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美女先輩と神隠し  作者: ロジカル和菓子
2章 ベートーベン
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怖いもの見たさ①

 それから僕は教室へと戻った。


 教室には竜五と里実が待ってくれていた。カバンを置いてどこかへ言ってしまった僕を心配してくれていたのだろうか。カバンを取りに自分の席に戻ると、里実が目の前にやってきた。


「ねぇ、悠。今までどこにいってたの?」


 里実は心配そうに僕の顔を覗き込んできた。昔から嗅ぎ慣れた里実の匂いがふわっと鼻に入ってくる。別にどこだっていいだろと返事しようとしたところで、鶉野先輩の言葉を思い出した。


「ちょっとした用事だよ」


「そんなこと言って、もしかして悠、神隠しについて調べてるんやあらへんの?」


 里実は心配でたまらないと言った表情だ。


「そうやで、悠。もしそうなら独り占めはあかん。あかんで」


 竜五は竜五で腕組みをしながら遺憾の意を表している。


 次の七不思議のこともあるし二人に隠して行動するのも潮時か、僕はそう思った。


「わかったよ。二人には言うよ。一つ先に言っておくと、僕は何を言われようと神隠しの調査をやめない。でも……一つ、わがままを言うなら。できるなら竜五も里実も、協力して欲しい。心配するんじゃなくて、一緒に莉音を探す……僕の力になってくれへん?」


 僕はそう言うと両手を二人の前に出した。僕の言葉は予想外だったようで、驚いた顔で竜五と里実は顔を見合わせた。


「なんや、悠のお願いなんて珍しいなぁ。そんなん答えは決まっとる」


「そうね。ま、一人で隠れてあれこれと探し回られるよりは私の心労も減る……もんね」


 竜五と里実は僕の手をとった。思えばその時、初めて僕は友達を頼るということをしたのかもしれなかった。二人の手は思ったよりも暖かく、手を握り返してくるその力は、想像以上に心強かった。


「でも、竜五は模試はいいの?」


「そんなん、どうにでもなるわ!それに悠に勉強見てもらうのは変わらんねんから。ちょっとぐらい遊んだって大丈夫やろ」


「またあんたは、そうやって舐めた態度とってて入試でギリギリの成績だったの忘れたん?」


「ええねんええねん。あん時もなんとかなったんやから。今度もきっとなんとかなる」


 竜五は大きくうなづくと、僕の方を向き直った。


「莉音ちゃんも、同じクラスのことや。わいらも知らんぷりはできへんしの」


 竜五はそう言うと里実の方を見た。里実もそれに頷いた。


「確かに、悠が心配だから止めてたけど。ずっと人ごとってわけにもいかへんよね」


「うん。あ!そうだ。二人ともこれからうちに来ない?勉強を教えるがてら、今ある情報を二人に伝えたいんだ」


 僕が提案すると、竜五も里実も「乗った」と言ってそれに賛成した。


 そうして改めて神隠し事件の調査隊は僕一人から幼馴染3人組へと増員されたのだった。


 相談役として鶉野先輩がいるのはもちろんのこととして。


 僕の家に集合した竜五と里実に勉強を教える……前に。


 これまでの情報を整理して二人に伝えた。勉強も大事だが、先に気になることを片付けておきたかったから。


「――というのが、七不思議の一つ目。トイレの雅子さんの真相だったんだ」


「はぁ~そんなおもろいことがあったんかいな。ほんまにずるいな。悠」


 竜五はやけに残念がっていた。竜五がいたらいたでもっとややこしいことになっていた気が市内でもないが。


「その、鶉野先輩っていう人は、信用できる人なの?どんな人?かわいい?」


 里実はやけに鶉野先輩について聞きたがってきた。


「まぁ見た目は綺麗だけど。態度は最悪だよ。でも推理力はあるし相談に乗ってくれるから頼りにしてるんだ」


 僕がそういうと里実は訝しげだった。どうやら鶉野先輩を信用していないらしい。まぁ話だけ聞いても普通そうだろう。


「悠ばっか可愛い女の子とイチャコラ出来て羨ましいなこのやろー」


 竜五はふざけてそう僕の脇腹を肘で突いたが、いわれのない罪だ。


「イチャコラしてねーよ。俺がどれだけ苦労したと」


「で!!悠は次の七不思議について知りたいんだよね?」


 里実が大きな声で僕の言葉を遮った。


「そうだよ。里実はそれについて知ってるんだよね。佐藤さんから聞いたよ」


「知ってたんだ。うん。そう」


「ベートーベンの目が光る?だっけ?」


 僕はそのふざけた七不思議の一つを口にした。ばかばかしいというのが第一印象だった。


「ははは、なんやそれ。おもろいやんけ」


 竜五は七不思議を笑い飛ばした。腹を抱えて笑っている。完全にバカにしてるな、こいつ。


「ちょっと竜五!本当なんだって!私見たんだもん!」


 里実は自分がバカにされたように感じたのか、竜五に反抗した。


「わかってるって。別に竜五も里実が嘘ついてるなんて言ってないからさ」


 僕は里実に最低限のフォローを入れた。機嫌をこじらして口をつぐまれても困る。


「ならいいんだけど」


「それじゃあ、その、ベートーベンの目が光るっての、何があったのか聞かせてくれる?」


 と僕が里実に優しく聞くと、里実は語り始めた。


「三週間前ぐらいのことだったんだけど、私、翌日提出の宿題学校に忘れてることに夜気づいてね?車で学校まで送ってもらって、警備に連絡して学校開けてもらったんだけど。教室に宿題を取りに行く途中に音楽室の横を通ったの。そしたら何か光ってるのが見えて。恐る恐る中をのぞいて見たら、ベートーベンの肖像画の目のところが光ってるの!」


 里実がそこまで言ったところで竜五は再び笑った。


「ははは!めっちゃおもろいやん!いいな!それ!見に行こうや!」


 まるで花火でも見に行くかのようなノリで竜五はそう言った。別に里実が嘘を言っていると思っているわけではなかったらしい。


「まぁ、事実を確認するには見に行かなきゃだけど……」


 ちらりと里実の方を見ると、里実は案外怖がっているようだった。


「里実は行くのやめとく?」


 僕がそうフォローを入れたが、あくまで僕を心配しようとする里実の姿勢は変わらないらしく。帰ってきたのは


「いや。私も行くもん」という言葉だった。


 竜五と里実のテンションの差は驚くべきものだった。


「よし。それじゃあ、いつ確かめに行く?」


 と僕が聞くと、里実の方は下を向いて答えなかった。やっぱり行きたくはないらしい。しかし、それに対して竜五の方はというと……。


「そんなん今日やろ!思い立ったが吉日ってやっちゃ」


 全開のニヤケ顔でそう言い放っていた。こういう時の竜五の怖いところは、恐ろしいほど行動力があるというところだ。僕と里実が断らないのを見ると、さっさと電話をかけ始めてしまった。そしてその相手はどうやら竜五の父親のようだった。


「せや!せや!そう!今日は悠んちに泊まってくわ。勉強会!そう!そう!はい!はーい」


 3分ほど話すと電話を切った竜五は僕の方を見てにかっと笑った。里実の方を見ると観念した顔で里実も家に電話を始めた。結局二人とも家には僕の家で勉強会をするという連絡を入れて夜に出歩く口実を手に入れてしまった。まぁ、調査は早い方がよかったのは事実だったんだけど。


「それじゃ、勉強するか」


「そうね」


 僕と里実が学校に忍び込むまでの間を口実通り勉強会として過ごそうとすると、竜五は拒否を示した。


「ちゃうやろちゃうやろ。七不思議についての話するんちゃうんかい!」


 竜五はツッコミのポーズをしながら言った。一人漫才か、多才だな。


「んじゃ他に竜五は七不思議のこと知ってるの?」


「それは……知らんけど」


「なら、今できることは竜五が模試でいい点数を取りつつ七不思議を調べられるように勉強することなんじゃないか?」


 僕が竜五の目を見てそんな正論を吐くと、竜五は何も返せないようだった。でも僕と遊んでいたせいで模試でいい点が取れなかったなんていう状況になって欲しくないのは僕の本心だった。


「はい論破ー。竜五、悠に正論で殴られてやんの~」


 里実はそう竜五をバカにした。里実も成績では竜五に負けず劣らずな点数だった気がするんだけど……。


 そこから僕たちは行方不明事件に首を突っ込んでいるなんていう自覚もなく、ただただ幼馴染同士で勉強するという時間を楽しんだ。


 そして。


 夜になり、僕たちは釘塚高校に忍び込むことになった。


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