3 再びおまわりさんと日雇いくん
話はあいかわらず横道にそれていきます。
日雇いくんはあわてふためきながらも、さっそく家から一番近い駅の前の交番に駆け込もうと、早速走りだしました。
「おおおおおおおおまーりさあああんん、ひ、ひ、ひとがあ、ひとがー」
しかし、足がどういうわけか思うように進みません。
急ごうとすればするほど足がもつれ、転びそうになったりしました。
「なんだよー、こんなときにー」
実は日雇いくん、先ほどの居酒屋でビールを飲んだので酔いが全身にまわってしまい、足がふらついてしまっていたのでした。
なので、なかなか足が言う事を聞いてくれません。
「だ、だめだー、足上がらないよー。うわー」
ちっとも前に進まないのに声ばかりが大きかったので、もう夜中だというのにとても近所迷惑です。
それでも日雇いくんは、交番が見える道までなんとか辿りつきました。
「もうすぐぅ、もうすぐだあー」
日雇いくんはさらに急ごうとしました。
そこへ一人の、頭が中途半端に禿げている猫背の、いかにも風采が上がらないといった感じの中年男が声を掛けてきました。
「おう、日雇いじゃない。どこへ行くんだ?」
実は彼、日雇いくんの数少ない友達で、名前をフタさんといいます。
「あーフタさん、ひ、ひとがワタシの家の前で倒れているんですよー」
「な、なんだってー!」
「だからこれから交番へ行っておまわりさんに教えないといけないんですよー」
「そ、そうかあ! じゃあオレも一緒に行くよ!」
意気投合した二人は、早速交番へ向かいました。
しかしどうした事か、二人ともなかなか前に進みません。
「フタさーん、ワタシ酔っ払っちゃっててなかなか交番に着かないですよー。先に行ってくださーい」
「日雇いー、お、オレも昨日から何にも食ってなくて力が出ないんだよー」
実はフタさん、腎臓を悪くして生活保護を受けているのですが、三度のご飯よりスナック通いが大好きで、保護費が給付されるとすぐに行き付けのスナックに行ってお金を使ってしまうのです。
ある月など、ツケ飲みが過ぎて、保護費の大半をその返済に宛ててしまうような事もあったりしました。
そんなわけで食べるのにも困ってしまったフタさんは、日雇いくんにお金を借りようと、駅前を練り歩いてたのでした。
「えー、またあそこ行ったのー」
「行っちゃったよー」
「だからお金がなくなる前にロヂャースで食べ物まとめて買っておけばって言ったのになー」
「つ、つい抑えが効かなくてさーえへあはひふぉふぇ」
日雇いくんの数少ない友達といえば、たいがいがこんな調子だったので、日雇いくんもそれ以上追求するのはやめる事にしました。
「はあはあ、でもなんとか来たぞお」
二人は苦労の末、ようやく交番に辿りつく事が出来ました。
交番のアルミドアをガラッと開けると、日雇いくんは叫びました。
「お、おまわりさーん! ひ、人がワタシの家の前で倒れているんですー!!」
しかし、交番には誰もいませんでした。
「あれー、まだパチンコ屋に行っているのかなあ」
日雇いくんがそうつぶやくと、フタさんが言いました。
「あれ、日雇い、なんでそんな事知ってるの?」
日雇いくんは思わず先ほどのおまわりさんとのやり取りを話そうとしましたが、お金をもらった事がフタさんにわかってしまうと思うと、とてもそんな事は言えませんでした。言えばお金をたくさん貸してくれと言われるに決まっているからです。
「あ、あー、ここのおまわりさんパチンコが好きみたいだからさー、そうなんじゃないかなあと思ってさー」
日雇いくんは内心の焦りを必死に隠しながら言いました。
「そーなん? ふーん?」
不審そうな表情でフタさんが呟きますが、日雇いくんはスルーの方向で全ツッパしまくります。
そんな会話をしているうち、外から自転車のブレーキ音が聞こえてきました。
「あっ、おまわりさーん!!」
日雇いくんが叫びながら振りかえると、目の前にあの、お金を脅し取った、もといもらった、おまわりさんがいたのでした……。
そろそろ本筋にいきそうになりますが……。