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美女先輩と神隠し  作者: ロジカル和菓子
2章 ベートーベン
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怖いもの見たさ②

 なぜ忍び込むという方法をとることになったのか。それは竜五のある言葉が原因だった。


「そんなん忍び込む方がおもろいからに決まっとるやろ」


 当然のように言い放つ竜五は、勉強会という口実を作ることで学校に許可を取って入るという選択肢を見事に消した。しかも先手を打って。


 竜五が最初に門をよじ登り、続いて僕が登り、里実が登ってくるのを手伝った。


 夜の学校というのはなんとも言えない不気味な雰囲気を持っていて、吹きすさぶ風は霊的な存在を感じさせるかのように肌寒かった。


「案外簡単に忍び込めるんやな」


 僕たちがとりあえず校舎の中に入れる方法を探そうとしていたとき、言い出しっぺの竜五がそんなことを言った。


「竜五が言ったんじゃないか」


「いや、わいかてこんなにうまく行くとまでは思ってへんかったで。なんかもっとセキュリティ的なシステムがついてるもんとちゃうんか?」


「そんなもんがついてたら今頃僕らは不法侵入で捕まってるよ」


 僕は呆れながら言った。里実の声がしないと思って隣の里実を見たら、相当怖がっているようだった。


「大丈夫か?里実。なんなら帰ってもいいんだぞ」


「いい」


「別に無理しなくても」


「いいって言ってるでしょ!」


 僕は助けを出し続けたつもりだったが、おせっかいはいいから!と言った顔で怒られてしまった。そんなに無理して付き合わなくてもいいのに。


「わっ!」


「ひゃあ!」


 ふと竜五が里実を大きな声で驚かすと、里実も里実で驚いて大きな声を出した。


「こら!竜五!そんなんしてる場合か!とりあえず校舎の中に入る方法考えないとダメだろ!」


 僕がそう竜五を叱ると、竜五はニヤリと笑みを浮かべた。


「甘いなぁ、悠。こんなこともあろうかと!ほれ!これなんやと思う?」


 自信満々で竜五が出してきたのは、一つの鍵だった。


「なんだ?その鍵は」


 僕がそう尋ねると竜五はもったいぶってから、まるでひみつ道具を出すかのごとく間を開けて言った。


「ジャジャーン!これなんやと思う?」 


 竜五はそう言うと鍵を二つ出してきた。


「はぁ?なんだよそれ?」


「えっ?」


 里実は僕より一呼吸遅れて驚きの声をあげた。


「いやな。機械部に駒野ていう友達がおってな。いつか学校に忍びこもおもて鍵作っといてもらってん」


「いやいやいや、どうやって?て言うかどこの鍵だよそれ」


「へへ。エントランスと、職員室の鍵やで」


 竜五は笑いながらそう言うが、やってることは立派な犯罪だった。と言うかそんなことが可能なのか?


 そんなことを考えながら歩いていると、もう学校の入り口、エントランスの手前についたようだった。


「いや、でも、そんなのどうやって作らせたんだ?職員室もエントランスの鍵も持ち出せるようなものじゃないだろ?」


「うーん。それに関してはわいも詳しいことは知らへんねんけどな、なんか鍵穴にほっそい棒みたいなんつっこんどったわ」


「細い棒?」


 聞く限りでは全く何をしたのかは伝わってこなかった。


「ま、入れるんや。ええやろ。どうせここまで乗りかかった船や。行くで」


 竜五はそう言うとエントランスの鍵を開けた。鍵はちゃんと本物だったみたいだ。里美の怖がり具合は相変わらずで、話にはずっと参加してこなかった。


 僕たちはまず、他の鍵の置いてある職員室へと向かうことになった。職員室に入る時には本当にいけないことをしている気持ちになってなんとも言えなかったが、莉音の手がかりを探すためだと言い聞かせ、自分を正当化した。


 夜の学校は思っていたほどの怖さは感じなかった。校舎が比較的あたらしいこともあってか、お化けが出るような雰囲気でもなかった。職員室で音楽室の鍵をとった僕たちは、この侵入の目的である音楽室を調べることになった。


 音楽室にまでたどり着いた僕たちは、お互いの顔を見合わせた。


「ここが目的地や。みんな、覚悟はええか」


 竜五の問いに僕と里実は頷いた。


「ああ」


「いい・・・わよ」


「んじゃ、開けるで」


 竜五が扉を開けると、中は真っ暗だった。


「ベートーベンの肖像画言うんはどれや?」


「あ、あそこ。出口のドアの近く」


 里実は音楽室の二つあるドアのうちの僕たちが入ってきたのとは違うドアを指さした。確かにジャンプしても届か

ないぐらいの高さに肖像画らしきものが飾ってあるのが遠目でわかった。


 竜五が真っ先に行くかと思ったのだが、怖がっていないわけではないらしく動き出しは僕の方が早かった。


 壁の方にすこしずつ歩みを進めて行く。


 そして壁から5mほどのところまで近づいたとき。異変が起きた。


 ピカッと。


「え?ピカッ?」


 僕は驚くというよりあっけにとられた。確かにベートーベンの肖像画の目が光ったが、これは、ただの光だ。


「うわっ!光った!って、えっ?これ、ただのライトやん」


「えっ……?あ、ほんとだ」


 竜五がライトという言葉を出すと、里実も怖がるのをやめて肖像画に近づいた。


 よく見ると、ベートーベンの目の部分が切り抜かれ、目立たないように黒く塗られた小さなライトがつけられている。


「本当にただ光っているだけとはな。里実はこれを見たのか。……それにしても誰がこんな仕掛けを?まさか学校が作られた時から?」


「わからんなぁ。でも、これおもろい仕掛けやな。近づいたらライト着くんかいな」


 そういうと竜五は僕たちを肖像画から離れさせ、自分が近づいたり離れたりすることでライトをつけたり消したりし出した。


「まぁでも、これは神隠しの件とは関係なさそうね」


「そうだな」


 里美の意見に同調する。確かにこれはただのいたずらのようだった。僕たちは真実がわかったところで音楽室を離れた。鍵を閉めて職員室に鍵を返したのち、僕たちは学校を離れた。


 結局ベートーベンの犯人はわからないままだったが、ひとまず僕たちは僕の家へと帰って行き、一応の名目だった勉強会の続きを行なった。


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