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美女先輩と神隠し  作者: ロジカル和菓子
2章 ベートーベン
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一番怖いもの②

 翌日。


 オカルト研究部の西木戸さんが、行方不明になった。おそらく、僕の忠告を聞かずに昨日の夜に学校を調べに言ったのだろう。


 だが、これで確定的な情報が一つ増えたとも言える。


 夜の学校には何かある。



 その日の放課後。


 竜五と里実を含む僕たち3人は、機械部の部室にやってきていた。二回目の扉を潜ると、機械部の3人は変わらず作業をしていた。


「ごめん。邪魔するよ」


 僕が声をかけると、一発で駒野は僕に気づいたようだった。


「やぁ。君たちか。どうしたんだい?まさか感想の続きを聞かせにきてくれたわけではあるまい?だとすると入部希望?なら大歓迎なんだが」


 駒野はスラスラとそんなことを言った。でも僕はそんな話をしにきたのではない。


「ごめん。違うんだよ。今日は君たちが夜の学校に忍び込んだ時の話を聞かせて欲しくてきたんだ」


 と僕が言うと駒野はがっかりしたようだった。本気で入部希望と思ったんだろうか。


「そうかい。まぁでもいいとも。なんでも聞いてくれ。僕たちは学校侵入という罪を犯した共犯者だからな。はっはっは」


 駒野は妙なテンションで言った。働きすぎで疲れているんじゃないだろうか。


「変なテンションやな。悟」


 竜五は言ったが、お前がいうかといった感じだ。


「うん。ありがとう。それで、君たちはベートーベンのライトを仕込む際、夜の学校に忍び込んだよね?」


「ああ。その通りだ」


「その時、変なものを見たりしなかった?」


「変なもの?」


 駒野は首を傾げて聞いた。


「うん。例えば、動く人体模型だったり、変な鏡だったり」


「うーん、俺は見ていないなぁ。お前たちはどうだ?あの時何か見たか?」


 駒野は他の部員にそう尋ねた。すると小太り爽やか男子、神宮寺がそれに答えた。


「それなら見たかもしれないっす!一瞬でしたけど、動く人影みたいなやつ。僕たちが3階で作業してるとき、食堂付近で」


「本当!?」


 僕が神宮寺に攻め寄ってそう尋ねると、神宮寺は僕から距離を置いて返事をした。


「ほ、本当ですよ。それが人体模型だとは思いませんでしたけど」


「それなら問題ないよ。こういった類の噂は形に限らず一人歩きするものだから」


 と僕が言ったとき、ふとこれは鶉野先輩が言いそうな言葉だなと思った。


「悠、やったやんけ」


 竜五は言ったが、まだ情報が一つ増えただけだった。僕は竜五の問いに頷いて、続きの問いを機械部の面々に投げかけた。


「鏡については?」


 しかし、その僕の問いに首を縦に振る者はいなかった。


 結局そこで得た情報は、食堂付近の人影。


 何かあると言うことぐらいしかわからない。


 これは本格的に潜入するしかないな。そう覚悟を決めて、僕は「作戦は今日の夜にしよう。僕は行くところがあるから」と言うと、竜五と里実を置いて部室をでた。


 向かう先はもちろん、図書館。作戦決行日時を伝えるために。


 図書館の扉はなぜか開いていた。


 鶉野先輩はいつもの席に座っていたが、今日は本を読んでいなかった。


「今日は小説、読んでいないんですね」と話しかけると、先輩は僕の方を向いた。


「待ってたわ」


 先輩は僕の言葉を無視して、そう言った。それは初めてのセリフだった。


「さぁ、早く。調べてきたことを、聞かせてちょうだい」


 先輩に急かされるまま、僕は今聞いてきたことを先輩に話した。


「なるほど。少し、全体像が見えてきたわね」


 驚くことに、先輩はそう言った。目にかかりそうになった前髪を手で払いのけながら。


「本当ですか!?」


 僕は驚きの声をあげた。


「推測の域を出ないけどね」


 あくまで先輩は謙虚な姿勢だった。ぜひその推測を聞かせてもらいたいものだ。


「それ、聞かせてください」


「いや、先入観があるのは良くないわ。確定するまではあなたにも話さない方がいいと思うの」


 あっさり断られた。これまでの実績から言って、先輩の言うことは信頼できると僕自身が判断していたのに。


「それで?いつ夜の学校に忍び込むことにしたの?」


 先輩の問いに僕は間髪入れずに答える。


「今日です」


 その答えを聞いて、先輩は笑った。


「はは。いいじゃない。今日ね。私も行くわ。そうね、集合はエントランスに11時ってところかしら」


「わかりました」


 そうやって僕たちの潜入作戦の具体的な時間が決定した。しかし、先輩はさらに一言付け加えた。


「ただし、現場では私には話しかけないこと。いい?」


 それは不思議な約束だった。考えに集中したいのか、静かに行動するのが目的なのか、あるいはその両方なのか。とにかく馴れ合いはしないと言うことだろう。それだけ危険度の高いミッションであると言うメッセージだと僕は受け取った。


「わかりました」


「そ、聞き分けのいい子は好きよ」


 先輩はにっこりと笑うとさらに付け加えた。


「そしたら、聞き分けのいい悠くん。今から私は最後になるかもしれない読書の時間を楽しむから、ここから出て言ってくれるかしら?」


 僕は悠と呼ばれた嬉しさで、追い払われたことにも気づかずに図書館を出た。階段を下っているとき初めて追い払われた事実に気づいたのはかなり恥ずかしいことだった。


 そしてその日は光の速さで過ぎていき、夜になった。


 僕と竜五と里実は校門前で集まると、前に忍び込んだ時と同じく学校に潜入した。エントランス前まで来ると、竜五は駒野にもらった鍵で校舎への扉を開いた。


 すると不思議なことに校舎の中に鶉野先輩は立っていた。先輩は僕の顔を見るとニコッと笑った。竜五と里実の方を見るが、驚いている様子はない。竜五と里実には、協力者がいると言っておいたのだが、普通驚かないか?こんなに可愛い先輩だぞ?


 いや、それは僕の主観でしかないしなんとも言えないか。


 僕は先輩に近づくと、「なんで校舎の中にいたんですか」とコソコソ話で聞いた。


 先輩は「私に校舎の中に入るなんて簡単なこと、できないと思う?」とヒソヒソ話で返すと、先輩は僕の唇に人差し指を当てた。


「シー」


 先輩がそう言うのを僕は夢中で見つめていた。しかし、先輩はすぐに踵を返して歩き出してしまった。鍵を取るために職員室を経由したが、行先は三階の音楽室だった。


 僕は竜五と里実に適当に説明しながら音楽室を目指した。音楽室に着くと先輩は中に入るように指で示してきた。


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