1 し、死んでるよお!
いわゆるウッカリチャッカリしているものなので、
事件は一向に展開していきませんが、
無駄なものを読まされたと思ったり
怒ったりしないようなるべくお願いいたしますです。
埼玉県のはずれに、日雇いくんという貧乏でムサい白髪混じりの中年男がおりました。
仕事の嫌いな日雇いくんは小説を書くのが唯一の生きがいなのですが、書いたものは誰からも面白いといわれた事がありませんでした。
ついこの間もネット上にある投稿サイトに小説をアップしたところ、
「詩ね」
「ざけんなゴルァ」
「小説舐めとんかこのDQN」
「また駄作書きかよ」
「逝ってよし」
などと古めかしい言葉で叩かれてしまいました。
「よおし、今度は面白いっていわせてやるぞお!」
そう思った日雇いくんは、早速外に出て、何か面白い事がないかと散歩に出かけました。
しかし、そうそう小説のネタになるような事など見つかるわけもありません。
「あー何かないかなあ」
仕事にも行かず本も読まない日雇いくんが思いつくものといったら、自動販売機のつり銭口にお金が残ってないかだとか、近所の豆腐屋はカウンターにいつも人がいないから店先に出ている納豆でもパクっちゃおうかとか、とにかくロクでもない事ばかりで、面白そうな小説のアイディアなどちっとも出てきません。
「あーいつまで経っても思いつかないから家帰ろーっと」
散歩してからまだ30分もしないうちにそうぼやくと、日雇いくんは家に帰ろうとして来た道をひき返す事にしました。
「あれー、ここってどこだったっけ?」
なんと、日雇いくんは近所だというのにもかかわらず、道に迷ってしまったのです。
まわりは田んぼばかりで、何か目印になるようなものもありません。
「ワーン! どーしよー! このままじゃお家に帰れないよー! パパー! ママー!」
ぐずり出した日雇いくんはそのまま道に倒れ、
「ワーヤダヤダー! コーラ飲みたいよー! ポテチ食べたいよー! 池袋のふくろで安焼酎が入ったホッピー飲みたいよー! ついでにスライストマトもー!」
などと言って駄々をこねながらあちこちに転がりはじめました。日雇いくんのまわりが土埃でもうもうとなります。
1時間ほどして誰も助けに来てくれないのを察した日雇いくんは、仕方なく立ち上がると、
「ま、いいや。道はどっかに繋がっているんだから、歩いたらそのうちわかるだろう!」
などと叫ぶと、服についた土汚れもそのままに、先ほどとは打って変わったような陽気さで歩き出しました。
白髪交じりの中年男が駄々をこねながら暴れている様子をみて助けてくれるような人なんてめったにいないだろう、という事さえわからない日雇いくんは、暢気に口笛など吹きながらそのまま歩きます。
「くっちぶーえふーいーてーヒュヒュヒュヒュッヒューぁあきちへーいーぃったー」
そのうち歌まで唄い出しました。
いいトシして土埃だらけの服を着て脳天気にNHK教育でやっていた道徳番組の歌など唄いながら歩いているのはおそらく彼だけでしょうね。
さて、そうこうしているうちにようやく日雇いくんは自宅の近くまで帰ってくる事が出来ました。
「ふう、やっと帰ってきたなあ」
アヘアヘ言いながらそうつぶやくと、彼は自宅の前までやってきました。
「あっ」
なんと、築30年経つような掘っ立て小屋も真っ青な彼の家の前で、若者が一人、倒れているではありませんか。
「もしもし、こんなところで寝ちゃったら風邪ひいて死んでしまうよう」
日雇いくんは早速若者を揺り動かそうと、若者の肩に手を掛けてみました。
「おにゃ、なんか重い感じだなあ」
様子がおかしかったので、日雇いくんは若者の顔を覗きこんでみました。
「………………ひ、ひええええええええええええええええええええええええあああああああああああああああああああああ」
なんと、日雇いくんが見たものは、まるで死人のように青ざめ白目を剥いた、いかにも殺されましたと言わんばかりのものでした。
「け、けいさつーおまはりさーんんんん……!」