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美女先輩と神隠し  作者: ロジカル和菓子
3章 イケニエ
17/33

いつもと違う君

 あの事件から数日。


 7月3日。


 昼休み。


 僕はなんだか肩の調子が悪い気がしながら、先輩のいるはずの図書館を訪れていた。


 先輩はいつもと同じ席で読書に明け暮れていた。見ればその巻数は29と書いてあった。


「先輩。鶉野先輩」


 僕が呼びかけると先輩は僕に気づいたようだったが、一言。


「ちょっと待って。これが最後だから」


 そう言われては仕方がないので、先輩を待ちながら偽扇仰の本が並んだ本棚を眺めることにした。


 偽扇仰の推理小説は29冊に及ぶようだった。先輩が今読んでいるのは、最終巻の29巻と言うことか。


 これでとうとう先輩もこのシリーズを読み終えるのかと思うと、なぜだか僕の方が感慨深い気持ちになった。


 しかし、ずらりと並ぶ偽扇仰の小説を見渡してみると、気になることが一つあった。


 1巻、2巻……17巻、18巻。20巻、21巻、22巻……28巻。


「あれ?19巻はどこへ行ったんですか?」


 先輩が今読んでいる29巻は別として、19巻もなかった。誰かに借りられているのだろうか?


 僕がそう言うと先輩はピクリと確かに反応した。


 しかし「さぁ」とだけ言うと先輩はまた本の世界に集中しだした。


 誰に借りられているんだろうと、図書館の検索システムで検索してみる。


 図書館の無人の受付では今図書館にある本を検索でき、今借りられているかについても調べることができるのだ。


「偽扇仰、19巻と。検索検索」


 検索にかけると、貸出中という文字だけが帰って来た。


「先輩、19巻は貸し出し中みたいですね。こんな分厚い本借りる人他にいるんだ」


 僕がそう声をかけても先輩は無視した。相当集中しているらしい。


 しばらくすると、先輩は顔を上げたのだが、読んでいた本を本棚に返すと僕の目の前まで歩いて来た。


「まずは、神隠し事件、解決おめでとうと言っておくわ。おめでとう。鷺森くん。でもあなたにはまだ仕事が残っているのはわかってる?」


 先輩は僕を試すような目をしてそう言った。


「坂巻莉音が供えた大切なものを回収させるんですよね」


 先輩はやけに必死になって言っていたので、忘れることはなかった。


「そうよ。それがわかってるならいいわ」


 珍しく僕と対面して話をしてくれている先輩に違和感を覚えた。これまでよりちゃんと僕と向き合ってくれている気がした。


「先輩、どうしたんです?」


「何が?」


「いや、先輩の態度がいつもと違う気がして。……いてて」


 先輩と会話している途中、ふと肩が痛んだ。曽根崎を押さえつけた時の痛みがまだ残っているらしい。


「どうしたの?」


「いえ、曽根崎を押さえ込んだ時の痛みがまだ残ってて」


「……そう」


 先輩はなんだか悲しそうな顔をすると、僕の前から逃げるように本棚へと向かって行った。


「でも、どうせその痛みも、すぐ治るわよ」


「ですね」


 そう言うと僕は先輩を追って本棚の方へ向かった。


「偽扇仰の小説は全部読み終わったんですか?」


 僕がそうたずねると、先輩はしばらく考えてから答えた。


「ええ。もう満足したわ」


 僕の問いに対する答えとしては少しずれているような気もしたが、その時はそれほど気にすることはなかった。


 先輩は1巻から順に偽扇仰の本をなぞって行くと、19巻で一旦指を止めた。


 その後、29巻まで行くと指でなぞるのをやめた。


「結局、一番面白かったのは何巻なんですか?」


 僕は沈黙に耐えきれずに先輩にそう聞いた。


「そうね。4巻なんていいんじゃないかしら。1巻から徐々に面白くなっていって、ちょうど一つ目の山場が4巻なの。そこまで分厚くないしあなたでも読めるんじゃない?」


 先輩は初めて僕にオススメをしてくれた。それがどう言う意味を持つのかも知らずに、僕は喜んで4巻を手に取った。


「『井戸の奥には何がある?』これか。面白そうなタイトルですね」


 僕は正直推理小説など読んだことはなかったが、先輩の勧めとあらば読まないわけにはいかない。僕は無人の貸し出し機で貸し出し登録をすると、その小説を借りた。


 先輩は本棚の前で立ち尽くして、窓の外を見ていた。話しかけづらい雰囲気だったので、僕はその本を借りて図書館を出た。


 図書館を出るときに、「読んだら感想伝えますね」と先輩に呼びかけたのだが、先輩は「そ」とだけ返しただけだった。


 変な先輩と思いながら僕は図書館を去り、そのまま学校を早退した。


月曜日……心を不穏にする響き……

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