「バカ達の就活編」
宣言どおりの短編小話、その第一弾です。
本編であまりフィーチャリングしなかったキャラクターがメインとなる予定(多分)
午後のリビングでいつも通りのんびり過ごしていると、アルテのお小言? が聞こえてきた。
「……お前達、家にいるならいるでせめて何か家事でもしようとか思わないのか?」
僕もソファーに座りながら振り返り、アルテの視線の先を追ってみる。
「何故かリエラと氷凍に『家事はしないでくれ、頼む!』って言われたんだが」
「俺は毎朝晩と家の見回りをして、警備に従事しているぞ」
「ん、呼んだか?」
セラ、秋月、涼夜が三人でトランプをしている。いいなぁ、僕も混ぜてもらおう。
「毎日毎日、遊んだり、好きな事をしたり……主に負担をかけ続ける式神。お前達、使役されているという自覚はあるのか?」
「え? バリバリアリアリ! ッぐほぉっ!」
セラが答えた途端アルテにぶん殴られて吹っ飛ばされた。
「碧鮮はなんか、道で絵を売ったりして微々たるものだが、家庭に収入を入れている」
え、マジ!? それ超初耳なんだけど。僕家長なのに。
「リエラ、氷凍、天奈は家事に勤しんでいる。私や、あのアロでさえも何かの役に立てばとハンドメイド品を出品したり、将来のため資格や経営の勉強をしている」
アロ有能すぎじゃない!?
「意義あり! スザクと晩霞と麗姫は明らかに何もしていないだろ」
復活したセラがバンッと机を叩いてアルテに人差し指を突きつける。
さてはセラ、昨日スザクと一緒にゲームしてたな。
「スザクはああ見えて晩霞が持ってきている内職の一部を手伝ったり、小物を作ってアロと一緒に出品したりしている。もちろん微々たる仕事量だが、何もしない奴に文句を言われる筋合いはないだろう。それに二人とも家事手伝いぐらいはしてるしな。麗姫は……もう諦めた」
「なん……だと……」
セラの表情が驚愕で満たされる。はっきり言って僕も超驚いている。みんないろいろとこれからの事考えてたんだ。
「これではまるでただの居候……。くっ、こんなの、カッコイイ男の姿じゃねぇ……!」
涼夜も何か思う所があるのか、ショックを受けている様子だ。
「確かにそこでアホ面を晒し、ポテチを食べながら舐めきった態度で夏休みの宿題に勤しんでいる孔弌はお前たちに自由にしてていいと言った。だが、そんな現状に甘んじてていいのか?」
ただリラックスしながら勉強しているだけなのにものすごいボロクソ言われてる!?
「そう……だな。俺ももっと生産的な活動をするべきだった」
珍しくしょんぼりとしている秋月。まぁ秋月は結構本気で家の警備してたみたいだけど。
「だが、主の守護をないがしろにして出稼ぎになど行っていいのか……」
「あのなぁ……そもそもこんな神クラス妖怪の伏魔殿に襲撃してくる者なんていないだろ。いたとしたらそいつはかなりのバカだし、半端な奴であれば家にいる誰と遭遇してもすぐに排除される」
いつの間に我が家はそんな混沌とした危険領域になってしまったんだ……。
「よし、こうなったら就活だ。やってやるぜ!」
涼夜がガッツポーズをとって気合を入れている。
「あ、ずりぃ! 俺も俺も!」
続いてセラも涼夜の元に駆け寄って行く。
「就活、聞いた事がある……曰く、それは戦争だと。待っていてくれ孔弌、俺は必ずや勝ち抜いてこの家を裕福にしてみせる」
最後に秋月が僕の方に笑顔を向けて、そのまま涼夜達の所へ駆け寄る。
「確かに俺達はかつて凶悪な妖怪だった。主の利害に関係のある事しかしてこなかった」
「おう。だがな、そんな俺達でも今ならこの広い世界で困っている誰かの力になれるはずだ」
「あぁ。妖怪だって、世のため人の為に働ける! だから誓おう」
『我ら、阿保家に幸を齎すため、名前も知らない誰かを救うため、職を持つ事を!』
わけがわからない口上を打ち合わせなしで言う三人。息ピッタリだな君ら。
「煽った私が言うのもなんだが、凄まじく不安だな」
「じゃ、なんで煽ったのさ!?」
僕だって嫌な予感しかしてないっていのに、これを予見していてなんで檄を飛ばすかなぁ。
「いや、流石にプーばっかりだと面目立たないだろ……」
「結構今更な気がするんだけどなぁ、それ……」
あれから一週間。
セラ、秋月、涼夜は口約通りに毎日仕事を捜していた。
まぁこんな中途半端な時期に仕事を探しても、どうせアルバイトぐらいしか見つからないだろうけど。
「と、思っていました……」
テーブルの真ん中に鎮座するそこそこ大きな鏡を凝視しながら、そんな事をぼやいてみる。
「リュウのコネとは……思いつきもしなかったよ」
「最近みんな忘れてるけど僕は一応この辺の神なんだけど」
僕の周りにはリュウ、アルテ、リエラ、スザク、テンちゃんがいる。
その全員が僕同様に鏡を……正確には鏡が映し出している光景に見入っている。
鏡の中では例の三人が、どこで用意したのかしっかりスーツを着て椅子に座っている。
普段、日常からかけ離れた服装(着流し、山伏風、神父のような全身真っ黒)の3人が現代の正装をしていると違和感アリアリだ。
「リュウさんは私達を封印している間は神社から出られなかったんですよね? それなのに人間の知り合いがいるのですか?」
リエラが小首をかしげながら鋭い質問を言い放つ。すごいな、僕はそんな事全然気にもしてなかった。
「まぁ直接僕の知り合いというより、僕の知り合いの妖怪の知り合いって言ったほうがいいかな」
「あぁ、なるほど」
この町のほぼ全ての妖怪と顔見知りのリュウだ。人の世界に溶け込んでそれなりの地位についている妖怪の知り合いもいるのだろう。
「それに、神社から出られなくても向こうから来てもらえれば会話ぐらいはできたしね。姿は見せられないけど」
「しっ、はじまったようだぞ」
アルテが人差し指を口の前で立て、それを聞いた全員が再び鏡の映像に見入る。
「まさか本当に就職活動を始めて、しかもこんなに早く面接まで漕ぎつくとはな」
「僕のコネも効いてるからね」
そう、あの三人は今、面接試験を受けている。もちろん会社の採用試験だ。
リュウの紹介でとある警備会社に履歴書(リュウ権限によるスーパー偽造書)等の書類を送り、あっさりと面接を受けることになった。
警備会社といっても、全従業員が十人程の小さな会社だ。事務所はこの家から徒歩15分の場所にある。
三人は警備の場所に通い詰める常勤ではなく派遣警備員扱いで、依頼があった時だけ警備の仕事に就く事になっている。
「ところでこの映像って、どういうカラクリなの? どこでも好きなところをのぞけるの?」
「いや、これは僕の龍鳴石の力なんだ。石の持ち主が見ている映像をこの鏡に転送するようにしてあるんだ」
「……ってことは、これは誰かが見てる映像なんだ!?」
「うん。ステルス能力の高い氷凍君に潜入してもらった。多分あの三人にも追跡はばれてないはず」
「………………」
「では、阿保セセラギさん、阿保秋月さん、阿保涼夜さん、部屋に入ってください」
入り口にいるお姉さんが入っていいよの合図を出す。
ていうか三人同時で面接なのか。きっとこういうところでもリュウのコネが効いてるんだな。
でも、コネが効くのはここまでだ。
ここからは正真正銘三人の能力で勝ち進んでいくしかない。
――コンコン。
涼夜が部屋の扉を丁寧にノックする。なるほど、確かに面接のマナーはそれなりに身について……
「どうぞ」
「どもー」
全然身についてないしッ!?
中に入った涼夜のあまりにも軽すぎる挨拶に、思わず立ち上がってマインドツッコミをかましてしまった。
「うぃーっす」
続いてセラも軽い挨拶で中へと入っていく。これじゃただのDQNじゃないか!?
「失礼しますッ!」
よかった、秋月は普通の言葉で入室してくれた。
そのまま静かにドアを閉める。映像の視点もそのまま中へと入っていく。
「阿保涼夜です。よろしくお願いします!」
涼夜は何故か軍人のように心臓の位置に握り拳を置くようにして挨拶をする。
「阿保セセラギです。よろしくお願いします!」
セラは普通に両腕を下ろして、いわゆる気をつけの格好で挨拶を
「阿保秋月です。本日はよろしくお願い致しますッ!」
秋月はなんとも愚かな事に敬礼している。軍人がもう一人いた。
「どうぞお掛けください」
優しそうな顔をしたおじさんがニコニコ笑いながら着席を促す。
どうやらあの適当な挨拶や、今のわけのわからないポーズとかは気にしてないみたい?
「失礼します」
そう言って三人が同時に腰を下ろす。
「えっと、私がこのハッピーセキュリティ社の社長をやっています築山という者です」
何!? このおじさん社長だったのか!?
「どうも。社長の補佐をしております荻生です」
社長さんの隣にいるお姉さんが軽く頭を下げて挨拶をする。
「同じく社長の手伝いをしています、三嶋です」
お姉さんと反対側に座っているお兄さんが挨拶をする。
「じゃ、早速なんだけど自己紹介してもらっていいですかね。一分程の軽いPRもお願いします」
お約束中のお約束だね。流石に皆も想定のうちだろうし、このぐらいのジャブ簡単に跳ね返してくれるよね。
「失礼ながら、お手元にある履歴書に私の名前も自己PRは全部書いてありますけど?」
涼夜ァァァァアッ!? 本当に失礼だな、お前! 喧嘩売ってんの!?
「履歴書が名前以外ほとんど空欄なのですが……PR欄にも黙秘としか……」
よく書類選考通ったな!? コネは偉大だよ、ホントに!
「カッコいい男は多少ミステリアスなモノだからな」
カッコいいかどうかはともかく、身元不明の人に警備される依頼者は気が気がじゃないと思うけど……。
「なるほど、確かに何となくあなたの人物像は伝わりました。では次の人お願いします」
それでいいの!? いやいや、絶対あの人涼夜の事ブラックリストに入れたって!
「次は俺だな……」
ふてぶてしく呟いてセラがゆっくりと立ち上がる。既に嫌な予感BINBINだぜ!
「俺は強い……ッ」
その意味不明な一言だけを残してセラは席に着いた。
だから、何がしたいんだよ!?
「なるほど。警備員にはある程度の力も必要ですからね。わかりました、では次の人」
くっ、きっとコネじゃなかったら二人とももう帰されてるんだろうなぁ……。
「ハッ、自分は阿保秋月と申します。前二人も同じ苗字を名乗っておりますが、家庭の事情というだけで血の繋がりがあるわけではありません。また、とある事情により世間に疎いので余暇は世間の勉強をして過ごしております。それ以外の時間は主人の身の回りの警備をしております。この度は面接の機会を与えていただきありがとうございます」
若干堅すぎる言葉遣いではあるものの、面接という厳かな場面を考えればこの程度は許されるのかな?
兎にも角にも、前二人のふざけきった面接とは比べ物にならないくらいにまともに聞こえた……。
いや、でもやっぱりなんか微妙に軍人調なんだよなぁ……。
「じゃ次の質問だけど、君達はどうしてうちに応募したのかな?」
社長が鉄板クエスチョンを繰り出す。流石にこの質問にはみんなテンプレを事前に用意しているはずだ。
「はい、ぶっちゃけお金を稼ぐ為です。沢山ある中でも特にここを選んだのは知り合いが懇意にしているからです」
色々とぶっちゃけすぎだろ涼夜!?
「同じく」
同じくじゃねーよ!? せめてちゃんと自分の言葉で言えよ! さっきからこの二人やる気あるの? ねぇ?
「自分は元々何かを守る事が好きなので、警備という仕事をしている御社を選ばせていただきました」
いいぞ秋月、もっとやれ!
「守る事が好きというと、今迄にも何かそういう活動を?」
「はい。今は自宅の警備をしております」
事実だけど、それは世間一般ではただのニート発言だよ!
「なるほど。では次はこの業界で働こうと思ったきっかけを教えてもらえますか?」
「はい。カッコいい男になりたいからです」
「カッコいいというと、警備員がですか?」
「何かを守るために戦う奴は……カッコいい!」
「そうですね」
涼夜のわけがわからない言葉は軽く流れた。そして社長の隣にいる女の人がカリカリと紙にペンを走らせている。もう見てられない……。
「俺は、自分の力を誰かの役に立てられるのはここしかないと思ったからです」
「ほぅ。というと、この仕事に向いている何か特技があるのですか?」
「あぁ体が頑丈だ。そして自慢じゃないけど、俺にはそれ以外に取り柄がない……のか?」
「いや、知らないですけど」
ですよねー。
「自分は先ほども述べたとおり、元来何かを守ることが好きなので自然とこの仕事にも興味を持ちました」
「あぁはい。そうですね、では自宅警備をする以前は他に何かしていましたか?」
「以前は日本を滅ぼすために各地で転戦していました。休み無しで七日七晩働き続けるのは当たり前。職務内容も劣悪なものばかりでした。また、常に上司や同僚が剣呑な空気を放っており、あまり恵まれた職場とは言えませんでした」
「はは、面白いですね」
いや、確かに、確かに事実なんだけどさぁ……。もうちょっと場の空気を読んで融通を利かせる事はできないものか。
「弊社についてはどういう印象を持っているでしょうか?」
これもテンプレ質問の一つだ。もちろんみんなも事前にそれなりの答えを……
「カッコイイッ!」
こいつ、まだなめてやがる! 何親指立てて微笑んでるんだよ!?
「ぬるぽ」
こいつもなめてやがるッ!?
「ガッ」
返した!?
「正直、業界シェアを円グラフにしたら間違いなくその他に分類される、これといってパッとしない零細というのが自分の中のイメージです」
ボロクソ言い過ぎだよ!? 面接では正直に言わない方が幸せになれる事も多々あるんだよ! 察して!
「はは、これは痛い事を言われましたね」
もはや社長さんの柔和な笑みが僕はなんだか怖いよ。
「確かに警備業界での弊社の占める割合なんて、それこそ小数点以下の世界かもしれません」
笑みを崩さずにおじさんがしんみりと語る。
「現在この業界はシェア第一位がその大半を占め、二位・三位がようやく続いているといった状態で……。さっきの言葉の通り私たちのような中小企業はそれこそ吹けば飛ぶような存在です」
それは警備に限らず、色んな業界に言える事だろうと思える。大手と渡り合える中小企業なんて少ないだろうし。
「製造やITであれば、大企業のトータルソーシングに組み込まれ、中小でも質を磨いて行く事で利益を増やして行く事は可能でしょう。では、我々のような警備の中小企業はどうすればトップクラスの企業と戦っていけると思いますか?」
なるほど、そうやって秋月の回答を受けてそれを昇華させて次の質問に繋ぐのか。
「はい」
秋月が手を挙げる。また突拍子もないバカな事言わないだろうなぁ……。
「さっきの質というキーワードは警備にも当てはまると思います。人数が少なくても、それぞれの熟練度が高ければ要人警護においては大企業にも引けをとらなくなるかと。そうなれば、難度の高い業務であればあわよくば大企業からの委託なども頂く事ができ、新たな成長への足がかりにもなるかと」
バカにしてたらなんかカッコいいこといってる!?
「なるほど。警備業務分類における身辺警護業務に比重を置いた会社へと育てていくという事でしょうか」
社長さんの方もなんかカッコいいこといってる。
「確かに我々は人数が少ないので、大きな施設などを警備する仕事は今まで辞退せざるを得ませんでした。また、大手のように管理システムや機器を開発するような力もありませんでしたからね。なかなかに的を得ていますね」
どうやら秋月の答えはかなり好感触らしい。よかったよ、ホントよかったよ。
「だろう?」
セラよ! なぜそこでお前がドヤ顔をするんだ!?
「では皆さんには何か警備に役立つ特技はありますか? 武道の段などがあれば是非教えてください」
「はい」
セラが勢いよく手をあげる。まさか、マダンテとか言い出さないだろうなぁ……。
「こう見えて結構強いです」
そう言いながらセラが立ち上がると
「せい」
離れた壁に向かって手刀を振り下ろす。
直後、ズドンという音と共に壁が崩れ去った。
隣の部屋にいたと思しき事務員が、口を半開きにして何が起きたのかわからないいった様子でこっちを見ている。
な、なにやってんだセラ……。
「ほほぉ、これはすごいですね」
え? それだけ!? 反応それだけなの!?
どうやらこのおじさんは既に、頭がゆるくなる程度には老化が進んでいる可能性がある。
「あ、直しておくぞ」
涼夜がおもむろに手を向けると、砕け散った壁が直っていく。
「はい、次は私が」
そう言って、秋月は掌を壁に翳すと壁にスパッと一筋の光が走り
――ズドン
壁が倒れて、またもや向こう側にいる事務員が何事かとこちらを伺っている。
「あ、もう結構ですよ。次の質問にいきましょう。これ以上やると向こう側の彼が本当に倒れてしまうので」
だから、なんであんたはそう普通に受け入れてんの!?
「では弊社に入社しましたら皆さんはどういう仕事をしてみたいですか?」
「カッコいい仕事」
「最☆前☆線」
「直接この手で誰かを守れて、誉れ高い役目を」
なんて抽象的な答え方をする奴ばっかりなんだ……。
「では、どういう上司の下で働いてみたいですか?」
「俺に命令していいのは俺だけですので、上司とかは……。それでもどうしてもっていうなら、正直言うとあなたみたいな人はお断りですかね」
喧嘩売りすぎだろ……。今日は涼夜の不合格祝いパーティーでもしようか。
「俺のすることにいちいち文句言わない奴かな」
何となく言いたい事はわかるけど、セラがその言葉を言うと色々別の意味に聞こえる。
「自分は模範となれるような方の下で働きたいです。っと、あくまでも仕事の関係であって、本来の主は別にいるのでプライベートに干渉してこない上司が好ましいです」
色々めんどくさい奴だな……。
「なるほど。ちなみに給与はどのくらいを希望していますか? 派遣となると待機も多いので決まった額を支給する事はできませんが」
その質問に対して涼夜が指を二本立てる。
二十万か……。それは普通に四大出てる人が、この規模の会社に入ってもまず手取りで貰えないレベルだぞ。
「……ブイッ! あ、働いてるという事実が欲しいだけなので給与はどうでもいいです」
Vサインしただけかい!? なんか殺意湧いた。
「俺も別にどうでもいいかな」
よくないよ! 我が家の収入がかかってるんだよッ! 何のために就職しようとしてるの!?
ていうか涼夜なんて最初に金の為とか言ってたのに、思いっきり矛盾してるじゃん!
「所詮金なんてモンは、自分の残した結果にあとでついてくるものだしな。大切なのは誰かを助ける事であって、対等な報酬が得られるなら拘りはねぇさ」
何ちょっといい感じのセリフ吐いてやがるんだコンチクショー!
「自分も同意です。特にこれといって明確に定めた値はありません。というより正直この世界の物価やレートにはちんぷんかんぷんなので答えられません」
正直に言ったー! この家を幸福にしてくれるとか言ってたのは僕の空耳だったのか!?
「わかりました。では仮に就職が決まったとしていつ頃から入社できますか?」
「ぶっちゃけ毎日暇なんでいつからでも大丈夫です」
「同意だ」
「自分も同じです」
ニートだしね!
「では最後に何か質問はありますか?」
「靴のサイズは?」
なんだその凄まじく関係のない質問は!?
「26です。ほかに何かありますか?」
「奥さんは美人ですか?」
だから、なんでそんな意味のわからない質問!
「家内は世界で最高の女性です」
そして惚気た!
「では他にないようなのでこれで終わります。お疲れ様でした」
社長のその言葉で三人が退出し、今回の面接は終わった。
正直受かるとは思えないちゃらんぽらんな内容だったけど、三人にはいい経験になったんじゃないかと思う。
これにめげないでこれからどんどん色んな求人に挑んでみて欲しいと思う。
後日、自宅に届いた採用通知を手に喜ぶ三人を見て、僕はあまりのショックに言葉を失った。
合否については、リュウはコネとかではないといった。
世の中何が起こるかわからないものだ……。
なお、この小話は次回から涼夜君しか出てこなくなります。