呪いの祭壇④
校長室は1階にあった。割とすぐにたどり着くことができたので、カードキーを使って扉の鍵を開き、中に突入した。
中には当然だが誰もいなかった。
僕は校長室の棚にある名簿ファイルを見つけると、20年前のものを探した。写真と名前、性格や成績などがそこには記されてあった。
「20年前、20年前……と、あった!」
早速その中身を開く。
20年前、人が死ぬ呪いがあったとされるのは……2年4組。
名簿を上から見ていくと、すぐにその名前は見つかった。
鶉野叶恵。
最近まで図書館で会っていたはずの先輩の写真がそこにあった。
備考欄には釘塚神社にて不審者による殺人事件により死亡。と書かれてあった。
「うそ……だろ?」
正直、そこに名前があるのは期待しているようで、期待していなかった。いや、むしろ名前が載っていないことを祈っていた。
何らかの間違いで、ただ先輩は僕に会いたくないだけなのだと。
「ん?会いたくない?」
何かが胸に引っかかったような気持ちになりながら、僕は他の生徒に関しても見て行った。強姦殺人と言うワードが胸につっかえて呼吸を塞いでしまわないうちに、僕は他の人について調べることで気を紛らわせようとした。
備考欄に死亡と書かれていたのは、実に20名。クラスの半分に相当する人数にも及んでいた。
「先輩……」
僕がしんみりしていると、ふと警報が鳴り始めた。
僕が侵入してからしばらく収まっていたのだが、学校に再び警報が鳴り渡ったことで、僕は我に返った。
「もしかしなくても、これは。あいつか」
僕は曽根崎を捕まえることと、先輩と話すことを天秤にかけ、先輩と話す方を選んだ。それがその先どんな結果を生むかも知れずに。
僕は校長室を出て、三階の図書館へと向かった。
奴と遭遇する可能性を鑑みず、一直線に階段を駆け上がる。二段飛ばしで登っていくと、3階に着くころには心臓がバクバクと音を立てていた。
図書館の鍵はしまっていたが、カードキーがあったので問題はなかった。
カードキーで鍵を開け、中へと入る。当然中には誰もいない。僕は誰にも邪魔されないようにと扉の鍵を閉めると、大きな声で誰にでもなく呼びかけた。
「先輩!鶉野先輩!おるんやろ!出てきてくれよ!」
僕が思わず関西弁で呼びかけると、偽扇仰の小説が入っている本棚の後ろから鶉野先輩は現れた。
「君と会うのはこの前が最後だと思ってたんだけどなぁ」
先輩は悲しそうな目をしてそう言った。
「読み終わったから、消えるってのか?」
僕は怒りのような感情を先輩に向けていた。いつのまにか敬語は飛んでいたし、口調も激しくなっていた。
「そう、あなた、気づいたのね。私が……」
先輩はそこまで言うと言い淀んだ。
「幽霊なんだろ」
僕は先輩に変わってその言葉を口にした。
「そう、そうよ、私は20年前に死んだ。なのにこうやって未練たらしく現世に縛り付けられてる。でも、それもこれで終わり。これでいいのよ。これで」
先輩は寂しそうな目をして言った。これでいいと思ってる人の目なんかじゃない。
「そうやって言い聞かせて自分を納得させて終わろうってのか?これまで散々僕にああしろだのこうしろだの言ってきたのに。自分は逃げんのかよ」
僕は先輩を睨みつけた。本心じゃないことぐらいこれまで長くはなかったけど、必死に先輩のことを見続けてきたのだ。それぐらいのことはわかる。
「はは、言われちゃった。でも、でもさ。仕方ないんだよ。って言うか、もう、未練のほとんどは解消されたわけだし」
先輩は作り笑いを浮かべて僕に諭すように言った。
「どういうことだ?」
「うーんと。それを説明するには、昔話をしないといけないかな。20年前の可哀想な女の子と、悲惨な連続事件の話を。悠くん。君は聞いてくれるかな?ちょっと長くなっちゃうかもしれないけど」
先輩は目を潤ませて僕のことを見た。そんなの答えは決まっている。
「ああ。聞かせてくれ」
感情がぐちゃぐちゃで、僕は敬語を使うことなんて忘れ去っていたし、この距離感で向かい合わなきゃいけないと心の中で感じていた。
だからいつのまにか僕の口調は出会った時と同じに戻っていたんだ。
先輩はキッと表情を引き締めると、ゆっくりと口を開いた。
「あれは……20年前の4月のことだったわね―




