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第85話

 視点がコロコロします。

 どうぞ、ご堪忍ください。


 そいじゃあ、どうじょ(/・ω・)/



 「ふい~、ここまで来れば大丈夫かな?」


 横槍入れてすぐ逃げるというネトゲでやったならブラックリスト入り待ったなしの案件を起こした我々一同。

 よくよく考えてみると質が悪い気がしなくもない。


 「アシュラード様!」


 「ど、どしたぁ?」


 声が裏返ってしまったジャマイカ。

 カゲゾウの声に珍しく危機感が。


 「リッデルの騎馬隊がシルフェウス左軍に突撃し、勢いが止まらない模様です!」


 は?

 

 「ちょ、ちょっと待って。あの場は乱戦状態だったんだよ?どうやって敵だけを倒して行くのさ?」


 「いえ、敵味方関係なしです。道を遮る者全てを屠りながら前進しているようです」


 余計分からんわ!

 ありえないって。

 戦場で味方殺しとか大抵は「軍紀de処刑!」コースだろ。頭のネジぶっ飛んでんの?


 「そして、このまま放っておけば左軍は抜かれかねないかと。そうなると第二王子殿下が」


 だぁぁぁぁぁぁ!

 だから嫌なんだよ。

 転生するまでは深く考えたことなかったけどさ、死んだら終わりな訳だよ。

 もう一回自称神様がチャンスくれる訳でもないし、ゲームみたいにリトライできる訳じゃないし、妄想みたいに無傷でいつも勝てる訳がないんだよ。


 「皆!悪いけどもうひとっ走り頼む!」


 『応ッ!』


 また、走るのか。しんどいだろうなぁ。

 この激走の恨み必ず晴らしてくれようや!




 □■□■




 「そろそろかのう」


 ダンジョウの声は相変わらずのんびりとしたもので戦場にいるということを忘れているのではないかと思うほどであった。


 「ッ!散ッ!」


 一団が飛び退くと彼らがいた場所に複数の矢が降り注いだ。

 正に間一髪であった。


 「なんとも手厚い歓迎じゃのう」


 「・・・・・・」


 それに答えるものは敵にも味方にもいない。

 この場でそんなお喋りができる余裕がある者は二人(・・)しかいないかった。


 「挨拶ぐらい出来んのか、これだから今時の若い者は」


 「・・・・・・」


 「まぁ、よい。儂らはのう別にお主らが何者でも構わんのじゃよ。目的も訊かん。ただのう」


 それまでニコニコと笑っていた好々爺の顔つきが一変する。


 「そろそろ、退いてもらうがよいかの?」


 一斉に忍び装束姿の者たちが矢が飛んで来た方角に向かう。

 そしてそんな彼らに向かって再び矢の雨が降りかかる。


 「うぐっ」


 その矢が一人の腹を貫く。

 貫いた一矢はまるで何事も無かったかのような勢いのまま地面に突き刺さった。


 「厄介じゃのう」


 老人は呟く。

 遠距離からの気配を隠しての射撃。

 木々が所々に立ち、死角が出来やすいのもある。

 足場もあまり良いとは言えない。

 しかし、それらよりもこの敵の技術が何より危険なのだ。


 「ガッ」

 「ぐあっ」


 一人、また一人と忍装束の者が倒れていく。

 残りは片手の数ほどにまで減っていた。


 「まだじゃ」


 老人が腕を振るうと残っていた者たちが一斉に後ろに下がる。

 まるで頭の後ろに目でもついているかのような統率の取れた動きだった。


 ヒュンヒュンヒュン


 ほぼ同時に三本の矢が老人に向けて放たれた。

 どれも急所を狙いながら途轍もない速さであった。


 「おっかない、のっ!」


 奇跡的に避けはしたものの老人の声に余裕はなかった。

 それでも喋れるだけ大したものである。

 

 しかし


 「ぐぉっ」


 老人の─ダンジョウの姿が揺れた。

 衝撃と痛みに老人は片膝をつくだけで耐えた。


 その腹部には四本目の矢が深々と突き刺さっていた。


 「ぬ、ぬかったわ。主らは下がれ」


 老人の顔に脂汗が浮かぶ。

 息をする度に腹部には激痛が走る。


 そして老人の言葉に従って残っていた部下たちは一目散に後退を開始する。

 音も立てないその動きは人間味がなく何処か不気味であった。


 「賞賛」


 姿の見えないその声が引き金となって更に矢の雨が老人に降り注いだ。

 それは深手を負った者への止めとしては些か過剰にも思われた。

 しかし、逆に言えばそれほど敵がこの老人を警戒していたということでもある。


 そして老人は再び笑った。


 「儂も認めよう。主らは優秀じゃ。・・・・・・礼を言おうかの。おかげで」


 老人は悪戯が成功した時の悪童のように素敵な笑みを浮かべた。

 そんな彼が何かを言い終わる前に矢弾が彼に襲い掛かった。




 □■□■




 「左軍が攻めに転じただと!」


 此度のシルフェウス軍首脳部が集まる陣幕の中でこの戦場におけるシルフェウス軍の最高位人物は焦りと怒りの混じった声を上げていた。

 

 「殿下、落ち着きなさいませ」

 「そうですぞ、頼もしい報せではありませぬか」

 「このまま敵陣を突破してくれれば我らの勝利は手中に入ったも同然ですぞ」


 しかし、彼の周りには呑気にこんなことを語る輩が複数いた。

 

 ピキリ


 若き王子の堪忍袋にひびが入る音がした。


 「しかし、攻め上がればその分守りに隙が生まれるのでは?」


 これは至極真っ当な意見で少し考えれば誰でも分かりそうなことである。

 

 「これは異なことを仰られる。それこそ敵の反撃を許さぬよう攻め続ければよいではないですか」


 「そうですよ。それに心配ならばあなたがその出来た隙の守りを固めればよいではありませんか」


 この発言にうつけ王子のフラストレーションキャパが劇的な速さで埋まって行く。

 ラスカルは自身のこの戦いにおける重さを理解していた。

 それなのに、左翼の戦場のカバーに自身の守りを割くという本末転倒な愚策を何の気なしに語る者達を心の中で盛大に罵った。それはもう酷い内容だった。


 「殿下、ここは我らも攻め上がりましょうぞ!そしてその勢いに乗って敵を打ち砕くのです!」


 (己の戦功と栄誉の為に、か?ふざけるな、ここは貴様らの好む夜会などではないのだ!)


 王子の心が急速に荒んでいく。

 腰に下げた剣を振るえば騒がしく不愉快なだけの音も幾らか静かになるのでは、そんな不穏な考えが頭を過る。

 


 皆が皆、という訳ではないが、この者たちの中で第二王子を立場通りの()と考える者たちは少なかった。

 幼い頃より奇行が目立っていたため、言動が大分落ち着いた現在に至っても彼に良い印象を持っていない者は少なくなかったのである。

 

 身から出た錆と言ってしまえば、それまでだが、それでもこの場は国の勝利の為に一つになるべき所なのだ。それをきちんと理解できていない者が多すぎる現状にそれを考えられる者たちは不安と焦りを感じずにはいられなかった。

 

 ここ数年でラスカルに近付いた者たちの中にも、この機を逃がしたくないと目をぎらつかせる者が幾人もいた。国の危機に立ちながらも尚も彼らを動かすのは自らの栄誉と力だった。


 「後詰めに出せる隊などなかった筈だが?」


 王子の声色に意気揚々と攻勢を訴えていた者達の声が止む。

 すると、一人の貴族が手を上げた。


 「殿下、この場では多少危険を冒しても攻めるべき所かと存じます」


 その言い様は駄々をこねる子を優しく宥めるようなものであったが、生憎ラスカルとこの人物は懇意の間柄ではない。


 「ドゥジャン伯、そちの意を述べよ」


 しかし、ここで癇癪を起こし無碍にするようなことをすればそれは自らに跳ね返って来る。

 ラスカルは内心臍を噛みながら発言を促した。


 「はっ、我々は開戦当初リッデルに押されておりました。幾らか押し返したとはいえ、均衡を崩したとは言い難いものがあります。そして、こちらの勢いが戦いの終わりまで続くとは思えません。ですので、ここは勢いに乗って相手の本陣に剣を突き立てるべきかと思われます」


 言い終わると、「尤もでしょう?」と言わんばかりのしたり顔にうつけ王子は殴りかかろうとする自分を何とか御した。

 

 (阿呆が!何の策も打たずに攻め上がることの何処に利がある!)


 ドゥジャン伯が言いたかったのは「機を見るに敏」であるけれど、

 しかし、ラスカルからすればドゥジャンの言は「欲には目見えず」でしかなかった。


 実際、何も考えず攻め上がるなどと言うのは軽挙妄動でしかなかった。

 しかし、功名心豊かな彼らからすると至極当然の考えでもあった。


 「もしや、それに我に先頭に立てなどと言うつもりか?」


 その目には怯えなど一切なかった。

 ラスカルとしても、ドゥジャン伯の考えがこの場における最善の策であればそれは受け入れる気概はあった。それでも彼はこの戦いの神輿として場当たり的な軽挙は取るべきではない、そう考えている。


 「い、いえ、そんなことは」


 その眼光の鋭さに王子を舐めていたドゥジャン伯は口を噤まざるを得なかった。


 「では、誰が率い、どれほどの兵を連れ、どのように攻め上がるのだ?是非とも訊かせてはくれんか?」


 最早、恫喝である。

 しかし、これを紛糾するような阿呆や質問に答えられる勇気と頭脳を併せ持った人物は残念ながら此処にはいなかった。



 ◇



 そのまま、陣内が膠着していると伝令が来たと報せが入った。


 「その者を此処に呼べ」


 王子の一声で雑多な手続きを踏むことなく、その者は御前へと連れて行かれた。


 「苦労だったな。では、頼む」


 「はっ、はい!攻め上がっていた左の戦場にて敵の反撃が!」


 それにドゥジャン伯がニヤリと笑う


 「殿下、聴きました通りです。今からでも援軍を送れば」


 「我はこの者の話を聴いているのだ。誰が貴様に話せと言った」


 一瞬で貴族たちの喧騒が止んだ。

 王子の瞳からは確かに殺意が飛んでいた。


 「すまぬ、続けてくれ」


 「はっ、はひぃ!その反撃に出た敵部隊なのですが、強さが尋常ではなく、このままでは左翼が抜かれかねないと判断した次第」


 その言葉に小言ながらも王子への愚痴を呟く者がいれば、事態を重くとり考えに耽る者もいた。

 しかし、シルフェウス王国第二王子はそのどちらでもなかった。


 「よく知らせてくれた。感謝するぞ。お主の名は何と言う」


 「えっ、は、はい、リコルと申します」


 「リコルよ、疲れておろうが、これからも頼むぞ」


 そう言って席を立ったラスカルは伝令の肩をポンと叩いた。

 この行為にも貴族たちは目敏く反応した、が、王子の一睨みでそれは小言に変わった。


 「聴いたな。敵の部隊、それも恐らく精鋭であろう。そんな隊がこちらに迫って来ている。各自、早急に隊をまとめ、備えよ!よいな!」


 どんな思いを持っていようと皆が一斉に臣下の構えをとる。

 それが恨みであろうと蔑みであろうと。


 一人ぽかんとしていた伝令も慌てて臣下の構えを取った。


 そんな若者の姿にそれより更に若い王子はくすりと笑った。

 戦場だと分かってはいたが、仄暗かった部屋に爽やかな風が吹いたような、ふと、そんな感覚を覚えていた。



 順番は

 主人公→ダンジョウ→ラスカルです。

 読み辛かったらすみませぬ。

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