無関心とメダル
部屋に転がるトロフィーを見て、彼女は自嘲的な笑みを浮かべた。僕の手の中にある学校からのプリントと「はやくがっこうへきてね」というクラスメイトからの寄せ書きを目にしてから、彼女はそれらの紙を奪うように掴み取った。
「あんた、どんな気持ちでここに来たの?」
責め立てるようにして言って、彼女はプリントと寄せ書きをビリビリに破いて床に放った。僕は彼女に何もしていないのに、なんとなく罪悪感と虚しさを感じた。胸のあたりがもやもやする。
「先生から聞いてないの?わたしの足もう動かないんだよ?」
そう言って彼女は、ほとんど力がこもってない拳で僕の肩を叩いた。
彼女はとても足の早い陸上部のエースだった。学校にも、友達にも、先生にも期待されていた、若年の天才だった。彼女の部屋には多くのトロフィーや賞状、メダルが飾られていたようだけど、いまはすべて彼女の手によってめちゃくちゃにされていた。大会に出た子達が喉から手が出るほど欲しがったであろう、様々な賞状。僕の目の前に座る彼女は、以前の快活な姿の面影もなくただ陰湿な雰囲気をまとうだけの少女になっていた。
「一番大きな大会の直前だったのに」
彼女は笑いながら両手で顔を覆った。
「それは……残念だったんだろうね」
「なにそれ。他人事……他人だし、あたりまえか」
僕があまりに物珍しそうに室内の賞状を眺めるからか、彼女は気が抜けたようで「どれが好きなの持ってっていいよ」と言った。遠慮せず金色のずっしりと重いメダルを手に家に帰った。僕は彼女の、過去の輝きの一部を持ちかえった。
次の日から彼女は車椅子で学校に来たけれど、暫くするとまた学校に来なくなった。僕はあんまり興味がなかったので、終始ぼんやりと学校生活を送った。