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奇妙な噂
テント内部はほの白いランプが吊るされており、背を丸めた商人が一枚の和紙を凝視している。
顔は無造作な黒紫の前髪で隠されており、微動だにしない。
薄灰色の布で覆われている為、確信は持てないが、指先からして老いては無い。
ゆったりと手招きをされ、流暢なフランス語で喋りかけてきた。
ローゼ嬢が時折フランス語をお話される為、日常会話程度はできるようになっていた。
言われた通りに手元を覗き込むと、和紙に見たことの無い記号が描かれており、お世辞にも上質とは言えない綿毛布の上で手をかざしている。
「西の竜巻に気を付けてなさい。」
一言告げると、黙り込んでしまった。
お代を払おうとすると遠慮されたがそういう訳にいかないので、ぴったりの金額を白い掌に乗せた。