不穏①
僕が先輩と図書館で微笑み合っていると、ふと携帯が鳴り響いた。
「ったくこんな時に。誰だよ」
携帯を見るとまた竜五からだった。仕方なく電話に出ることにした。
「おい!悠!無事か?」
「なんだよ。無事だけど・・・」
「よかった!今どこや?」
「学校だけど」
僕がそう言った瞬間、電話越しに竜五の大音量の声を聞くことになった。
「はぁぁ!?なんてとこにいんねん!悠!今、曽根崎が学校に侵入したってニュースでやってたぞ!」
「曽根崎がここに?」
僕がつい大声で確認すると、鶉野先輩は怪訝な顔をした。
「絶対関わんちゃうぞ!警察に任せてお前は安全なとこに隠れとけよ!」
竜五が忠告してきてくれていたが、残念ながら僕はそれで黙って隠れていれるような人間ではない。
「おい!悠!聞いとんのか!悠!」
携帯を持つ方の腕をだらんと下におろし、携帯を切る。
あいつは、野放しにしちゃいけない人間だ。
先輩は好きにしなさいと言った表情で僕を見ていた。
「先輩。僕、追いかけるよ。曽根崎を。先輩もついてきてくれる?」
それはもちろん先輩が幽霊だからこそ言えるセリフだった。
「ついていくわよ。だって私は残りの3日をあなたにあげたんだから」
先輩はニヤッと笑って言った。
「よし。行こう」
僕がそう言うと僕たちは曽根崎を探すために図書館を出た。
この広い学校で一人の人間を探し出すのは中々難しいと思っていたのだが、その問題に関してはすぐに解決することになった。
まあその代わりに他の問題が浮上するのだけれど。
図書館を出た途端、女の子の悲鳴が学校中に響き渡った。
「きゃあああああああ」
それは、聞いたことのある声だった。
「先輩!今のって!」
「ええ!一階からのようね!行ってみましょう!」
お互いの顔を見合ってそう確認をとった僕たちは、すぐさま階段を駆け下りた。
3階からでは、声の居所までは掴めなかったのだが、その問題もすぐに片付いた。
「お願い!はなして!」
「いいいい、嫌だ。君を話したら僕は捕まってしまうんだからね」
二人とも聞いたことのある声だ。声は保健室から聞こえた。
片方は曽根崎。そしてもう片方は・・・莉音だった。
「今のって!」
「間違いないわ!ここね!」
走って保健室の前までいくと、僕は深呼吸してから扉を開いた。
そこには、ある意味予想していた通りの光景が広がっていた。
曽根崎が莉音の首を腕で押さえつけて捕まえていた。
「悠くん!助けて」
莉音は絞り出すように必死にそう声を出した。
「曽根崎!莉音を離せ!」
僕は開口一番そう言った。それに対し曽根崎は嫌な笑みを浮かべて僕に返事をした。
「ヤァ。またお前か。悪いけど今回は君に構ってる暇はないんだな」
そう言うと曽根崎は莉音の首を締める力を強めた。
「やめろ!」
僕がジリジリと近づいていくと、曽根崎も同じように後ろに下がっていく。
しかし曽根崎の背後には出口はない。
「曽根崎ぃぃぃ!」
僕が決死の覚悟で曽根崎に向かっていくと、曽根崎は背後に向けて全力で走り出した。そして奴は、莉音を抱えたまま、窓ガラスに直撃していった。
窓ガラスは割れ、破片が曽根崎と莉音に刺さるが、曽根崎は気にせず逃亡した。
去り際、「じゃあね」と声を出さずに口の形だけでそう言ってきたことは僕の神経を逆なでさせてきた。
先輩を見ると、「追いましょう」と言うので、やはり僕も割れた窓ガラスに気をつけながら外に出た。
曽根崎はすでに学校の裏門をよじ登っていた。
僕も負けじとそれを追いかける。莉音を抱えたまま器用に裏門をよじ登った曽根崎は一足先に学校の外へと出た。




