独白⑤終
「はは君ってば。変なの。ありがとう。私も君が好き。気味の悪い私にも優しく接してくれる君が好き。誰にも知られることなく。いや、誰からも疎まれながら死んでいった私にとって、君は太陽みたいに眩しい存在だった。幽霊と知って態度の変わらない君が好き。でも、ごめんね。だからこそ私は行かなくちゃならない。ここに未練を残していたら君にも迷惑をかけちゃうから」
先輩の儚げな笑顔は終わりを予感させているかのようだった。僕はなんだかどうしようもない気持ちになって胸から言葉が飛び出す。
「そんなの知るか!!行くな!!先輩!!僕が先輩を幸せにする!!俺はどうなったっていい!!だから行くな!!先輩!!」
僕は感情に任せて言ったものの、そんなことで先輩の考えが変わらないことはなんとなくわかっていた。先輩は少し考えてから返事をした。
「・・・やっぱりだめだよ。期限はもう迫ってる。私はもう呪縛霊ですらない。この図書室に縛られることがなくなって、現世との繋がりが薄れてきてる。このままじゃどうせ私は消えちゃうもの」
先輩は僕から目を逸らして言う。
「そんな・・・なら!!僕に取り憑けばいい!僕に取り憑けばいつまでだって現世にいられるんだろ!」
僕は泣きそうになりながらそう懇願した。
「それはダメ。取り憑けば私はいつかあなたを殺すことになるもの。霊に取り憑かれた人間は徐々に生命力を失って行く。だから私は最高に幸せな今。成仏するの。それで君とはさよなら。でもいいの。こんな私でも愛してくれる人がいるってわかったから」
先輩は僕の手を取るとただただぎゅっと握りしめた。
「あと何日だ?」
僕はふと先輩に尋ねた。
「え?」
「先輩がこのまま現世との繋がりを失うまでの期間」
「なんでそんなこと?」
先輩は困惑顔だ。なんでって?そんなの決まってる。
「いいから!!答えて」
「そうね・・・完全に消えてしまうまで、後3日ってところかしら・・・」
先輩がそう言うと僕はニヤッと笑って言う。それが意味する悲しみなどには目もくれず。僕は目先の可能性にかける。
「なら先輩!それまでの時間!!僕にくれ!!」
「はぁ!?」
先輩は僕が一体何を言いたいのかわからず困っている。こんな先輩も珍しくて可愛いものだ。
「完全に消えてしまうまでなら成仏できるんだろ?ならちょっとぐらいこの世を楽しんだっていいだろ?」
「そんなの・・・いいのかしら・・・」
先輩はオロオロしながらそう言った。完全にこっちのペースだ。このままなんとか時間を延ばしてみせる。僕と先輩の一緒にいられる時間を。
「いいに決まってる!ダメだっていうやつがいるなら俺が蹴っ飛ばしてやるさ!」
僕がそう言うと、先輩は笑った。ケラケラと優しい笑顔で笑った。
「だめよ。蹴っ飛ばしたりしちゃ。でもわかったわ。あなたのそのわがまま。聞いてあげる。私が消えるまでの3日間、君にあげる」
その時、僕は初めて先輩に出会った時のことを思い出した。
まるで、全てをお見通しであるかのような態度。
僕は、あの時、きっと先輩を一目見て惚れたんだ。
その先輩が、僕に最後の時間を預けてくれることになった。
これ以上の幸せがあるだろうか。
たとえ先輩が幽霊だったとしても。
僕のこの恋心は、本物だ。
僕はこれから三日間、先輩と最高の時を過ごす。
先の悲しみを思うより、僕は今の楽しみを思っていたい。
だから僕は最高の3日間にしてやると、そう決めた。
これから僕と先輩だけのランデブーが始まるんだ。
なんて言い方はキザったらしいか。




