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美女先輩と神隠し  作者: ロジカル和菓子
2章 ベートーベン
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一番怖いもの③

「よし。竜五、入るか」と僕は竜五に声をかける。


「おう。任せんかい」


 竜五はそう言葉を返すと音楽室の鍵を開けた。


 扉をゆっくりと開け、恐る恐る音楽室の中に入る。


 しかし、そこは前と何も変わっていなかった。


 ベートーベンもまだ投影機を設置されていないようで、僕が近づいてもただ目が光るだけだった。


「なんだ、前と一緒やん」


 竜五はベートーベンに向かって手を出したり引っ込めたりして光らせたり消したりして遊びながら言った。


「よかったよ、何もなくて」


 竜五の言葉に里美はほっと息を吐いて返した。


「なんだ、何もないのか」


 僕は独り言のようにそう言うとこっそりと先輩の方を見た。竜五がベートーベンで遊んでいる間、先輩は窓から外の様子を見ているようだった。


 僕が先輩の見ているものを見ようとして先輩に近づこうとすると、先輩は僕を避けるようにその場を離れ、気づけば音楽室からいなくなっていた。


 先輩が見ていたのは、食堂のようだった。


 神宮寺の言っていたことを確認しに行ったのかもしれない。


「よし。次は食堂に行こう」


 僕がそう提案すると、竜五も里実も頷いた。


 夜の学校というのは、なかなかの怖さがある。その怖さというのは夜の病院と並び立つものがあるだろう。こうして3人ひとまとまりで歩いていなければ、まともに進むことすらできなかっただろう。


 それを鶉野先輩は、一人でヅカヅカと歩いて行く。なんて肝の座った女性なんだろう。


 将来は尻に敷かれることになるのかな。なんてバカなことを考えたりした。


 そんなことを考えながら、竜五と里実と共に食堂に向かうのに、それほどの時間はかからなかった。


 食堂の前まで来ると、先輩は立ち止まった。窓から中の様子を見ているようだったが、しばらくすると扉の前に立って開けるよう指差した。


「よし。じゃあ、入ろうか」


 僕はその指示に従い、竜五に鍵を開けさせ、中に突入した。


 とは言っても、中は別に変わった様子はなかった。


「あ、これ監視カメラに映ったら食料泥棒だと思われるんじゃ」


「あ」「あ」


 3人で間抜けな声を出したところで、先輩はやれやれと言った顔をして外人のような手のひらを上に向けるポーズをとった。それはそれで珍しいものを見れた気がした僕は少し嬉しかったのだが、そんな嬉しそうな僕を先輩はバカにしたようにふっと鼻で笑った。それはさすがに傷つく。


 冷蔵庫のほうに行って調べて見たが、別段変わったところはなかった。


 先輩がまた一人でどこかへ行こうとしたので、僕たちも急いでそれに続くことにした。


 先輩は、一階から鏡のある部屋を回り始めた。


 もちろん鍵を開けるのは僕たちの役目なんだが。


 一階の保健室、トイレ、教室を回ったが、鏡には特に変わったところはなかった。


 続いて二階。


 二階には視聴覚室があった。先輩はまた中に入るように指示すると、僕たちは鍵を開け中に入った。視聴覚室にはパソコンが並んでいた。どれも高性能なものだとなんとなくわかる。最新のディスプレイに、スリムな本体のパソコンが勢ぞろい。


 これ全部でいくらするんだろうなんてことを考えていると、先輩は壁にかけてある大きな鏡を食い入るようにして見つめだした。


「何か見えましたか?」


 僕はコソコソ声でそう言ったのだが、先輩は返事をせずに自分の口に人差し指を当て「シー」と言うのみだった。


「おい、悠。何しとんのや?その鏡が怪しいんかいな」


 竜五は僕が鏡の前に立っているのを見て、近づいてきた。


「そうなの?悠」


 里実もつられて近づいて来る。


 それに比例して、先輩は少し鏡から遠かった。


「わからないけど。何かあるのかも」


 先輩は教えてくれないけど。


 僕たちはその鏡をじっと見つめ続けたが、特に変わったことは起きなかった。


「なんや、なんも変わらんやないけ」


 そう言いながら竜五はその鏡に触れた。その時だった。


「うわた!」


 竜五は足を滑らして前のめりになった。当然、鏡の上半分に竜五の全体重がかかった。


 その時。


 鏡は反転した。


 何が起こったかと言うと、竜五の体が、その場から消えた。鏡がひっくり返って、一瞬中の様子が見えた。


 やばい。


 僕はそう思い、竜五と同じように鏡の上半分を全体重を乗せて押した。すると、同じように鏡は回転して僕の体は壁の向こう側へと移動した。


 鏡は回転扉となっていたのだ。僕は竜五に続いて見知らぬ空間に足を踏み入れることとなってしまった。


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