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キズナの鬼 小話集  作者: 孔雀(弱)
小話その3 「麗姫の一日」
6/8

「受難の始まり……まずは軽いジャブからいこうか?」

「はぁぁああ!」

「ふッ!」

 なんていう叫び声と一緒に、破壊音やら破裂音が聞こえてくる。

 庭から聞こえるそんな騒音のせいでいやがおうにも目が覚める。まだ六時なのに……。

「ふぁぁ、んゅ……っと、どれどれ?」

 あくびしながら窓から外を眺めると、案の定我が家の金髪と銀髪が死闘を繰り広げてる。

「結構派手にやってるなぁ。ほんと、うちが無駄に広い家でよかったよ……」

 あとは、ご近所さん家が遠いのも幸い。普通なら5分おきに苦情が来るレベルだよこれ。


「あ、おはようございます孔弌さん」

 キッチンに行くと既にリエラが調理の準備をしていた。朝食とはいえ、我が家は大人数だからこうやって早めに準備しないといけない。

「おはようリエラ。表のあれで目が覚めちゃったから、朝は僕も手伝うよ」

 基本的に我が家の料理は僕とリエラ、氷凍で作ってて、たまにテンちゃんやアルテ、アロが手伝ってくれるような感じだ。

「ありがとうございます。ですが、朝の軽食程度私一人で大丈夫ですので休んでいてください」

「あの、僕もずっと横で手伝ってたんだけど」

「あ、氷凍。いたのですか」

「もういいですよ……レタス切ったんで、次は何をすればいいですか」

 なんてやり取りをしながら朝食を作っていく二人の様子を眺める。そう、こうやって常に見つめていないと僕自身氷凍が見えなくなりそうだから……。


「孔弌さんまで、そうやって僕をいじるんですか?」

 くっ、読心だと……!? 僕の心殻壁マインドプロテクトを易々と突破したというのか! こいつ、一体どれほどの瞳を有しているというのだ……。

「いや、声に出てますし」

「まぁわざとなんだけどね」

 異能力者ごっこは楽しいなぁ。

「ごっこというか、私達の場合本当に超常の存在なんですけどね」

 そう言ってリエラと同じようにリビングの方へと視線を向けると、更にその向こう、庭の方で凄まじい爆発が起こっているのが視界に入る。

「今も絶賛人外大戦中ですし」

 違いない……。


「ところで今日はどんな流れで喧嘩になったの?」

「寝ている麗姫さんを無理矢理に起こそうとして、文句の言い合いになって気付いたらって感じです」

「そっか。でもこんな時間に無理矢理起こされたら辛いだろうしなぁ、特に麗姫の場合は」

 麗姫の一日の平均睡眠時間は十四時間超えてると思う。

「最初は麗姫さんの部屋で鳴ってた目覚ましがうるさくて、アルテさんが起こしに行ったのが始まりでした」

 なんで起きらんないのにこんな時間に目覚ましかけてるんだよ……。

「しかし、すっかりいつもの光景だけど、あの二人って前からあんな感じなの?」

 今回みたいな大規模なのはともかくとして、口論での喧嘩なら毎日してるんじゃないかなぁ。

「そもそも私達はあまり仲がよろしいわけでありませんでしたし」

「でもそれ抜きにしても、あの二人の衝突はあの頃から多かったですねぇ」


 と、そんな風に二人から昔話を聞いていたら、丁度目の前で二人が渾身の攻撃をぶつけ合おうという瞬間、眩い閃光が放たれ思わず目を瞑ってしまう。

「うお、眩し!」

 とんでもないエネルギーのぶつかりから生まれた光なんだろうか。頼むから我が家は壊さないでほしい。あと庭も直しておいてほしい。

 なんて事を考えながら、庭の惨状を確認しようとするとありえないものが目に入った。

「な、麗姫……お前その姿……」

 対峙していたアルテもあまりの光景に同様しているようで、珍しく言葉に詰まっている。

 僕も何が起こったのかわからずに呆然と立ち尽くすしかない。だってアルテにもわからない現象を僕の頭が処理し切れるわけないじゃん!(無意味に強気

「一体何が……ん? そなた、何を呆けておるのだ」

 アルテの目の前に立つ見慣れぬ女の子が若干舌足らずな声で偉そうに喋る。

 間違いない、目の前にいるのはあの麗姫……だと思う。だけどその姿って。

「というかそなた、なぜか急に大きくなったのう。一体どのような術を……って、ん?」

 女の子も自分の状態に気付いたのか、自分の手やら体やらを見回して

「な、な、なぁっぁぁぁあ! 何故にわらわの身体が縮んでおるのだ!?」

 小さな女の子の可愛らしい絶叫が朝のアオケに響き渡った。 





「えっと、麗姫なんだよね……」

 なし崩し的に戦いを中断して、アルテと一緒にリビングに戻ってきた童女に声をかける。

「そうだ」

 怒っているのか、なんかぶっきらぼうに返された。まぁいきなり縮んだら不機嫌にもなる……のかなぁ?

「くぅ……」

 悔しそうに涙目で呻き声を漏らす麗姫……やばい、可愛いぞ。

「麗姫、アメをあげよう。はい」

「わらわを子ども扱いすりゅでない!」

 僕がポケットから出したアメを叩き落とすと、麗姫がぷいっとそっぽを向いてしまう。

「ぷく……すりゅって、お前……」

 麗姫が噛んだのがよっぽど面白かったのか、アルテが笑いを堪えようと口元を抑える。


 普段あれだけふてぶてしい麗姫がこんな姿になるんだもんなぁ。そりゃアルテじゃなくてもからかいたくもなるもんだ。

「ええい、笑うな!」

 なんというか、それはとても微笑ましい怒鳴り声のように思える。

「で、結局なんで麗姫はこんな事になったの? アンチエイジングの一環?」

「……知らぬ」

「こんなお手軽に若返る方法があったら、今頃事業を起こしてぼろ儲けしている所だ」

「大人はすぐにそうやって金の話! 金、金、金! そんなにお金が大切かよ!」

「バカみたいに遺産の貯金があるお前がそれを言うとただの嫌味にしかならないぞ……」

 土下座しておこう。


「とは言え……はっきりとした原因はわからないんだが、何となくの心当たりならある」

 すごいや、流石アルテ! 略してすごいアル! おおう、なんか安易な中国人のセリフみたいになった……。

「かつて麗姫は一時的に子供になる術をかけられた事があるんだ。そのせいでこちらの戦力はがた落ちだったんだが……あの時は時間経過で元に戻ったからもう術は解けてると思っていたんだが」

「霊力低下で再発か……あの猫め、とんだ呪いをかけてくりぇたもんじゃな」

 話の内容はよくわからないけど、とりあえずラ行の滑舌がうまくできないのはわかった。

「まぁ今日はお互いに暴れすぎたな。私も反省しよう」

「つまり今までの話を要約すると、アルテとの戦いで思ったよりも力を消耗した→昔かけられた呪いが発動→麗姫子供って事?」

「あぁ。その認識でほぼ正しい」

 って、よく考えると麗姫ってすごい難儀な体質じゃないのそれ。


 力を消耗すると弱体化するって、同格とか格上と戦えないって事なんじゃ……。

「安心せい。余程の事がなければわらわがここまで弱りゅ事などない。ここ十日程は、力を使いすぎたかりゃの。孔弌との二度の戦い、他の十二式神との戦い、その他雑魚、時雨、そこの銀色のちょっかいとかの」

「その分どれだけ寝てたと思うんだ……」

「さぁての」

 アルテの小言を無視して麗姫がこちらに歩み寄ってくる。

「だがまぁ見ての通り、正真正銘わらわは何もできない童となった。という事は何もしなくてもよいという事!」

 最高の笑顔で最低な事を言ってる。確かに言うとおりなんだけどさ、いくらなんでも開き直りすぎでしょ。

「ま、この姿は癪ではあるが、ならばせめて弱者の視点というものをたまには謳歌してみるのもよいか」

 マイペースというか何というか……。子供になっても上から目線が基本スタンスなんだなぁ。

「とりあえず、朝食の時に皆に説明しようか。いつの間にか我が家に知らない子供がいたらビックリだろうし」




「おい、リエリャ」

「はい?」

「なぜわらわの食器が、子供用のものなのだ」

「? 子供だからでしょう?」

「くぅッ!」

 麗姫が悔しそうに歯噛みして、そのうちに観念したのか小さいフォークを駆使してご飯を食べていく。

 いやいやその前に子供用の食器なんかがどうして都合よく家に揃ってるんだ……。

「しっかしほんとに縮んだのな」

 そんな麗姫の様子を見ていたセラが興味深そうにリエラを眺める。

「麗姫、可愛い……」

 晩霞がなんかうっとりしてる……。そういえば最近気づいたんだけど、晩霞はあれで意外と可愛いもの好きだったりする。

 格闘技の試合を録画しながら動物番組を見るというちぐはぐさは正直何とも言えなかったけど。





 そして朝食を終え、皆が一旦自室に戻り始めたところでその事件は起きた。

「みぐ? きゃああぁああ!!?!!」

 この家では聞けないような悲鳴が家中に響いた(しいてあげるなら、たまにリュウの悲鳴が響く)。

「どうしたの!」

 すぐさま現場に駆けつけると、挙動不審な様子のアルテが廊下に立っていた。

「こ、孔弌……」

 涙目で近づいてくると、そのまま僕にしがみついて上目使いにこちらを見つめてくる。くっ、いつの間にこんなあざとい事ができるようになったんだ……。

「あれが、あれが出たんだ……」

「あれ?」


「黒くて、早くて……恐ろしい」

「それってもしかして……」

「ゴキ」

「それ以上言うな、落とすぞ」

 突如会話に入ってきた秋月の首をアルテの剣が撫でていた。

「いきなり何だ……」

「あれの名前を出すなんて、お前は死にたいのか」

 一体どんだけ口にしちゃいけない名前なんだよ……。


「まぁ大体事情はわかったよ」

 ていうかアルテって苦手だったんだ。意外といえば意外なような、イメージ通りといえばイメージ通りみたいな……。わけわかんないからどっちでもいいや。

「そういえばお前は昔から虫系の妖怪とだけは対峙しないようにしていたな。一度本性になった大百足を目の前にした時は、この俺ですら引くほどのむご……」

「言うな……」

 秋月の過去話暴露をアルテが止めさせる。一体どんな事件が起こったんだ……。

「よし、この家に災厄をもたらす存在、俺が仕留めよう」

 はぁぁとかいって、拳に息を吹きかける秋月。まさか素手か? 素手で潰しに行くのか!?

「あ、いた」

 僕の視界の端、ちょろちょろと出てきて壁に張り付いたまま動きを止めた例のあれがいる。

「南無!」

 音速の拳を振り下ろすと、手が触れる前に目標が破裂した。死骸はバラバラになって四散した。


「ひぅ……」

 そしてアルテの目の前に、胴体の破片と思わしき物が転がってくる。

「ひやぁぁああ!?」

 アルテの目の前に光が集まり

「おい、ちょっと待て……」

「消えろぉぉぉお!」

 秋月を巻き込んで、極太の光線が廊下を走った。

「すまない孔弌、必ず後で修理させる……」

 きっと氷凍に修理させるんだろう。可愛そうに。

「しかしこれは由々しき事態だ。すぐに阿保家会議を開くぞ。全員召集だ」

「家長のはずの僕がすごい置いてかれてる感じがたまらないんですけど」

 それから、光線に飲み込まれて外へと消えていった秋月はどうすればいいんだろうか……。





「というわけで、一〇〇〇より例のあれ殲滅作戦”プロジェクトG”を発動する」

 アルテの持ちかけた議題に、アロや晩霞、リエラも同意し決行される事になった。

 作戦名が少し前に放送してたドキュメンタリー番組みたいなんだけど。なお、内容は殺虫剤を焚くだけなんだけど。

 男性陣は割と興味なさそうで、氷凍だけが賛成してたけどそもそも氷凍は頭数にカウントされてなかった。

 そして過半数に達していなくても、女性陣が決めたのなら従うしかない。ここはそういう家庭なのだから!

 なんという男達の立場の低さ……。

 まぁ自分で処理できるといえばできるけど、あんまり進んでやりたかったり見たいわけじゃないしね。一応は僕も賛成なんだけどね。

「僕はフェミニストだからね、ふふん」

 ドヤ顔のリュウがいらついたので、とりあえず脛を蹴っておいた。

「おんぎゃらッ!?」

 膝から崩れ落ちて地面を転がりまわる。


「……リュウうるさい」

 テンちゃんに注意されて、理不尽そうな顔になるリュウをセラやスザクが生暖かい視線で慰める。

 みんな仲いいな……。

 さて、そんなこんなで我が家の害虫駆除が決定したんだけど、これに最後まで抵抗してるのが

「断固として拒否する! なぜわらわが家から追い出されねばなりゃん!」

 幼女×1名

「大丈夫だ。寝るだけなら公園でもできるだろ? 今のお前はただの子供なんだから、年相応の遊び場で寛いでくるべきだ。さぁ行ってこい」

「そなた、わらわを子ども扱いす"る"な! お、おぉ! 噛まずに言えたぞ」

「おーよしよし、偉い偉い」

「だから、それをやめろと!」

 結局、掃除とか準備ができない人は夕方になるまで外に出なきゃいけない事になった。

 強くなれ、麗姫……。



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