独白④
「終わり?」
僕は首を傾げて言葉をそのまま返した。
「ええ。あなた、覚えてる?私が神隠し事件解決に立ち会ったこと」
先輩は歩きながら話し出した。
「覚えてますけど」
「私、図書館の外に出てたわよね?」
言われて見ればそうだった。
「確かに出てましたけど・・・それが?」
「あれは行動範囲が広くなったわけじゃないの。力が弱まってこの本たちとの繋がりが薄くなったからこの本のそばを離れることができるようになっただけなの。・・・だから、多分、あなたが来なければ私は全部読むことはできなかった。本当に、ありがとう」
鶉野先輩はそう言うと僕に向かって深々と頭を下げた。
「やめてください。・・・それより、終わりってどう言うことなんですか?」
僕がそう聞くと先輩は「ああ、それのこと?」と言った。
「それはその通りよ。力が弱まっていると言ったわよね?私はあなたに取り憑くことでなんとかこの世にとどまっていたの。でも、それもおしまい。未練もなくなったことだし。私は消えることにしたの」
先輩は晴れ晴れとした顔でそう言った。が、違うだろ。まだあるだろ。
「あ~、でも、やっぱり一つだけ欲を言うなら、人並みな恋って言うのはしてみたかったかもね。19巻の結末は、散々考えたし、もういいの。あなたの体力を削るのも、そろそろやめにしたいしね」
先輩は伸びをしながら諦めたようにこぼす。
「僕はいいから!先輩はまだやりたいことがあるはずだろ!」
先輩に向かって僕はそう声を張り上げた。
「ダメよ。無許可で取り憑いといてなんだけど、人に取り憑かれると言うのはすごくマイナスなことなの。長期間取り憑かれると健康に害が及ぶどころか、最悪死に至ることもあるのよ」
先輩は優しく僕にそう語りかけるが、僕はそれを良しとしない。
「知るか!先輩の未練を果たすまで!俺は取り憑かれ続ける!」
僕がそんな駄々をこねたのを観て、先輩はふと手を僕の頬に当てた。
「どうしてそんなになってまで?肩、すごく痛いんじゃないの?」
先輩の言う通り、神隠し事件を解決したあたりから痛んでいた僕の肩は日に日に悪化の一途をたどっていた。これも先輩のせいだって言うのか。でも。
「関係ない!だって・・・だって僕は先輩が好きだから!先輩の力になりたいんだ!」
僕は必死の思いを先輩に告げた。
また、いつもみたいに笑われるものだとばかり思っていた。
でも、今回は違った。
先輩は目を見開いて僕のことを見た。そして、次の瞬間。頬から流れ落ちる涙。
「話聞いてなかったの?私は幽霊なんだって。はは」
先輩は誤魔化すように涙をぬぐい、無理やり笑ったふりをした。でも僕はごまかされない。僕は先輩の本音が聞きたいんだ。
「僕は先輩が幽霊だったって気にしないよ。僕は先輩が好きだ」
僕は先輩の手をとり、重ねて告白する。
「私、20年前に死んだんだよ?君からしたらおばちゃんだよ?それでもいいの?」
先輩は困ったような笑顔で答える。今、僕の告白を彼女はどう感じているのだろうか。
「ああ。構うもんかよ。そんなこと。愛の前ではちょっとやそっとの障害、なんてことはねぇもんなのさ」
僕はちょっとおどけてそう言ってみせた。きっと後から考え直して見たら死ぬほど恥ずかしいセリフだ。これは。
でも、構うもんか。
僕は先輩から目を逸らさない。
この告白は、きっとしなくちゃ一生後悔するタイプのものだから。




