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其の五

「わたくし達、四人揃って開始時刻を勘違いしていたようで申し訳御座いません……」

「まあ、そんなこともあるのね。でもとても嬉しいわ。よく来て下さいました。皆さんを心より歓迎いたします」


こちらに歩み寄って来たご令嬢達の一人、濃いピンクのドレスを着たカトリーヌ・ワーブルム侯爵令嬢が、背の高いヴィクトリア様をチラチラと見上げるように話す。


私よりも高位の方達ばかりなので礼を取り、静かに控える。


「ヴィクトリア妃殿下…」

「そうね。まだ早いもの、皆で座ってお話しましょう。まずは椅子を……」

「妃殿下、私供がいたしますっ!」

「あ、わたくしが」


ということで、私がヴィクトリア様から椅子を受け取り、四人で座っていたテーブルに六人で座れるように並べなおす。

お茶会の席次は決まっているけれど、予備におかれたテーブルと椅子だから問題ないのだ。


「ありがとう、エステル」

「恐れ入ります」


ヴィクトリア様をはじめ、他の方達が座るのを待って最後に腰掛ける。


「それでは、怖い話でもしましょうか」

「え…」


はしゃいだ様子で手を合わせるヴィクトリア様を止められる人はこの場にはいないようで、四人のご令嬢達は目配せをし合っている。


「では、エステルからね」

「わたくしですか?」

「ええ、そうよ。とびっきり怖いのをよろしくね」

「では、はるか遠い東の国で語り継がれる化け猫のお話しなどはいかがでしょうか?」

「面白そう!ね、皆さん」

「は、はい。珍しいお話が聞けそうですわ」

「わたくしは怖いお話も好きです」

「動物の変身譚ですか」

「東の国ってどちらなのかしら」


「それはもう昔のこと……」



そして、六人全員が話し終えたところで、扉が外から開かれ、大勢のご令嬢達が入ってくる。


「話に夢中になってあっという間だったわ! 皆様ありがとう。ただ、慌てなくてもわたくしは王宮にいるから安心してね? ね、エステル」

「え!? あ、はい」


私も時間を間違えたことになっているのはヴィクトリア様の計らいなのかもしれない。









「はあ……疲れた」

お茶会は終わったけれど、ご令嬢達にひそひそと噂されていたのは気のせいではなかったようで、ルチルが痛く同情してくれた。

ヴィクトリア様も「わたくしはエステルが大事よ」と言ってくれた。


でも、ユリウス様のことは、どうしたらいいんだろう。話せなかった……。



夜着に着替えも済み、ベッドに寝転んで、両腕をベッドの天蓋に向けて伸ばす。

そのままフレームをつくるけど、フレームいっぱいの白い布にむなしくなって、すぐやめる。



……写真撮りたいなあ。



前世、高校では写真部だった。ゆるい部活だったけどみんな仲が良くて、どうでもいいくだらない話ばっかりしてて、なのになぜか休みの日に集まって、黙々と写真を撮ったりしてた。




みんなどうしてるだろう……。

どうなった、のかな。



……もう寝よう。


疲れていたせいか、目を閉じてすぐに眠りはやってきた。










「ごちそうさまでした」

「エステル、もう食べないの? 起きてくるのもいつもより遅かったし」

「はい、今日はあまり食欲もなくて」

家族揃って囲む朝の食卓。勿体無いとは思いつつ、半分食べたところでどうしてもそれ以上食べ進められずに、ナイフとフォークを置く。

「熱でもある?」

「母さん、エステルは劇場に行く日だからじゃないか?」

「そう?」

兄様が苦々しい顔で私を見つめて、お父様は険しい顔で無言のまま手を動かしている。

お母様は、私がユリウス様と出掛けることを内心では喜んでいるらしく、昨晩、カゴいっぱいのスキンケアグッズと香水を持って、私の部屋にやってきた。


「着替えてまいります」

席を立ち、食堂を抜ける私の腕を兄様が掴み、白い封筒を渡される。


「アドルファスさんから?」

「うっかりしてたそうだ」

「ありがとう、お兄様」


早速部屋に戻って、手紙を開く。

「お返事ありがとうございます。さて……」

手紙を小声で読み上げて、デートの日時を窓際のテーブルの上のカレンダーに書き込む。

「よしっと」


沈んでいた気持ちが浮上して、ドレッサーの鏡を見ても、自然と笑顔になる。

会ってみないとわからないけど、兄様が言うように悪い人ではなさそうだし、前に進める気がする。



その前に、まず今日を乗り越えなきゃいけないのだけれど。




「お嬢様、ドレスはいかがなさいますか?」

「ソフィア……。行きたくないわ」

「そのようなことをおっしゃらないで下さい。悲しくなってしまいます」


八年前からミルスティス家に仕えてくれている、私には年齢を教えてくれないソフィアは、二十代後半に見える赤毛の、いつ見ても女性らしい羨ましい体型の持ち主だ。


「そうね……爽やかなブルーがいいかしら」



部屋に入ってきたソフィアがクローゼットのドアを開けて、彼の瞳のような色合いの大人っぽいドレスを取り出す。



「それにするわ」


好意があるわけじゃなくて、あくまでも礼儀として合わせるだけだからと自分に言い聞かせる。


「どうして今日に限って他の予定がないのかしら」

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