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2017年/短編まとめ

甘やかす人、甘やかされる人

作者: 文崎 美生

「……大丈夫、だから」

「そう見えないから、聞いてんだけど」


パーソナルスペースなど存在しないかのような至近距離にいる彼が、苦笑いとも呆れ笑いとも判別出来ない声を上げる。

視線を逸らすことを許さないよう、頬に添えられた両手はまるで溶けてしまいそうなほどに熱い。


そんな些細なことですら、涙腺を緩ます原因になってしまいそうで、下唇を噛み締めて何とかやり過ごそうとする。

しかし、それくらい、彼にはお見通しだったのだろう。

親指がゆっくりと唇の輪郭をなぞって、それを咎めた。


「別に、どんな小さなことでも良いよ」

「……うん」

「愚痴る必要がない程度のことかもしれねぇし、言葉にするのも難しい小さなことかもしんないけどさ。それでも、それでも……何かヤダな程度のことでも頼って貰えるんだったら、それは、彼氏としては有難い話なんですけど」

「……う、ん」

「で、どうして欲しい?」


表情で、声色で、瞳で。

ありとあらゆるもので、愛しいと伝えてくる彼に、いよいよ抑えられるはずもなかった涙腺が決壊し、その背中へと腕を回すハメになってしまう。


本当に?引かない?なんて思いはするものの、緩んだ思考では、その甘ったるい誘惑に勝てるはずもない。

「一緒に、いて、ほしい、です」ようやく口から絞り出したどうしようもないワガママにすら、彼は優しい視線と頷き一つで了承してしまう。


「それくらい、いつでもするから」

「……ごめんね」

「何で謝んの」


心が溶けてしまいそうなほどの暖かい声で「一緒に居るから、甘やかして良い?」なんて聞いてくる彼は、どこまで私を弱虫にさせてくるつもりなのだろうか。

私、彼に出会うまで、もっと強い人間だったのに。


そんなせめてもの強がりですら、笑い声一つで片付けられてしまう時点で、きっと、最初から私には彼に対して、勝ち目など存在していなかったのだ。

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