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美女先輩と神隠し  作者: ロジカル和菓子
4章 あるべき場所、あるべき姿 
29/33

不穏③終

「私たちの過去っていうと、イケニエ伝説の?」


「ええ。そうよ。さっきの曽根崎の様子をあなたは見たわよね?」


「ああ」


 あれは悲惨だった。まるで自分の意思とは別に違う力が働いているかのように、まさに操り人形のごとく自分の首を切り落としていた。


 むしろ、自分以外の力でなければ、最後まで力を入れ続けることなんて不可能に近いだろう。


「想像の通り、あれは、呪いの力よ。呪いなんて安易な言葉を使っていいのかはわからない。儀式の形式的に祟りと言うべきなのかもしれないし、あるいはもっと別の何かなのかもしれない。でも、何らかの力が働いていることは明らかだったでしょ。あの異常な自殺の仕方。あれが20年前に私たちに降りかかった呪いの力よ。・・・まぁ正確に言うと私はあの力によって殺されたわけではないのだけど」


 先輩は少し沈んで言ったが、再び顔を上げて喋り出した。


「20年前は私たちが卒業することであの呪いは一旦の休みに入った。そして校舎が建て代わり、釘塚高校が市立から私立へと経営が変わった時に、おそらく終わりを迎えた・・・はずだった。でも今、どこの馬鹿が再び始めたのかわからない中途半端な儀式のせいであの呪いは再び現れた。儀式の形態が変わっているせいでどんな呪いになっているのかも予想がつかない。儀式の祭壇にあった莉音さんの大切なものは回収時期を間違えた。と言うか邪魔されたに近いのだけど、そんなもの呪いをかける方には関係ない。次の月の4日までにあの呪いを解かないと、次の犠牲者が出ることになるわ」


「それで過去の記録を見て考えようってわけか。わかった!急ごう!」


 僕と先輩は学校にたどり着くと、校長室へと向かった。


 マスターキーがあると非常に便利なもので、後者の扉も楽々開けるので校長室に入るのさえ簡単だった。


 二度目の校長室は何だか特別な雰囲気な気がした。


 それはもしかしたら先輩と一緒に入っているからかもしれなかったが、そんなことを今考えている場合ではない。


 僕は先輩の代わりに過去の名簿ファイルを取り出し、先輩のクラスのところを開いた。


 しかし、先輩はそれを流し読むと「もういいわよ」と言って部屋を見渡した。


「ここ。見て」


 先輩は校長室の棚の後ろにあるカードの差し込み口のようなものを指差した。


 僕は一人で必死になって棚をにのけると、そこには扉が埋まっていたようだった。

僕はカードの差し込み口にマスターキーを差し込んだ。すると扉が近代的な音を立てて開いたので、僕たちは堂々とその部屋に入った。


 そこは、書庫になっているようだった。


「これは・・・記録ね。この学校の、市立の頃からの、膨大な記録」


 先輩はずらっと並ぶほんの中からたちまち一冊の本を見つけ出して指差した。


「これ、読んで見て」


 先輩が指差したのは『釘塚高校の起源』と言う本だった。それは本と言うよりはノートに近いいでたちだった。公に出版されている本ではなさそうだった。


「えーっと?釘塚高校の起源。釘塚高校はもともとは公立高校として80年前に設立された。校舎が立てられたのはもともとは釘塚神社があったところだった?」


 僕はそこまで読んだところで先輩の方を見た。先輩は「早く続きを読みなさい」と急かしてきた。


「場所の都合上、釘塚神社を移動させる必要があったので、一旦神社を解体して他の場所に組み立て直すことで場所を確保して校舎を建築した。


 しかし、そのせいか奇妙な事件が起こり始めた。校舎を建てていた人が次々と体調不良になったのだ。それでも校舎の建築は無理矢理にでも勧められ、見事校舎は完成した。


 しかし、生徒が入り出すと今度は生徒の体調が悪くなり始めた。そこで、霊媒師に依頼してみたところ、礼拝と供物と言う解決法を提案された。生徒にそれをさせ始めると、生徒たちの体調はすこぶる快調になった。


 それからその制度は少しずつ変わり、校舎が建て替わるまでは3年4組の生徒が一番大切なものを神社に一ヶ月間備えにいくと言う形式に落ち着いたらしい。校舎が建て変わってからはその制度は消えてしまったようだが、異常は今のところは起こっていない」


 僕が読み終わると、先輩は嬉しいような悲しいような顔をしていた。


「どうしたの?先輩」


 僕が聞くと、先輩は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「釘塚神社に関係している本はないかしら」


 先輩がそう言ったので二人で必死に探した結果、『釘塚神社資料』と言うファイルが見つかった。


「釘塚神社は、現人神を祀った神社である。斎王人と言う現人神が生きたまま地下で祀られることで釘塚地区一帯の繁栄を約束した。らしいよ」


 先輩に言うと、先輩はずいと顔を近づけて資料を読んだ。ふわりと存在しないはずの先輩の髪の毛の匂いが伝わった気がしてドキドキする。


「場所は?・・・杉の木の下。校庭にあるやつね。行くわよ」


 先輩はそう言うと扉を指差した。斎王人とやらが埋まっているのが杉の木の下らしい。


「どこに?」


「だから校庭よ。掘るのよ」


「掘ってどうする?」


「埋めるのよ」


「?」


 僕はその意味がよくわからなかったのだが、先輩は言葉足らずだと自分で理解したのか、言い直してきた。


「掘り出して、ちゃんと埋葬するのよ。今、斎王人とやらの遺体は極めて不明瞭な位置にある。神様として祀られるでもなく、人として埋葬されるでもなく。だから私たちはきちんと埋葬してあげなければならないのよ」


 先輩は悲しそうに言った。


 そうか。先輩も。もう死んでるんだ。


 急に実感して僕も悲しくなった。


「行くわよ」


 先輩の一言で僕は動き出した。スコップがなかったので、部室棟の機械部の部室を覗くと、案の定部員たちは新しい発明をするのに躍起になっていた。


「何か掘るものが欲しいんだけど」と駒野に頼むと、「おいおい、我々は便利屋じゃないんだぞ?」と言われ、断られたものだと思っていた。


 僕は諦めて部室を出ようとしたが、それを駒野は止めた。


「待て待て。ないとは言ってないぞ」


 頼もしい限りだ。


 機械部から借りたドリル式の採掘機を使って僕は校庭にある大きな杉の木の周りを掘った。


 結果的に言うと、巨大な檻のような部屋が丸々地下には埋まっていて、もともと空気穴として使っていたらしい穴から下の様子を見てみると、白骨化した遺体が二つそこにはあった。


「二つ?」


 僕は予想外の結果に驚いていると、先輩は「そうか!」と声を張り上げた。


 僕がその様子に驚いていると、先輩は説明してくれた。


「呪いは二つあったのよ。前に私の過去については話したわよね?呪いの形式についても。儀式を怠れば、毎月4日に死者が出る。そしてその死者の記憶は忘れ去られる。


 でも、途中から毎月15日に殺人が起こったのに関しては死者の記憶は失われなかった。これは二つの呪いだったのよ。だから、元凶も二つあったのよ」


 僕は何がなんやらといった感じだったが、とにかくこれで元凶が見つかったことにはかわりないらしい。


「でも・・・さすがにこれは学生の手には余るわよね・・・。警察に任せましょうか」


 先輩はそう言うと、僕の携帯を指差した。警察に電話しろってことか。でもそれじゃ先輩といる時間が少なくなる・・・。


 そう迷っていたことに先輩も気づいたのか、追加で一言。


「私のことは気にしないで。明日は朝に会いましょう」


 そうとだけ言い残すと先輩は姿を消した。文字通り。


 僕は警察に電話をかけた。


 その結果、その日に関しては警察にこってり話を聞かれると言う強制イベントで一日を消費することになった。


 でも、あの遺体に関してはちゃんと埋葬されたらしい。


 先輩曰くこれでおそらく呪いも止まるそうだ。


 竜五や里実、莉音。他クラスメイトたちの危機を救えたことは嬉しかったが、先輩との残り時間の1日を使ってしまったことが僕にとっての気がかりだった。


 後の2日を最高なものにしなくては。


 そう考えて僕は警察署から自宅へと帰っていった。

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