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第五話

太陽の眩しさから逃げるように美菜子はベッドに潜った。

昨夜の相沢が頭から離れず、休日の朝から美菜子はベッドから出ていない。

予定もない今日は何もやる気は起きない。

「誰だろ」

流行りの曲が流れる携帯電話を手に取ると、相手は後輩の二宮だった。

「はい」

いつまでも鳴りやまない携帯に仕方なく出る。

寝起きの掠れた声に自分でも呆れてしまう。

「先輩。今お家ですかぁ?」

いつも通りの元気な声にげんなりする。

「そうだけど」

「よかった。今日神坂さんと変わってもらったんです」

美菜子の不機嫌さを隠さない返事を気にせず二宮は続ける

「今から迎えに行きますね」

楽しそうに自分の行動予定を話す二宮に驚いて固まってしまう。

「用意して待っててくださいね」

「ちょっ」

急な展開についていけず、携帯に慌てて出した声が言葉になる前に通話が切れてしまう。

かけ直しても出る様子のない二宮を恨めしく思いつつベットから出る。

一人で考えているより、誰かと一緒にいる方が気が晴れるかもしれない。

そう思うと、美菜子は急いで身支度を始めた。






「シートベルト締めてくださいね。」

二宮の車に乗り込むと、ココナッツの香りが鼻をついた。

「はいはい」

返事をしながらシートベルトを締める。

自分の車とは違い、若者らしい車内に頬が緩んでいく。

「少し遅いですけど、まずランチ行きますね」

そう言って目的地に向けて車を走らせる二宮が自分にきを使っていることに気が付く。

「シフトいいの?」

窺うように尋ねると

「神坂さんって良い人ですよね」

携帯でも聞いた名前に、美菜子は同じ職場で働くスタッフが顔に浮かんだ。

きっと二宮は素直に自分を励ますためとか言ったのだろう。

そう思うと溜息が出てしまう。

「空腹ですか?」

見当違いなことを言っている後輩にまた溜息。

「もう着きますよ。」

明るい二宮の声に笑ってしまう。

本人は分かっていない気がするが、いつもこの後輩の明るさには助けられている。

「ありがとう」

美菜子の言葉に満足そうに微笑んだ二宮は、車を上機嫌に走らせた。






二宮の車は、ランチの後の買い物で荷物だらけになっていた。

美菜子は普段セールでもこんなに買い込んだためしがないため、

何度も後ろの荷物を確認するように見てしまう。

「ストレスは買い物で発散しないと!」

二宮の自信めいた言葉に思わず頷いてしまう。

「でも、なんか典型的って感じ」

「基本ですね。基本」

そんな会話を今日はずっとしていた気がする。

会話を思い出して笑っていると、見慣れたマンションが見えてきた。

「先輩」

「なに?」

運転中の二宮の横顔は、少し緊張していた。

「昨日はあんな所に居たから心配しましたよ」

「ごめん」

昨日、相沢と別れた道端で動けないでいた美菜子を探したのも、家まで送ったのも二宮だった。

あまりの顔色の悪さに昨夜は一言も二宮は話しかけてこなかった。

「気を付けてくださいよ。女の子なんですから。」

「うん」

それでも何があったかは聞いてこない

「夜は危険ですから」

「うん」

からかうような声にホッとした。

いくら気分が良くなってきても、昨夜の事を話す気にはなれなかった。

車内の空気が明るくなってきた所で、タイミングよくマンションに着いた。

「運びます?」

「大丈夫だよ」

荷物を両手いっぱいに持ってドアを閉める。

「お疲れ様です」

開けた窓から二宮は美菜子に声をかけた。

「今日は本当にありがとう」

そう言って荷物を持ちなおす美菜子に二宮は手を振る。

「部屋まで頑張ってください」

「任せておいて!」

ゆっくりと走り出した車を笑顔で見届けて、美菜子はマンションに帰って行った。



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