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其の九

王宮で案内されたのはどうやらヴィクトリア様の私室のようだった。

紅色が主体となったインテリアは華美すぎず、品を感じる。


「来たのね」

大きな窓のそばに立ち物思いに耽けていた様子のヴィクトリア様は細身の白いドレスを着ていて、長い髪をおろしている。


「妃殿下、」

「お姉様よ、エステル」


油断ならないわねと微笑むヴィクトリア様が私の手を取り、肩に手を叩く。


「さあ、行きましょう。みんな待っているわ」

「え? みんなって?」


転移術を使う際に一瞬感じる重力に襲われた後、眼下に映ったのは、朝靄に包まれた青い湖面。大きな湖を囲む緑の茂る白い岩壁からはところどころで滝が流れ落ち、私の足もとに流れる通路の下の川からも湖に注いでいる。


「落ちないでね、エステル。この辺りは普段から限られた人しか入れないようになっているから、柵がないの」

「あ、はい」

かけられた声にはっとして、首に片手で触れる。


崖近くの木立の間の木の通路をヴィクトリア様の後について歩いて行くと、崖際に屋根や窓までついたある程度の大きさの白いガゼボがあった。


「ユリウスの隠れ家よ。本当は自分で連れてきたかったみたいだけどね」

「ユリウス様の……」


ヴィクトリア様がドアを開けて中に入ると内部も白くて、備え付けの白い石のテーブルに、備え付けの壁に沿った円形の木製ベンチ。座面にも形に沿った白いクッションが敷かれ、その上に様々な模様のクッションが何個も置かれている。



私を待っていたのは、オリヴィエ殿下にユリウス様。それから床につきそうなほど長い殆ど白に近い銀髪の、瑠璃色の瞳をした形容しがたいくらいに綺麗な十五歳くらいの女の子、そしてヴィクトリア様。


「えっと……」


女の子が私を見て立ち上がり、深々と頭を下げる。


「座って、エステル」


ヴィクトリア様の声に戸惑いを隠せないまま、腰を下ろす。

ドアの左側からヴィクトリア様、オリヴィエ殿下、女の子にユリウス様、その隣に私という並び順になり、私も座りながらも一礼する。


「あの、失礼ながら、お伺いしたいことがござ……」



「エステル、俺達は誰だと思う?」

「え、オリヴィエ殿下、それはどのような……」


ユリウス様と女の子がこの場にいる理由がわからないけれど、私が呼ばれた理由は保冷剤に関してでは……ないの……?

オリヴィエ殿下の質問の意図が掴めない。


「その前に、自己紹介させてあげて」


ヴィクトリア様が苦笑して、女の子の肩に手を当てる。



「ルーヴァ・セリュメです。自己紹介なんて照れますね」

ほんわかしてる……ってそれどころじゃない。ルーヴァ・セリュメ……ルーヴァは女神、セリュメは名前。


この子は女神のセリュメですと名乗ったことになる。それはこの世界で運命の女神として信仰されている女神様の名前。


そのことに驚いているのは私だけのようで、ユリウス様にいたっては乾いたような笑みを浮かべている。



「女神、様……?」



「わたくしの家が代々神官の家系だってことは知っているでしょう? 神託というと聞こえが良いけど、実を言うとこうしてお茶したり、たまに食事しているだけなの」

「女神様も食事をされるんですか?」

「必要としてはいませんが、食べることは可能です。それから、どうかセリュメとお呼び下さい」

「え、は、はい」

そう言って、テーブルの上に用意されていたティーセットから女神様直々にお茶を入れて、私の前にコトッと、カップとソーサーを出してくれる。


「私、青い色のドレスを着て来てしまいました……」

「神事は白が一般的ですが、今日は神事でもないですし、私は全く気にしません」

「エステルには伝えていなかったし、わたくしは実家に厳しく言われているだけだから、安心して」



「花凛」

「うん。……え?」

ユリウス様が口にした懐かしい響きに耳を疑って、隣に座る彼を見上げる。


新野あらの……先輩?」


「三上ちゃん、俺も」

「もしかして、数馬先輩?」


「ご名答!おめでとう」

「やっと言えた……」


オリヴィエ殿下が拍手をして、ユリウス様が私を引き寄せて髪に唇を寄せる。


「彼氏を名字呼びするのは生まれ変わっても相変わらずなんだな」

「これは癖のようなものだから!」


「あーなんかそのノリ懐かしい」

数馬先輩だと思えば、オリヴィエ殿下の態度も納得出来る。


「でも、どうして?」

でも疑問が次から次に浮かんできて、少し混乱している。

どうしてこんな事態になっているんだろう。


「セリュメ、今回こそ大丈夫じゃないか?」

ユリウス様は神様を呼び捨てにしている。


「そうでしょうか……。エステルさん、前世の死因は覚えていませんよね?」

「あ……そういえば」

「では、思い出しますか? 酷かもしれませんが……」

「恐らく……知る必要があるんですよね」


「エステル……わたくしは皆でナアレアナ国立公園に来たかっただけよ」

「ヴィクトリア」

オリヴィエ殿下が悲しそうな顔をするヴィクトリア様の頭を撫でる。

二人の仲の良さは社交界でも話題になることが多く、私もヴィクトリア様について聞かれたりする。



「エステルさん、失礼します」


瑠璃色の澄んだ瞳がすぐ目の前にあって、吸い込まれると思った瞬間、記憶が鮮明に蘇った。

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