初めて関わったので、なんだかドキドキしています。
ここでようやくミステリになりそうではあるんですが……