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其の六

これでは気を紛らわせられない。


ドレスを見て込み上げてくる感情が何なのかはっきりわからないまま、ソフィアが手渡してくれた昼用の白いワンピースに袖を通す。


「準備をはじめるのはお昼を食べ終わってからにしよう。ドレスを整えておいてね。私は隣の部屋で作業します」

「かしこまりました」




多分手につかないだろうけど、出来ることなら没頭したい。










階段をおりて手すりから手を離し、玄関に通じる廊下を歩く。魔術のあかりがともる、庭に面した通路に並ぶ窓に映る自分の姿を確認する。


変じゃないかな……。


少しだけゴールドを加えたブラウン系のメイクに髪は編み込みのダウンスタイル。

手に持った小さなクラッチバッグはブルーグレーのものを。


胸元の華奢なシルバーの一粒だけ石のついたネックレスと手首で揺れるブレスレットはユリウス様からいただいたもの……。


数は多くてもプレゼントの中身はほぼ把握している。身に付けた姿を見せるのは今日がはじめてだけど……。


ユリウス様からのプレゼントは高価なジュエリーが多いので、本当は無造作に部屋においておくのは良くないよなあと思っているんだけど、大切にしまい込むのも違う気がして、悩んだ末にあの結果になったんだけど……本当は然るべき場所に保管したい。切実に。



「エステル……!」

廊下と部屋になっている玄関の間のガラスがはめ込まれた両開きの扉の片方に手をかける。

「ユリウス様、お待たせ致しました。本日はお誘い下さり、有難う御座います。この日を心待ちにしておりました」

金糸の縁取りと刺繍が豪華な黒い正装に身を包んだユリウス様が、目を見開いて私を見る。

「やっと……つけてくれたのですね。よく似合う……贈って良かった。それに、今日は一段と綺麗だ」

「いえ、そんな……」


すぐにネックレスとブレスレットに気が付いたユリウス様に罪悪感を覚え、目をそらす。

プレゼントを把握しているのは私だけじゃなく、プレゼントを選んでいるのは、おそらくユリウス様自身だということなんだ。


そんなことにさえ、今日まで気が付かなかった。


「行きましょう」

「はい」


こんなに優しく微笑むユリウス様を見るのは、久し振りかもしれない。

私が断っていたせいもあるのかな。求婚されているはずなのに、同時にこちらを厳しく見定めているような冷たさもあった。なのに今日はそれがない。

それだけなのに急にほっとして肩の力が抜ける。

ユリウス様の腕に手を添えて、エスコートを受ける。




王都へは、転移術で一瞬。

今日はユリウス様の術で、劇場のある区画へ到着した。

このあたりは劇場や美術館博物館の立ち並ぶエリアで、緑も多くて、街並みが整備されているからか雑多な感じがしない。


「夜風が気持ち良いですね」


子爵領では夜に出歩くことも少ないし、夜に出歩く場合は馬車に乗るので、夜の街を歩くことは思いの外少ない。夜会は屋内だし。


「ええ。貴女とこうしてまた王都を歩くことが出来るとは思っていませんでした」

「前回二人で王都を訪れたのは、一年前のことですね」

「あの時は、もっと距離があった」

「そうですね。ユリウス様が前を歩かれて、わたくしはその後を追いかけて」

歩くのが早くて、追いつくのが大変だった。それにあの時、ユリウス様は怒っているようだった。

「歩調のゆるめ方を掴めたかな」

「そうですね、今日は……」


今日一日ナーバスになっていたのは何だったのかと思うくらい、ユリウス様への苦手意識が薄れている。



だけど、だからと言って結婚に前向きになれるわけではなく……。


でも、せっかくだから、今日は楽しんで帰ろう。


夜の街の中、堂々した風格の王立劇場の前はたくさんの人で賑わっている。

私達のようにしっかり正装している人達や、なかにはもう少しラフな装いの人達もいて、私も前世ならそっちだっただろうなと思うのと同時に、前世なら劇場には来てなかったかもしれないと思って、苦笑する。


変われば変わるものなのかもしれない。



「あの、わたくし達の席は……」

「二階の中央ボックス席、一列目です」

「え……」


そこは確か……王族の席として用意されいる、普段は立ち入れない席のはず……。


公爵家か……。


ユリウス様に導かれるまま、人でごった返すロビーを通り過ぎ、しんと静まり返る石造りの、赤い絨毯が敷かれた階段を登る。


階段を登りきった先で白い手袋をした男性スタッフが、ユリウス様からチケットを受け取り、専用の出入り口の扉を開けてくれる。



扉が開いたにもかかわらず、赤い布が天井から垂れ下がり仕切りになっていて、その布を男性スタッフが手繰り寄せて、私達が入れるようにする。



「うわ…」


思ったより広さのある仕切られたスペースには、座り心地の良さそうな赤い椅子が二列並んでいて、一列が五席だけど、他にも誰か来るのかな。


上を見ても下を見ても豪華絢爛な歌劇場で、不思議なくらい気分が高揚している。

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