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004、ダンデライオン

 旅立ちの風が吹く。


 今年も時期が来た。

 私達もとうとうここから旅立つ時が来たのだ。


「おおい! そっちは準備できたか!?」


「待てよ」


「傘はもったか? ちゃんと開くか点検しとけよ!」


「クソッ! 今やってるよ……。よし、大丈夫だ」


 先ほどからヒショーがガチャガチャと何かをやっている。その横で叫び返しているのはトビィだ。

 まったく、準備なんて前日までにすましておくのが当然なのに。


「忘れ物はねえな? おい! フユウ! お前に聞いてんだよ!」


「ないわよ。ていうかね、今からバタバタするなんてあんた達くらいなもんよ?」


「うっせえな、昨日ちょっと酒を飲みすぎて寝ちまってたんだよ!!」


「あらあら、まだ未成年なのに大人ぶるから」


 私は口元を掌で上品に覆いながらからかう。旅立つまでは一人前と認められないのだ。


 まあ、いいか。

 今日の旅立ちが済めば私たちは大人だ。今は無事に都会に辿り着けることを祈りたい。


 改めて自分の荷物を確認する。

 必要な衣服はきちんと畳まれて整理されている、最低限必要な食器類も入れていた。バックパックはレイヤーラミネート製なのでめったなことでは壊れない。上空一万二千メートルからの落下耐久実験にも耐えたすぐれものだ。


 体を捻って着ているものも確認する。

 体にぴったりと貼りつくようなインナースーツ。格関節を守るように外骨格パーツによって補強されている。もしもの時は筋力をアップさせる機構としても役に立つのだ。何度か触ってたしかめ、インフォメーションウィンドウを開いてみるが異常はない。

 その上から羽織っている防寒具も問題なしだ。フードにかわいい黄色の花の刺繍が入っていることが私の自慢である。


 そこでふと私は、友達の忘れ物に気付く。


「トビィ、マスク忘れてるわよ」


「いっけね! これがねえと駄目だかんな。ありがとなフユ!」


 叫びながら走り去って行く友人は、まだまだ幼く見えた。

 私も、似たようなものだろうか?

 

 そろそろ時間だ。どこからか集まり出した旅立つ者たち。今年は五十八人だっけ。

 みんな似たような姿に、旅立ちの広場と呼ばれるココが埋め尽くされる。


 まあ、お金がないものだから、みんなそろいもそろって白い服で。機能性は重視といっても、デザイン性は悪い。そこだけが私の気に入らないところなのだけど。


「よし……! よし……!」


「うるさいわ、ヒショー。あなた緊張してるの?」


「余裕ぶりやがって、そりゃあ緊張だってするさ。フユ、お前はしないのか?」


「まあ、みんな初めてなんだしやってみないとわからないでしょ?」


 ふと、ヒショーが黙り込んだ。

 変な目線を私に投げて来る。


「何よ」


「……一緒のところに、行ければいいな」


「なぁによ気持ち悪い。あんた、そんな奴だったっけ?」


「うるッせえな! へんな風にあたっちまえ!」


「はいはい」


 ヒショーの気持ちもわかる。

 不安なのだろう。


 旅立てばみんなバラバラになる。同じ場所に行きつくなんて、そうそうありはしないのだ。

 まあ、そんな幸運があれば、話くらいは聞いてあげてもいいのかもしれないけどね。


 誰かが叫んだ。


「風が来るぞッ! 一分後だ!!」


 みんなに緊張が走る。

 一斉に傘を開く。塗装も何もない真っ白い傘。

 強化外骨格に接続された傘は、推進力を受けると容易く人の体を持ち上げるのだ。


 膝をかがめた耐衝撃姿勢。マスクを手早く着け、酸素ボンベに繋がっていることをしっかり確認する。


 大丈夫。訓練通りやれば問題ない。

 五十八人が緊張に包まれた。


 飛び立つ時は、一斉だ。






 ――――風が。

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